第4話 『不安』

「ただいまー……」

「おかえり、童貞お兄ちゃん。どしたの、辛気臭い顔して」

「はしたないこというのはやめなよ!? まったく……安瑞あんずはどうして変な言葉ばかり覚えてるの」

「え? 年齢=童貞歴のお兄ちゃん、玄関に突っ立ってると風邪ひくよ」

「心配してるのかバカにしてるのか……」


 促されるがままにリビングに着くと、「話を聞いてあげる」と机を挟んで安瑞が前に座る。

 妹だし、話してもいいかな。このまま話さなかったら、ずっともやもやする気が。


「実は不安なことがあってさ」

「でしょうね」

「話の最中に突っ込まないで? ……でさ、まあ僕今日から彼女出来たんだけどさ」

「ふむふむ……え? え? …………えぇ!?」

「そうさ! 僕、彼女いるんだ! はっははっは! 安瑞、あんまり僕を下に見るなよ!」


 嘘でしょ……と、目を丸くして安瑞は生唾を呑み込む。

 だが、残念ながら事実。そう、僕は姫初と付き合っているのだ!


「相手は誰なの?」

「ふふん、聞いて驚け! あの五月女姫初さんだよ!」

「……」

「……あんまり驚かないんだね」

「妄想に驚くほど、あたしも暇じゃないってことだね」

「妄想じゃないよ!? ほら、コレ見てみ」


 スマホを取り出してメール画面をみせる。


「ほ、ほんとだ……」

「えへへ、どうでいどうでい」

「……何か企んでるんじゃない?」

「え、やっぱそう思う? 近いけど僕の不安はそんな感じだよ」


 ごくりと息を呑んで、僕は事を話す。


「姫初のスマホにさ、舞踏会の『舞』に童顔の『童』って人の名前があってさ。あれって……誰だと思う?」

「本命の彼氏」

「やめて! 言わないで! 現実逃避するって決めてるんだよぉ……」

「じゃあ聞かないでよ」


 話していて面倒になってきたのか、安瑞はお菓子をボリボリ食べ出す。

 いやいやいや、僕にとっては死活問題なんだけど!?


「そんなに不安?」

「そらそうだよ! ……だって僕が今別れてしまったら、この先彼女出来ないと思うし」

「確かに」

「頷かないで!? ……まあ別れる気はないけどね」


 そう、たとえ姫初の本命が舞童だったとしても、僕の誠意ある行動で僕を本命にすることだって出来るはず。

 決意を胸にガッツポーズで気合い入れる僕に、安瑞は小さくつぶやく。


「性欲旺盛でヤりまくってるかも」

「ちょっと黙ろうか!? 小四は小四らしく兄の純情な恋愛を応援しようね!?」


 嫌なこと言う安瑞を黙らせて、僕は手を合わせて祈る。

 ……僕は、本気で姫初を愛してるよ。

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