第5話 『不安』☆
「ただいま」
私は靴を脱いでリビングに入る。
その間、ずっと『安瑞』の名前がぐるぐると回り続けた。
誰だったんでしょうか……。やっぱり彼女さんでしょうね。かっこいいですもんね。
ブレザーを脱いでカッターシャツを脱ぎ始めた頃、どたばたと階段が慌ただしくなった。
刹那、ガチャッとリビングの扉が開かれると。
「おねぇ、おかえり――ってうわあ! な、なんて格好してるの!?」
「え? 制服脱いだら下着姿になるでしょう?」
「そそ、そんなはしたない格好リビングでしてちゃダメだよ!?」
「はしたないって、弟相手にそうおもわれます?」
そんなだらしない体型ではないと思いますが……。
瞬間、私にはピコーンと弟の
「もしかして、私の美貌に見蕩れましたか? でも私、Bカップなんですよ。知ってました? 胸を揉むと大きくなるらしいですよ。こ、こんな感じですかね」
「はわわ……お、おねぇ!? おれの前でなにやってんの!?」
「舞童、何慌ててるんですか? 姉弟なんですから、別にそんな慌てなくていいじゃないですか」
私は頬を膨らませて服を着る。
……はっ! も、もしかして私の胸が小さすぎて、『安瑞』さんは胸が大きいからキープしているのではないですか!?
私は……どこで選ばれたんでしょうか。会話はあの一回……顔!? 顔、ですか……。
「お、おねぇ……元気ない?」
「そんなことありませんよ。嬉しさと不安が両立している限りは」
「な……ならおれに話してみてよ! なにか力になれるかもしれないし」
「そうですね。話せば変わるかもしれませんし。――私の彼氏がですね」
「私の彼氏っておねぇの彼氏? ……別の人、別の人だよね!?」
「そんなわけないでしょう」
頭を抱えて項垂れる舞童を見ながら、私はこほんと咳払いして話を進めます。
「で、その彼氏のスマホのメール画面に、他の女の子の名前があったんです」
「……それってつまり、浮気ってこと? これ以上ない美少女でこれ以上ない性格の良さを誇るおねぇ相手に、浮気をしている人がいるってこと!? 別れなよ、そんな人」
「で、でも浮気かは確定してませんし、それに……私、玲紋さんのこと大好きなんです」
「玲紋……覚えたからな」
ぽっと顔を染めて私が恥ずかしがるけど、舞童の眼光は鋭くなっていた。
そんな対称的な性格をもつ姉弟の夜は、更けていった。
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