第20話 『本心』

「どういうことっスか、小柳先生!」

「どうもこうもない、そのままの意味だ」


 僕は休み時間に呼び出されて職員室に足を運ぶと、脚を組んで煙草を吸う小柳先生が待っていた。

 呼び出し理由は――


「『部』として認められないって……そもそも認められてないんスから、部屋は使っててもいいじゃないっスか!」

「私もそう思っていたんだがな……他の先生がお前らの様子を見た時に、部でもないのに教室を与えるなと言われてな。私のクラスだから私に言ってきたんだろうな」


 ぐうの音も出ない正論に、僕は押し黙るしかなかった。

 見かねて小柳先生は言葉を紡ぐ。


「お前が部ではないが、部を作ろうとしたのは私を持ち上げるためではなく、ただ単純に五月女と話す場所が欲しかったんだろう?」

「もちろんっス」

「そうハッキリ言われると、胸が痛むな……。だが、やはりそういった私情では学校を動かせないということだ」


 確かにこれは僕の私情だ。姫初と話したい、ただそれだけで作った部活。作れてないけど。

 だけど……そう言われて引き下がってはいけない、と思う。


「僕は姫初さんが好きなんスよ! どうにか認めてもらえない……スか!?」

「好きで認めるほど、学校は容易くない」

「……雀呂ざくろ、先生」


 小柳先生をおしのけてやってきたのは、身長二メートル近いゴリラと裏で呼ばれる体育教師、佐陀川さだがわ雀呂先生だ。


「学校が認めるかなんて関係ないんス。確かに自己中な考え方っスけど……それでもクラスが、生徒が認めてくれないならこっそり話すしかないじゃないっスか!」

「それはお前の愛が足りない、そう考えたことはないのか?」


 強面教師に、僕は足が竦む。

 僕に限って愛が足りないなんてことはありえない。けれど、なぜだか言い返すことが出来なかった。


(僕が姫初を好きなのって……姫初しか知らないんじゃ……?)


 彼氏であると言った時も、どこかおどけていた。結局その後すぐに小柳先生が間に入って、僕達は救われた。


「お前は五月女を好きな事を大っぴらにするのが恥ずかしい、だから大声で言うことが出来ない。違うか?」

「違……」

「言葉に詰まるのは結論が出ている。大人しく手を引いて、部をされ」


 正しいけど……違う。それは間違っている。

 僕が姫初を好きなのは紛れもなくて、でもきっとどこかに『恥ずかしい』があるから声に出せていない。


「もう、さっさと別れろ」

「――ッ! そんなこと……佐陀川先生に言われる事じゃない!」


 何を発しているのか、全く分からない。頭は真っ白で、考えが追いついていない――のに、声だけはすらすらと出てくる。


「僕は姫初が好きだ、大好きだ! 先生に何を言われても、どう蔑まれようと……好きな人が嫌ってもいないのに、他人の一言で別れるほど薄っぺらい恋愛はしてない!」


 はぁはぁ……と、息を吐きながらも、僕は思いを告げた。最後の方はしっかり意識がある上で言ってしまった。

 周りの先生も見ている、だけど、『恥ずかしい』は無かった。誰にも伝わらなくても、これは僕が本心で好きである裏返しだと思う。


 もしかしたら退学かもしれない。いや、十中八九謹慎、もしくは退学。

 口を開く佐陀川先生に目を瞑って言い渡されるのを待つと――


「だそうだ、お前はどうなんだ、五月女」

「――え!?」

「あ……えっと、仕組まれました……ね」


 佐陀川先生の言葉を真に受けて後ろを振り返ると、そこにはプリントを持った姫初の姿があった。

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