アフターストーリー

『矢倉翠華』☆

 ボクはきっと、永遠に結婚することはないと思う。

 自分でもわかるほどに、性格が悪いから。


 この性格が災いして、友達を作れることなんてなかった。そんな奴が恋人を作って結婚? ちゃんちゃらおかしいね。


「すげぇよな、玲紋の奴。もう婚約してんだぜ? さすがにそこまでされたら、クラスの連中も見直さざるを得ねぇよな」


 くつくつと肩を揺らしながら、ボクの隣に座っているのは夜須川一悟。

 ただ家が近くで、幼稚園から一緒だった。繋がりはそれだけ。


「ねぇ、いっちゃん」

「なんだ?」


 部室にはまだ姫初と玲紋は来ていない。

 つまりは密室で、ボクと一悟二人きりだ。


「どうしてボクの隣にいるんだい?」

「なんだそれ」


 ボクの質問に疑問符を浮かべた一悟は、小さく息を吐くと。


「部室での座り順的にそうなるだろ」

「そういうことじゃないよ?」

「は?」


 意味がわからず疑問符抜けない一悟に、ボクは思わず吹き出した。


「あはは、いいねいっちゃん。面白いよ」

「知らねぇうちに笑われんのが一番腹立つ」


 ムスッとしてそっぽ向く一悟に、ボクは微笑みながら眺める。

 その視線を感じたのか、一悟はこちらを見た瞬間――


「!?」

「……あはは、こんな感じだったんかなぁ」

「おまっ……なにやって……!」


 ボクは一悟の唇を奪うと、照れ隠しのように背を向けた。


「ありがとうね、一悟。こんなボクと仲良くなってくれて」

「お、おま……どうした」


 いろいろ重なりすぎてパンク状態の一悟。

 だけどボクにとっては前々から伝えたかったことだ。


「んなの、俺も変わんねぇよ」


 その言葉を聞いて、熱くなった顔を冷ましながら振り返る。


「俺も玲紋がいたからよかったものの、翠華がいなけりゃそもそも高校に行ってたかもわかんねぇ。――ありがとうな、翠華」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ! そういうこと恥ずかしげもなく言えるなんて、君は変わってるね」


 再度顔を逸らして、ボクは壁と目を合わせる。

 そんなボクの後ろに一悟は立つと、ぽんぽんと頭を叩いた。


 なんの他意も無いと思う。

 それでもボクは、その大きな掌が懐かしくて胸が熱くなった。


 一悟はずっと、何があってもボクを見限らなかった。

 玲紋をからかった時にも、守るという名目で突っかかっては来たけど、その後は何事もなく話してくれた。

 一悟をからかってもボクを嫌いにならず、海で喧嘩になった時にもボクを守ろうとしてくれた。


 ――知らなかった。けど、知らされてしまった。


 ボクは夜須川一悟、いっちゃんの事が好きなんだと――

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