第19話 『新入』

 昨日の一件でさらに仲が深まった僕達は、さすがにまだ……と校内では部活以外話さないことにした。

 休み時間、いつも通りに前に座る一悟と話を弾ませていると。


「君が桜井玲紋くんかい?」

「……そう、だけど」


 ピンクの髪が特徴的な、可愛いよりはかっこよくて美しいが似合う女子生徒。そして何より、胸がデカい。

 姫初の可愛さとは異なるが、これはこれでモテそうな女の子に横から話しかけられて、僕が戸惑っていると。


「おい、玲紋。五月女さんだけじゃなくて矢倉翠華やぐらすいかとも知り合いなんかよ」

「誰、翠華さんって。てか、僕と姫初さんは知り合いじゃなくてカップル」

「今そこどうでもいいだろ」


 僕達が勝手な会話を進めていると、翠華はくすりと笑って。


「玲紋くんは面白い人だね。――そして、だ」


 知らない人。多分それは僕が周りを見ない、引きこもった性格をしているが故、だ。

 だけど、直感がビシビシ語っている。だと。


 僕はちらと姫初に視線を送ると、敢えてなのか視線を外され――


「ちょっとちょっと、ボクと会話しているのに他を見るなんて酷いなぁ」

「あ、ああごめんね」


 視線を遮るようにして、翠華は前に立つ。

 意図的か、まぐれか。あまりしないけど、僕は眼光鋭くして小さな動きも見過ごさないようにする。


「いやぁん、胸ガン見しないでぇ」

「……は!? え!? し、してないよ!?」


 身体を抱きしめて我が身を守る姿勢を取る翠華に、周りの視線が集まる。

 ……これはまずい。

 ただでさえ僕の評価はだだ下がりなのに、そんな事言われたら――


「おい、あいつ五月女さんと付き合っておきながら……」

「やっぱり姫初さん騙されてるんじゃ……」

「もしかしたら弱みを握られているのかも」


 そうなることはわかっていた。

 絶対に僕が蔑まれていくことを。

 だけど僕は何も言えない。今、否定をしてしまうと火に油を注ぐことになるから。


 悔しんで唇を噛む僕の前に立つ翠華は少し横にズレ、刹那に姫初と目が合った。


「!」


 瞬間に姫初は目を逸らして教科書に意識を向けた。


(……まじ、で?)


 慌てた様子を見受けられた。

 やっぱり翠華の発言がまるまる姫初へのダメージとなったんだろう。

 ……もう、無理かな。


 諦めムードの僕の前に座る一悟は、いきなり立ち上がると。


「わざとらしい演技してんじゃねぇよ。何しに来たんだ、お前」

「言うようになったじゃないか、いっちゃん」

「いっちゃん!?」

「……こいつ、俺の幼馴染なんだよ」


 何その展開。

 ――でも、これってもしかして、一悟のラブコメが始まるんじゃ!?

 にやにやする僕に一悟は照れ隠しか一発引っぱたく。……風でもヤンキー。力つえー。

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