『夜須川一悟』☆
俺は昔っから人付き合いが下手だ。
なんだかんだで一緒にいるのは翠華だけで、それ以外の奴とは仲良くなれねぇ。
それを尖っていると捉えるのか、中学の時から先輩や不良に絡まれることが多々あった。
だから俺は金髪にして、それなりに体を鍛えた。ピアスまで開ければ絡まれることも減った。同時に誰とも話さなくなったけど。
「別にいい。ナメられなければそれでいい」
そのまま高校に上がっても、俺には友達は作れなかった。
翠華はいても異性で、特別話すわけではない。となれば俺の学園生活は何もないまま過ぎていく――
「これ、落としたよ」
学園生活は何事もなく過ぎていく。
証拠は無くても根拠はある。俺が話しかけず、話しかけられない性格に見た目でしているからだ。
「ああ、どうも」
「そのペンかっこいいね! どこで買ったの?」
「――は? その辺の店だよ」
「そうなんだ、今度行こうよ」
俺に話しかける奴なんて現れない。
ましてや遊びに誘う奴なんて現れない――そう思っていた俺の前に現れたのは、桜井玲紋だった。
こいつは誰かと遊ぶような、友達が多い人間だと思っていなかった。
むしろ俺と同じで、何事もなく時間を浪費していく奴なんだと思っていた。
「気安く話しかけんじゃねぇよ」
俺は遊ぶという選択肢を捨て、突っぱねるを選んだ。
きっとこれでいいんだ。こいつが『話しかける側』の性格をしている以上、俺とつるんでもメリットは無い。
「僕と同じ匂いがしたから話しかけたんだけど……」
「同じ柔軟剤ってことか?」
「違うよ、友達作りにくい性格してるのかなって。まあ気に障ったならごめん。もう話かけないよ」
そう言って、玲紋は立ち去ろうとする。
同じ匂い? こんな話しかけれる奴が、俺と同じ匂いだと? 笑わせんな――
「お前はそんなしょうもねぇ理由で、俺に話しかけたのか?」
去ろうとする玲紋を止め、俺は問いかける。
こんなどうでもいい質問、なんでしてんだ? そう思ったが、玲紋はにこやかに朗んで。
「友達は多い方がいいし、一人もいないのはつまらない。とは言っても、僕は陰キャと呼ばれる存在だから友達を作れない。――けど、差別をしたいとは思わない」
その言葉に、俺はハッとした。
こんな自ら人を突き放す俺を相手にしても、こいつは話しかけてくるのか……?
「ま、まあ……お前が行きたいってんなら、店に行ってやってもいいぜ?」
「ほんと? ありがとう、じゃあ放課後ね」
きっと、玲紋は優しい奴だ。
その優しさに甘える俺は――いつか玲紋を救える日が来たらいいな。
*
時は過ぎて海を終えた部室内。
部長、副部長の玲紋、姫初はまだ来ていなくて俺と翠華の二人空間。
何も考えず、ただすげぇと思って玲紋と五月女の結婚について話かけた。
――刹那、俺は翠華にキスをされた。
何も思っていないと思っていた。
確かに翠華しか俺の周りに女はいなかったし、話しかける勇気すらなかった。
でもそれは単なる背景と同義、翠華も一部と捉えていた。
けれど、キスをしたあとの翠華の紅潮を見てしまうと、俺の胸の高鳴りは激しくなった。
――違う、俺は前にも一回同じ経験をしている。
あれは玲紋が翠華と初めて会った時だ。
玲紋が何を考えながらにやにやしていたのかなんてわかるはずもなく、特に考えることを放棄していた。
――けど、あの時は別段引っぱたいた頭を痛がっていた。それだけ俺の力も入っていたのだろう。
いつもと同じにしているつもりが、無意識下で強くなっている。多分、照れ隠しだ。
だって俺は今、翠華にキスされて確信を得てしまったのだから。
――俺は、翠華がすきなんだと。
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