第3話 京香とあんず~夢と友情~

京香とあんず~夢と友情~

 早朝の事であった。

 外では蜩が朝焼けと共に鳴き始め、まだ涼しい風が通り抜ける。


「ねぇねぇ、どっちがいいかなぁ?」

「右」

「そっちはさっきダメって言ってたじゃん! ちゃんと選んでよぉ!」


 部屋の中では洋服が散乱していて、ベットの上では犬塚いぬずか 京香きょうかがグッタリして座っていた。


「もういいじゃん……何でもさぁ」


 京香は、一人ファッションショーを始めた、花房はなぶさ あんずの相手をかれこれ一時間は付き合っている。


「よくないの! だって今日は、京香ちゃんとデートなんだよ!」

「デートじゃねぇっつってんだろ!」

「もー、大声出しちゃダメだよぉー?」


 今日は、二人で映画に行く予定である。そして、昨日から京香は、あんずの家に泊まりに来ていたのだ。

 出発は昼でよかったのだが、あんずが早く目を覚ましてしまい、京香を無理矢理起こして、今に至る。


「まだ5時じゃねぇかよ。とりあえず寝かせろ」

「えー! まだ服が決まってないよぉ……ぅぅ」

「……可愛いから」

「え?」


 京香は、ベットの上に散らかった服をどけて、布団へと寝転がった。そして、あんずに背を向けてボソッと呟く。


「お前は……何着ても可愛いから。何でもいいんだよ……」

「京香ちゃん……」

「ほら、お前も少しは寝たら? 映画で寝たら、感想言い合えねえだろうが……」


 言い慣れていないセリフを言ったせいか、京香は耳まで顔が赤くなってしまった。本人はあんずに見えないように壁を向いているが、あんずにはバレバレである。


「京香ちゃぁぁぁん!!」

「……っぐぅえぇ!?」


 あんずは、京香の上に覆い被さるように飛びかかり、ぎゅっと抱きしめた。


「ちょっ!? 離れろこのバカ! 暑いだろうが!」

「やぁぁだぁぁ! もう京香ちゃんと結婚するぅぅ!」

「しねぇよ! こら! 胸を触るな! 減るだろうが!」

「……減る胸無いよぉ?」


 あんずの頭にポコッと拳が飛んでくる。


「いたぁぁぁい!」


 頭を押さえながら、大袈裟にベットの上にゴロゴロと転がるあんず。


「DVだ! これ知ってる! テレビで観たよ!」

「とりあえず寝ろっ!」

「じゃあ……大人しく寝る代わりに、手ぇつないでいい?」

「はぁ?」


 先ほどとは打って変わって、顔を少し赤らめ、モジモジしている。気味が悪いくらいに雰囲気が変わった。


「……何で?」

「何でって……ダメ……?」


 少し悲しそうな目をして、京香の目を見つめる。京香はそんな目をされて、キッパリと嫌だとは言えなくなってしまう。


「手ぇ……だけだぞ。変なことすんなよ」

「分かってるよぉー。えへへー、やったぁー」


 同じベットに、向かい合わせで寝転がり、互いに手を繋ぎ合う。少し冷たい掌は、心地よく感じて眠気を誘う。


 お互いが喋らなくなり二十分が経った。京香から、静かな寝息が聞こえてくる。


「京香ちゃん……もう寝ちゃった?」


 あんずへの返事はなく、京香は夢の中へと行っているようだ。


「……京香ちゃんって、優しいよね。いっぱい迷惑かけたのに、こうして、最後にはちゃんと手を繋いでくれるし、一緒にも寝てくれる」


 ぎゅっと、繋いだ手の力が強くなる。その手は少し震え、京香を見つめる目には、涙が浮かんでいた。


「……ううん、諦めないから。京香ちゃん……大好きだよ」


 あんずはゆっくりと瞼を閉じ、京香を想い、夢の中へと落ちていく。

 京香と同じ夢の世界へ通じているよう、願いながら。



京香とあんず~夢と友情~ END

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