第2話 凛々子と晴華~布団と遅刻~

凛々子と晴華~布団と遅刻~

 5月。

 GWが終わって数日経ち、世間ではいつもの日常に戻りつつある。

 しかし、ここにいつまでたっても布団から出てこようとしない子がいた。


「おーい。なんでまだ寝てるのかな君は」


 頭まで布団を被っているせいか、新田あらた 晴華せいかの声がくぐもって聞こえる。

 布団に潜り込み、ずっとだんまりを決め込んでいる女の子、名は神崎かんざき 凛々子りりこ。高校2年生。不登校ではないが、最近学校をサボりがちである。


「今日も学校休むのー? ダメだからね、将来困るのはリリなんだからさ」


 晴華はピシッとオシャレをしていて、今から大学へと行くようである。晴華は大学1回生で、家から近い大学へと進学した。


「おーい、ダメだよー、返事してー」


 二人は幼馴染であり、晴華は凛々子のお姉さんのような存在である。


「むー、こりゃあ今日もダメかな。まいったなー、おばさんに何て言おう」


 凛々子の母親は朝早くから仕事があり、晴華が毎朝凛々子を起こしに来るという任務を、自ら志願したのである。


「なぁんでこうなったのかなぁ。一緒に高校通ってる時はこんな事なかったのに」


 晴華は、凛々子のベットに腰掛け、丸まっている凛々子を布団の上から撫でた。


「……ぃ」

「ん? 何か言った?」


 微かに布団の中から凛々子のか細い声が聞こえた。もう少し耳をすましてみる晴華。


「……きら……い……晴華ちゃんなんて……嫌い」

「およ?」


 さらに布団の中から、鼻をすする音も聞こえてくる。泣いているようだ。


「うんうん、やっと話してくれたね」


 上機嫌にポンポンと布団を叩く晴華、そんな態度に凛々子は更に言う。


「……止めて……もういいから、放っておいて……」

「うーん、でもねぇ、おばさんと約束しちゃったしねぇ。学校に行かせるってさ」

「……いいよ……もう、いいから……自分でどうにかするから」


 布団をぎゅっと握りしめ、更に固く閉じこもってしまった。晴華はそれを見て、うーんと唸る。


「いい加減にしなよ。リリ」


 とうとう我慢の限界だったのか、晴華は先ほどまでの優しい声色ではなく、鋭い声色に変わった。

 そんな変化に、凛々子はビクッと震えた。怒った晴華の声を聞くのが久しぶりだったのだ。


「リリが迷惑をかけてるの、私だけじゃないんだよ。おばさんや学校の先生、リリの友達だって心配してる」

「……っ」

「とりあえず、布団から出なよ!」


 バサッと、晴華は凛々子から布団をひっぺはがす。凛々子の力では、晴華には勝てなかったようだ。

 掛け布団を取られた凛々子、その顔は涙で顔を濡らしていた。


「や……見ないで……!」


 泣き顔を晴華に見られ、顔を赤くして、すぐさま枕で顔を隠した。


「ダーメ、私の目を見るの」


 しかし、凛々子はすぐに枕も没収された。


「っ……っっ……うう」

「ほら、見て。そう、いい子だよ」

「晴華……ちゃん……」


 凛々子は、晴華と見つめ合うが、すぐに涙が零れる。


「何で泣いてるのかな? 私、何かした?」

「……それは」


 ぎゅっと、凛々子の手を晴華は優しく握る。そして、優しく微笑む。


「お願い、言って。私、全部受け止めるから……ね?」

「晴華ちゃん……」


 凛々子はしばらく口をモゴモゴさせていたが、少しずつ口を開く。


「晴華ちゃん……もう忘れちゃうのかなって……私のことを……」

「うん?」

「大学、楽しそうで……どんどん晴華ちゃんが遠くに行っちゃうような気がして……それで……」


 また凛々子の目から、じわっと涙が溢れてくる。


「ごめんなさい……気持ち悪いよね……こんなことで閉じこもっちゃうなんて……」

「ううん……嬉しいかな、私は」


 晴華は握っていた手を離し、凛々子を抱きしめた。


「せ、晴華ちゃん……?」

「んふふ、可愛いなぁリリは。よしよし、寂しかったんだね」

「や、やめて、恥ずかしいよ……」


 いつの間にか、凛々子の目からは涙が止まっていた。その代わりに、顔は真っ赤に染まっている。


「でも、学校には行かないとダメだよ」

「ううう……ごめんなさい」

「ほら、行くよ」


 晴華は凛々子に手を差し出し、ニコッと笑う。凛々子も微笑み、晴華の手を握った。


「よしよし。さ、パパっと着替えるよ! ほら脱いだ脱いだ!」

「や……っ!? 自分で着替えれるから晴華ちゃんは出てって!」

「いいからいいからぁー。ほほう、また胸が大きくなったんじゃないの?」

「やー! 見ないでー! 触らないでー!!」


 遠くの学校では、授業開始のチャイムの鳴る音が響いていた。





凛々子と晴華~布団と遅刻~ END

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