第10話 『部活』

 部活動。

 過半数以上の生徒はどこかには加入していて、大学行くにしろ就職するにしろ、優位に立てるのは確かだ。


「何がいいかな」

「何ってなんだよ」

「部活動だよ。何かしら活動しなきゃいけないでしょ?」

「おいマジかよ。唐突に正論ぶつけんなよ」


 ラノベだろうが漫画だろうが、学園モノは大概『何かしら』の活動内容をもって部活をしている。

 僕が部活をしたい理由はただ姫初と『話したい』だけ。そんな部活、部と成しえない。


「どうしよう」

「知らねぇよ。なんでもいいだろ、そんなの」

「急に不機嫌」


 どうして不機嫌なのかはわからないけど、キレて飯を食べる姿はちょっとヤンキーっぽかった。性格知ってるから怖くないけど。


「部活してる事バレちゃダメだから……『陰を統べる部』とかかな」

「厨二病すぎんだろ」

「うん、これだね」

「マジか」


 僕のガッツポーズに驚きを隠せない一悟は、ポロリと箸を机に落とす。


「メール打っとこ」

「五月女さんがマシな感性の持ち主であることを祈るぜ……」


 箸を拭きながら一悟は言うが、僕としてはいいネーミングだと思っている。


「知ってる? 陰を統べるにはいろんな意味があるって」

「知らねぇよ。さっき玲紋が言った言葉の意味知ってるわけねぇだろ」


 啄む一悟に、僕はチッチと指を振って。


「ダメだね、一悟は」

「え、なんか今日の玲紋うぜぇな」

「陰を統べるにはね、大なり小なりの事件も解決するって意味なんだ。ハンカチ落としたとか人が死んだから犯人探してとか」

「スケール幅エグ」

「やっぱりね、それくらいしなきゃ認めてもらえないと思う。まず認めて貰わなきゃどうにもならないしね。人来ないけど」


 そんな会話をしているうち、ピコーンとスマホが鳴った。

 スマホゲームの通信を切って、


「あ!? 何切ってんだよ、ホスト玲紋なんだから俺のヤツアイテム手に入んねぇじゃん!」


 姫初からのメールに目を通す。


『なんか凄い名前ですね(笑) でもかっこよくて、私は好きですよ。今日の放課後あたりにでも顧問の先生探しに行きますか?』

『行こう! 先生は誰にしよう』


 姫初は周りにバレないようにメールを返すため、時間がかかる。

 それはちらと横目で見ればわかることなので、僕はその様子を見届けて。


「もっかいやろっか? 次も僕がスタミナ払うし」

「……ちゃんと最後までやれよ?」


「もちろん」と返して、僕は再び通信をはじめる。

 なかなかに面倒なステージをこなしているので時間がかかり、ピコーンと音が鳴った――


「ダメだからな!? あと少し、あと少しで終わるんだからよ!」

「でも、僕にとってこんな通信よりも姫初さんのが大事だし……一悟よりも」

「傷つくこと平気で言ってくんね!? いやでも、あと一個でアイテムが集まんだよ……マジで!」


 葛藤する僕に――ピコーンと音が鳴った。


「あああああああああ!! やりやがったな、てめぇぇぇぇぇ!」

「あ、二回目の妹からだった。なになに……もやし買ってきて? 仕方ないなあ」

「もやしで俺のアイテム消えたんだけど! ……憎むぜ、もやし!」


 一人楽しそうな一悟を放っておいて、僕は姫初からのメールを開ける。


『では、小柳百花先生はどうですか?』


 一番合理的な人かもしれない。

 数学教師兼担任の小柳先生は、全ての状況を知っている。

 でもそれは同時に『賭け』でもある。知っているからこそ了承するのか、知っているからこそ拒否するのか。けど――


『そうだね、放課後バレずに行こうか』


 と、僕は返した。

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