第28話 『喧嘩』

「俺達? 単なる同中ってだけだけど?」

「今姫初さんに言ったこと、あれはどういう意味かな?」


 ガタイがいいだけに、喧嘩になれば僕に勝ち目はない。

 だから冷静に会話をして、その中から情報を引き出す。


「名前は?」

「桜井玲紋、だけど」

「玲紋くんか。とりあえず彼女と関わるのはよした方がいいぜ? 奴は誰とでも寝る女として、中学では噂が絶えなかったんだからなぁ」

「な……っ!」


 中学のことなんて知らないし、知る方法も現状彼らの言葉だけ。嘘か実か、どっちかはわからなくても僕は嘘であると思いたい。


「そんな事を言って、僕から姫初さんを引き離そうとするのはやめてくれないかな?」

「それが玲紋くんの答えでいいのか? 別に離そうとしているんじゃないぜ? ただの忠告だ」


 にやにやと僕の反応を伺って楽しんでいる様子だけど、姫初の話だけは本意で語っているように思う。

 僕は握っていた拳にさらに力を込めると、それを見ていた彼らはぴくりと反応して。


「おいおい、彼女を守るために――とか言って殴りかかって来る気か? いいぜ、相手してやろう」


 確かにそう捉えられても仕方がないくらいに僕は今、殺気を出していると思う。

 喧嘩になったら勝てない。それを本能が僕に訴えかけている。


 ――だから何?


 勝てないから諦める。昔の僕だったら――守るべきものがなかった僕だったらそうだったかもしれない。


「姫初さんに対して悪く言うのなら、僕が相手になる」

「いいねぇ、おもしれぇ!」


 ゴキゴキと手を鳴らす彼ら二人に、僕は一歩も怯むことなく向かった!


「がっ!」


 一発殴られ、僕は臀部から床に転がった。


「弱すぎんだろ(笑) もう一発で大人しくなるかなっ!?」


 僕は目を腕でガードの構えを取る。

 抗ったところで勝ち目はない。いつか、いつか生まれる隙を突いてやる――


「何やってんだ、玲紋」

「……一悟」


 降り掛かってきた拳を一悟が受け止めると、翠華と共に前に出た。


「大方の話は聞こえた。玲紋、お前の気持ちはどうなんだ?」

「どうって……?」

「五月女さんを信じるのか、こいつらを信じるのかってことだ」

「そんなの、姫初さんに決まってる!」


 僕が言うと、一悟はふっと口元を綻ばせ。


「じゃあこの場は俺に任せて、お前は五月女さんのフォローに行け! 全てを聞いて、その後お前のしたいようにしろ!」

「……ッ! でも、それじゃあまた、僕は一悟に迷惑を……」

「ったく、今更何言ってんだ。散々かけといて一番大事な時に日和るのか? 見損なったぜ」

「ひよってなんか……! 任せる。またいつか、埋め合わせが出来たらいいな」

「そん時は五月女さんも入ってるようにしろよ」


 そこまで言って、一悟は僕から彼らのに視線を移し替える。

 僕はその頼もしい背中を尻目に、姫初の走っていったルートを辿っていく。


「翠華、お前も下がってろ」

「悪いけど、それは聞けないよ。だって――友達を傷つけられて大人しくするほど、ボクはお人好しではないからね」

「……そうかよ。体目当てで狙われても知らねぇぜ?」

「それはいっちゃんが守ってくれると信じてるさ」


 一悟と翠華は口元を緩ますと同時くらいに引き締めて、彼らに対抗と意を表した。

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