第4話 ダリアと撫子~待ち焦がれと赤面~
ダリアと撫子~待ち焦がれと赤面~
「あれー? ダリアここで何してんの?」
風が少し冷たく感じ始めた9月の終わり。夕焼けが校舎をオレンジ色に染め、一日の終わりを告げている。
ダリアはクラスメイトの
「恋人を待ってるんデス!」
「え、マジ? ダリア付き合ってる奴いんの? どんな人?」
「んふふー、決まってるじゃないデスカー!
ダリアはハーフで、しかも、綺麗な顔立ちをしているので、どんな仕草をしても可愛い。そんなダリアが、恋人の事を聞かれ、照れながらでも幸せそうに笑う彼女に、美雪もニヤッとしてしまう。
「なぁんだ。恋人って言うからビックリしたー。撫子か、あんた達仲良いもんねー」
「恋人デスヨ! 失礼ナ!」
ダリアが校門前で待っている人物は、
今日は図書委員の仕事があり、帰るのが遅くなってしまうので、ダリアには先に帰っててと告げられているのだが……。
「ワタシはれっきとシタ撫子の恋人なのデス。幼き頃、大きな木の下で、将来結婚すると約束したのデスヨ!」
「あはは、ロマンチックだね」
「ムムム! 信じてませんデスネ!」
ダリアは頬をぷくっと膨らませ、美雪をじっとりとした目つきで見つめる。
「いやいや、信じるよ。アタシは二人の事、応援してるよ」
美雪は優しい目でダリアの頭を撫でる。そして、ニッコリと笑うと、ダリアを撫でていた手で、ダリアの頭をポンポンと二回優しく叩く。
「んじゃ、
「ハイ! また明日デス! 車に気をつけるんデスヨー!」
「あはは、ありがとー」
ダリアは美雪に大きく手を振る。それに答え、美雪もダリアに小さく手を振る。ダリアは美雪が見えなくなるまで手を振り続けていた。
「さてと……んー、撫子はまだデスかネー」
日が沈むのがだんだんと早くなっているので、辺りは薄暗くなり、街灯に光が灯り始めた。
下校する生徒も少なくなり、静かな空気が流れていた。
「んふふふ、ワタシが待ってるなんて知ったら、きっと撫子ビックリしますヨー」
ダリアは撫子の事を思いながら、胸を弾ませていた。
…………………………
「ふう……これでおしまい。ありがとう、島崎さん」
図書室の鍵を閉め、眼鏡をかけた女の子が微笑む。
「いえ……ボクのほうこそ、色々手伝っていただいて……ありがとうございました」
愛梨の横に立っている小柄な女の子、中学生のような容姿をしていて、制服が少し大きいのではという印象を受ける。この子が、ダリアが待ち焦がれる撫子である。
「ふふっ、島崎さんって本当に面白い子ね」
「え……? ボク、何かしましたか?」
「ううん、違うの、ごめんなさい。なんだか島崎さんと話していたら、同級生って思えなくて」
「それは……ボクの背が低いからでしょうか?」
少しムッとした表情の撫子。その反応に愛梨はすぐに首を振った。
「ううん、島崎さんの話し方が、なんだか後輩と喋ってるような感覚になっちゃうのよ」
「あぁ……生まれつきですから、これは」
目線を愛梨から外し、廊下の床に視線を落とす。……生まれつき。撫子はそう自分に言い聞かせていた。
「うん?」
そんな態度の撫子を気になったのか、愛梨は撫子をジッと見つめる。また目が合うのを待っているようだ。しかし、撫子は視線を落としたまま言う。
「そろそろ、鍵を返して帰りましょう。先生が心配しているかもしれません」
教科書が入ったリュックを揺らしながら、撫子が先を歩こうとした時だった。後ろから愛梨の声が聞こえた。
「ねぇ、あれって、ダリアさんだよね」
「え?」
3階にある図書室前の廊下から、ちょうど校門前が見下ろせる。校門前には、ソワソワしたダリアが学校の中をチラチラと見ている姿が確認できた。
「ダリア、何で……」
「誰か待ってるように見えるけど」
確かにダリアには今日、委員会の仕事があって、一緒に帰れないと言ってあった。しかし、撫子の視線の先には、いつものダリアの姿があった。
どうせ、ボクを驚かせるために待っていたんだろう……と、撫子は呆れたようにため息をついた。
「あのバカ……」
「……ふふっ、ねぇ、島崎さん」
「はい?」
「鍵、私が返してくるから、先に帰っていいよ」
クルクルと鍵を指先で回しながら、愛梨はニヤニヤと笑っていた。愛梨にはもう、色々と分かったようだ。
「え……そんなの悪いです。一緒に行きますよ」
「もー、いいってば。早く恋人の所に行かなきゃいけないんでしょ」
「こっ……!?」
恋人という単語に、撫子は赤面してしまう。ダリア以外には滅多に赤面を見せなかった撫子は、さらに恥ずかしくなってしまう。
「……違います! それアイツが勝手に言ってるだけです! 騙されないでください!」
「ふふっ、そうね。そういうことにしておくわ」
「だから……!」
何を言っても愛梨はニヤニヤとしていて、撫子はとうとう諦めた。
「それじゃあ、また明日ね。バイバイ、島崎さん」
「……はい、また明日です」
撫子は少し疲れた表情で、愛梨と別れる。そして、校門前へと向かう足が、少し重たいと感じてしまっていた。
……………………
「ムムムムム……遅いデス。気づけば図書室の明かりが消えていたのデス。なので、もうすぐここに撫子がやってくるはずなのデスが……」
薄暗くなった校舎をジーっと見つめるダリア。すると、校舎から待ち焦がれた姿が見えた。
「っっっ!! 撫子ォォォー!」
ダリアは撫子の姿を確認するや否や、まるで飼い主を見つけた犬のように、走っていった。
「……ダリア」
「撫子ぉー! ンンンー! 撫子デスー!」
ダリアは撫子に駆け寄ると、撫子の有無を言わさず、撫子を抱きしめた。頬と頬をこすりつけ、待ち焦がれた分だけの愛情を注いでいるようだった。
「……ダリア、どいてください」
「嫌デース! 撫子ォ……エヘヘ」
「どかないと、今日、一緒にお風呂に入ってあげませんよ」
「NOー!!」
バッと、撫子から離れる。ダリアは真っ青な表情をしていて、心臓がバクバクと激しく鼓動している。
「それは嫌デス!」
「だったら、普通に帰りましょう」
撫子はため息をついて、ダリアの先を歩く。その後ろからダリアは、少し元気がなくなったようで、トボトボと着いてくる。
「撫子……怒ってマスか?」
「……何で、そう思うんですか」
「だって……言うこと聞かなくて、先に帰らなかったコトとか……」
撫子は、またため息をついて歩みを止める。そして、後ろから着いてくるダリアに振り返り、口を開いた。
「バカ。怒ってないですよ。嬉しかったです。ボクを待っててくれて、ありがとうございます」
ダリアの手を握り、ニコッと撫子は微笑む。
「撫子……」
「外で抱きしめるのはダメですけど……手を繋ぐくらいなら、大丈夫ですよ……」
耳まで赤面した撫子は、ダリアの横に立つ。握った手は熱く、今の撫子の心を表していた。
「撫子ォォォー!!」
ダリアは嬉しさのあまり、早速言う事を聞かずに撫子に抱き着いた。
「言ったそばから抱き着くなバカー!!」
すっかり辺りが暗くなった道は街灯が照らし、仲良く帰る二人を、月が優しく見守っていた。
ダリアと撫子~待ち焦がれと赤面~ END
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