第12話 『掃除』

 物置のような一室を与えてもらった僕達は、部活をする前に片付けが優先となった。


「汚いね、物どかすだけでホコリが立つよ」

「そうですね。でも、私はこうして玲紋さんと二人で掃除するだけでも楽しいですよ」

「そんなの僕もさ。教室では会話すらままならないけど、今は思う存分話せるもんね」


 ダンボールをどかしながら、他愛のない会話を楽しむ。

 やっぱりいいなぁ、楽しいなぁ。好きな人と好きなだけ話す。

 傍から見ればしょうもなくても、僕にとっては至福のひととき。


「――あっという間だったね」

「たとえ掃除であっても、玲紋さんとなら苦になりませんね」

「そう言ってもらえると僕も嬉しいよ。僕も楽しかった」


 片付け終えると、長机一つと椅子を二つ並べて、対面に座る。

 うう、ヤバい。改めて美少女であると実感すると、途端に顔が見れなくなった。


「どうかしましたか?」

「ん!? んーん、なんにもないよ。あ、そうだ、何かスマホゲームとかやってる?」

「いえ、特にしてません……。何か面白いゲームありますか?」

「まあ、無いんだけどね」


 ………………………………。

 気まずい。どうしよう、なにか作業してた方が会話も弾んで話しやすかったな。


 あ、あの話進めよう。


「土曜日のデート、行きたい場所あるかな?」

「玲紋さんと行けるならどこでもいいですけど……そうですね、て、手作り弁当とか持っていこうかなと思ってます……」

「ほんと!? やった! 手作り弁当って食べたことなくてさ。じゃあ昼頃は公園を歩いて弁当を食べよっか」


 僕の提案に微笑んで頷く姫初に、安堵に胸を下ろす。

 そっか、手作り弁当か。どんなのだろ。キャラ弁とかかな?


 僕はうきうきした気持ちで、デート当日を迎えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る