第二章 『不穏な空気は恋愛で』
第17話 『決意』
一日経っての月曜日。
まだ実感が湧かない。あの美少女と謳われている姫初とデートをしていたなんて。
(大丈夫かな!? 何も悪いことはしてない……と、思うんだけど!)
テストと同じ現象が起きている。
ケアレスミスで点を落とすと同じ、僕が気付かぬうちにやらかしている可能性は大いにあるのだ。
(大丈夫、大丈夫……。とりあえず教室入って会釈くらいすれば)
扉に手を掛けてあけると、それなりの注目は集めた。うーん……まだあの件の余波が残ってるみたいだ。
いい目では見られない、想定していても心には刺さる。
あまりきょろきょろするのもあれなので、僕はちらと姫初の席に視線を移す。
が、まだ来ていないようだった。
「よいしょ」
僕は自分の席に着くと、フリスビーを飛ばされた子犬のような速度で一悟が前に座った。
「どうだったんだ?」
「ん? 僕的には成功かなって。姫初さんはどう思ってるかわかんないけど」
「そうか。でも二人で決めて行ったんだろ? じゃあ成功って思った時点で二人とも成功してんじゃねぇの?」
なげやりで、でも的を得た言葉に僕は納得して何度も首を縦に振る。
確かにそうだ、僕達は二人の意思でデートに行って、我ながら文句無しで尚且つ非常に楽しめた。
姫初のいろんな表情を見れたし、可愛らしい仕草や苦手分野までも知れた。
それだけで、僕にとってはデートした価値満載なのだ。
「一悟、たまにはいいこと言うね」
「お前は失礼な奴だけどな」
一悟のツッコミを華麗にスルーして、僕はむんと胸を張る。
「一つ疑問に思ったんだけどさ、二人でいいのか? そういうのって大抵三人か四人だろ」
「…………そんなわけなくない? それはもっとステージ上がらなきゃダメでしょ」
「いや、一番下の話だろ」
……実は一悟、慣れてる?
二股は当たり前。時には女三人やダブルデートも容易くこなすってこと? 僕にはハードル高いよ。
ぽっと顔を赤くする僕に首を傾げた一悟は、正すように告げる。
「部活、人数不足になったら俺の名前入れていいからな」
「……あー、部活。部活ねぇ……はいはい、わっかりましたー」
「なんだと思ってたんだよ」
よくよく考えてみれば、一悟に言った覚えはない。
つまるところ、さっきの納得してしまった一悟の台詞は無と化し、結局は自己満なんじゃないかと思えてきた。
そんな時、姫初が教室にやってきた。
特殊能力が無くとも、わかってしまった。
教室の空気が一変して、姫初のものになったと。本人は多分何も気づいていないと思うけど、クラスの視線の先には姫初がいる。
この時、気づいてしまった。
今は姫初と付き合って僕のもの、と少し強気なことを言っても正される(認められている場合に限る)。
でもこの周りの視線。やっぱり姫初は『僕の』じゃなくて、学校みんなのマドンナだったのだ。
みんなに申し訳ないことをしてしまったな、と少しでも思ってしまった。
ここで姫初と目を合わせるのは、きっと他の姫初に想いを寄せる人に申し訳ない。
だからといって一礼すらしないのは人としてどうかと思ったので、遠慮がちに軽く頭を下げると――きに目が合って。
(やっぱり可愛いなぁ……僕、一昨日あんな美少女とデートしてたんだ。……って、見すぎはダメだよね)
(かっこいいです……けど、あまり目を見ててはいけませんよね。玲紋さんも目立ちたくないと思いますし)
まだ胸を張って彼氏だと言い張れる成果を出していない。
何かを成し遂げた時、僕はもう一度胸を張って「彼氏だ」と宣言しよう。
身体を横に向けたまま俯いて決意を固める僕をジト目で眺め、一悟は茶を啜る。
(俺、蚊帳の外すぎない?)
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