第15話 『当日』

 楽しみすぎる。

 その気持ちは僕の足までも動かして、集合時間十時なのに九時に着いてしまった。

 ふっ、バカだなぁ僕は。スマホゲームで時間潰すか。

 若者ならではの潰し方で、下を向いていると。


「あれ……時間間違えましたか?」

「!? ぜ、全然間違ってないよ!? むしろ早いくらい!?」


 現れないだろう、そう思った時間に出現した姫初に動揺が隠せない。

 だけど、そんな動揺はすぐに消え去って、僕は姫初を凝視。


 淡いピンクのシャツを基調とし、白いカーディガンを羽織っている。

 ミニスカートで露出した足にはタイツで隠し、むしろエロさが増す。


「あーっと……行こっか。公園……は、まだ早いか。水族館に行く?」

「あ、は、はい! いいいい行きましょう!」


 気合いは入れてきた。予定も立てたつもり。

 でも、いざデートが始まってしまうと、全てが飛んで脳が真っ白になった。

 ……僕、大丈夫かなぁ。


 *


「可愛かったね、魚達……」

「そうですね、水も綺麗で……」


 僕達は水族館を出て、適当な会話をする。

 なぜ適当かと言うと。


((頭に何も入らなかった))


 魚が可愛いかなんてわからないよ。だって隣には、世界で一番可愛い彼女が立っていたんだから。

 それで魚に集中しろって方が難しいよ。


(水が綺麗って……正確には水に映る玲紋さんが綺麗って意味なんですけど……伝わってませんよね!? 水越しにガン見してたのバレてませんよね!?)


 お互いに頭の中が真っ白となった現在の時刻は十一時半。

 意外と時間が過ぎていることに驚き半分、それだけ長いこと姫初を見ていたのだと知る。

 ……可愛かったなぁ、姫初。隣にいるけど。

 ――隣に、いるんだよなあ。


「ど、どうよっか!? 公園行く?」

「あ、もう昼時ですか。はい、行きましょうか」


 僕達は近くのそこそこ大きめな公園に歩いていく。

 やばい、多分めっちゃ昼ごはん食べたい人みたいになってる……。間違ってないけど。


 *


 公園の広場、人はそこら辺にいるけど僕達は可愛らしいピンクのシートを敷いてバスケットを真ん中に置く。


「ちょっ、ちょっと恥ずかしいですね……。このシートはミスでしたね」

「そんなことないよ? 僕は凄く心地いいなって思うし、周りの目が恥ずかしいなら僕だけを見てればいいさ」

「――! もう、ずるいですよ……」


 手を握ってそう言うと、僕は刹那のスピードで顔を染める。

 ……今、めっちゃ恥ずかしいこと言っちゃったよね!? ひ、引かれてないよね!?


 僕と姫初はドクドクと鼓動早まる心臓を落ち着かせるべく、一つ深呼吸を入れる。

 そして、話をそらすべく姫初はバスケットから弁当を取り出す。


「凄い……! 朝も忙しいのに、運動会並の量を作ってくれるなんて……! ありがとう、姫初さん」

「い、いえ! 玲紋さんにと思えば苦はなくて楽しかったんです。さ、食べてみてください」

「うん、ありがとう。じゃあ早速だけど卵焼きもらうね」


 僕は箸で摘むと、それを口に運ぶ。


(!? こ、これは……)


 見た目は料亭と遜色ない。

 形が整っていて焦げ一つ無くて、単純で簡単だけど実は難しい卵焼き。だからだろうか――


(めっちゃ不味い!? 実は料理苦手設定付き!?)


「どうですか? 美味しいですか?」

「オイシイデス。ソリャアモウナミダデルホドニ」


 僕は涙を流しながら、サムズアップ。

 煌びやかに光る歯を向け、そこには卵がくっついていたとさ――僕、料理頑張ろう。

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