最終章 『これが僕達の生き方』

第27話 『姫初』

「海来たね」

「そうだね。ここで2―2で別れない?」

「どういうこと?」


 僕が翠華に問うと、翠華はにひっと笑って。


「水着姿、独り占めしたいんじゃないかい?」

「!? ……でも、せっかくみんなで来たのに」


 未だ更衣室から出てこない一悟と姫初に思いを馳せながら、僕は答える。

 だけど翠華は意に介さず、僕に背を向けて。


「ボクも、少しはいっちゃんと一緒にいたいんだ」

「お、おお……!」


 一悟にも春が訪れる日が来るとは……!

 いつも僕と一緒にいて守ってくれる一悟に春が訪れるのなら、邪魔をするのは間違っている。


「あ、一悟が来た。じゃあ楽しんでね」

「ありがとう、玲紋くん」


 僕は翠華に手を振って、見えない場所まで逃げてった。

 ……でも、感謝を述べるのは僕の方だよ。ありがとう、翠華。姫初との時間を楽しむよ。


 *


「お待たせしました……って、あれ? 皆さんは?」

「翠華の意向で僕達を二人にしてくれたんだ。せっかくだしさ、楽しまない?」

「はい、いいですね! ……どうしたんですか?」


 明後日の方を向く僕に尋ねる姫初だけど、できれば察して欲しい。

 ビキニ姿の姫初なんて、今の僕には刺激が強すぎる! むしろ、僕の水着姿を見ないで欲しい。下的な意味で。


「つ、慎ましいですけど……柔らかさはあるんですよ!?」

「そんな事気にしてないよ!? そ、その……み、見るのにも勇気がいると言いますか、なんと言いますかね……」

「どうして敬語なんですか?」


 そら敬語にもなりますとも!

 ……でも、これを拝めるのは彼氏の特権なんだ。だから――


「――一緒に、泳がない?」

「はい!」


 一瞥した姫初の水着姿は可愛いを通り越して美しく、もはや作品のようだった。

 そして差し出した手を受け取ると、姫初は僕と一緒に海へとダイブした。


 *


 気持ち的にはあんまり時間が経ってないと思っていた。

 だけど実際は昼時で、時間にして三時間は経っていた。


「そろそろ昼ごはんにしようか」

「そうですね。何食べますか?」

「ふふん、やっぱり定番の焼きそばでしょ!」

「ですね! 私も食べたいです!」


 僕達はお金を持って海の家に歩いていく。

 ――刹那、ガタイのいい二人の男性とすれ違った。


 普通すれ違っただけならば何も気にしない。

 だけど僕が彼らを気にしたのは、嫌な予感と視線を感じたから。


 すれ違って数歩歩いたところで彼らは足を止めた。

 くるりと踵を返すと、彼らは口を開いた。


「なぁ、お前五月女姫初じゃねぇか?」

「やっぱりか! 俺も思ったぜ」


 僕はなんで知っているんだろうと脳内で疑問符を浮かべると、姫初は彼らと目を合わせず震えていた。


 そんな姫初の元につかつかと歩いてきた彼らは、肩を掴んで話しかける。


「お前金汰かなた中の五月女姫初だろ?」

「ひ、人違いだと思います……けど」

「その声、やっぱそうじゃねぇか! やっぱり近場に男がいんだな、さすが

「!!!!?」


 姫初はビクリと震わすと、誰にも目もくれず走って行った。


「姫初さん!?」

「けっ、やっぱ隠してやがったぜ。感謝しな、ひょろ男くん?」

「……君達は、一体何者なんだ……!」


 僕は握りこぶしを作って、追いかける前に事情を聞くことにした。

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