最終話 『史上最高の婚約者』

 熱くなる顔が一向に治まらないのは姫初も同じようで、無言が数分続く。


 その無言を作った張本人の姫初はくるりとこちらを向くと、熱冷めない顔で口を開いた。


「そ、そういえば一悟と翠華はどうしているのか知ってますか?」

「えっと……あ! やばい、喧嘩を肩代わりしてもらったんだ!」

「ええ!? じゃあ急ぎましょう、玲紋!」


 姫初から差し出された手を握って、僕達は急いで一悟達の元に向かった。


 *


「よお、玲紋。無事会えたみてぇだな」

「うん、会えたよ。ありがとうね、一悟、翠華。……で、君達は大丈夫?」


 僕が一悟と翠華に出会った場所は、更衣室前だった。

 周りには警察のような人、管理人のような方が僕らに喧嘩を売った彼らと共にいた。


「知らねぇよ。まぁ、大丈夫じゃねぇからこの場にいるんだろうな」

「そうだね、でも仕方ないよね。いっちゃん、相手殴っちゃったし」

「ええ!? やばいじゃん」


 彼らの事情を聞き終えた警察が、僕達の元に歩いてきた。

 少し身構えるが、僕以上に一悟の方が身構えていた。やっぱ身分高い人怖いよね。


「今回は彼らにも非があるってことで許しを得たが、君、もう一度謝った方がいい」


 言われて、一悟は無言のまま立ち上がる。

 そして彼らの元に行くと、一悟は頭を下げた。


「悪かった」

「もういい。そこまで友達のためになれる君に、俺達は感激したんだよ。そうやってなれるようなら、あの事も起こんなかったんだろうな」

「あの事って?」

「「気にしなくていい(です)から!」」


 僕と姫初がハモって言うと、みんな一瞬キョドけると同時に彼らが僕の元に来た。


「俺も、お前みたいになりたかったぜ」


 そうつぶやくと、彼らは去っていった。

 警察達ももう終わったとみなしたのか、その場を後にした。


 先に着替えていた一悟達に合わせて、僕と姫初も着替えに向かう。

 終わった頃には既に夕方で、僕達は帰路に着いた。


「にしても災難だったねぇ。君達二人は本当に大丈夫だったのかい?」

「大丈夫どころの騒ぎじゃないよ」


 僕はそこで言葉を区切ると、にひっと口元を綻ばせて。


「僕、姫初と結婚するんだ。もちろん年齢満たしてからだけど」

「ええええええ!?」

「な、なんで姫初が驚くの?」


 問いかけると、姫初は「いえ……」と言葉を濁してから。


「い、言ってしまうんだと思いまして」

「ダメだったかな?」

「……いえ。それだけ想ってくれるんだと思って嬉しいです♡」


 全世界の人類を射抜くその笑顔に、翠華はふっと笑みをもらすと。


「姫初くんが好きなのはよくわかったけど、玲紋くんはどこが好きなんだい?」


 言われて僕は口ごもる。

 どこが好き。その質問をすることはあってもされるとは思ってなかった。


 姫初を一瞥して、自分の気持ちを考える。

 確かにみんなの言う通り、姫初はただ可愛い。きっと僕も、最初はそう思って――


「――違うね。僕はただ可愛くて、そして性格の素晴らしい姫初だから――出会った頃から隣にいてくれたらって思ったんだ」

「ふーん。可愛くて性格がいい……か、それは好きになるね。羨ましい」


 ぽつりとこぼしたのは、多分本音だろう。

 けどそれは今の僕だからよくわかる。


 だって今の僕には――ただ可愛くて、ずっと隣にいてほしいと思える相手、姫初と結婚の約束を果たせたのだから。


「姫初、幸せになろうね」

「はい! 幸せになりましょうね、玲紋」


 僕達は微笑んで、手を繋いだ。

 この先いろいろな災難が降り掛かってくるかもしれない。

 それでも僕には姫初がいるから、どんな事態をも受け入れられる。


 だって姫初は、史上最高の婚約者なのだから――


――――――――――――――――――――


ご愛読ありがとうございました。

一応アフターストーリー4話ありますので、興味のある方はそちらもよろしくお願いします。

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