第5話 霞の夢と過去
中間テストも終わり、季節の変わり目になり、夏休みが近づいてこようとしていた。
今日は、休みの日だから小説でも書くか。
俺はベッドから起き上がり、机に向かう。
俺は小説を書くことが趣味だ。週末には、web小説サイトに欠かさず投稿している。
俺達の部屋には、ベッドこそ一つしかないが、机はちゃんと二つある。そこだけはしっかりしているようだ。
まぁ明日には、じいちゃんがベッド届けてくれるらしいからあいつと寝るのも今日でおさらばだ。
俺が携帯に小説を書き込んでいると、部屋の扉が開く。
開けた人は、リビングにさっきまでいた霞だ。
霞は俺に目を一瞬合わせるなり、すぐに目を反らす。それも機嫌がわるそうに。
「チッ」
俺は思わず舌打ちをかます。
だが、霞は何事もなかったかのように、自分の机に向かいだし、なにやら勉強を始める。
なにを勉強してるか気になった俺はちょこちょこ霞の机を覗く。
すると、霞に三回目くらいで気づかれる。
「何見てんのよ?」
「べ、別に何も見てないけど?」
おもっきりシラを切る。
「嘘よ。 ほんとのこと言いなさい、言わなかったら……」
そう言い、腕をポキポキ鳴らす。これは正直に話した方がいいか。
「すいません。 見てました」
素直かつ、謝罪も入れる。 これで俺は殴られることはない、完璧だ。
そう思ったのもつかの間、霞は俺に右フックを繰り出す。
ああ、意識が遠のいていく。
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「きなさいよ、」
なにやら声が聞こえてくる。
「起きなさいよ!」
部屋中にパチンっ!という音が部屋中に木霊する。
俺はめが覚めると、「何すんだこのボケ!」と、一発罵声を叩き込む。
罵声を叩き込まずには入られない。ちょっと机を覗いただけなのに右フックをくらわせてくるからだ。
「急に殴ったことは謝るわ。 そ、その悪かったわね」
今日は、やけに素直だ。 こいつの思考は読みづらい。
そこで俺は調子に乗ることにした。
「悪いとおもってんなら、1つくらい頼み事聞いてくれるよな?」
「まさか、あんなことやこんなことを?」
顔を真っ赤にし、まるで変態を見るかのように軽蔑した様子だ。
「違う! そんな事は断じて頼まない!」
いや、本当だよ? 絶対こんなやつとはしない。
「なら、何よ?」
霞はその変態を見るような目を改め、普通の眼差しを俺に向ける。
「お前がさっき勉強してた事を教えてくれ」
何も考えていなかったので、適当に言う。
「い、いいけど……。 でも何で?」
そう疑問を抱えながらも机に置いていたノートを持ってきて俺に躊躇なく渡す。
「え? これって……」
「ええ、医者よ。 私は医者を目指してるの」
俺はスゴいカミングアウトを聞き一瞬思考が停止する。
何秒かして、思考がまた働き始める。
霞が何かモジモジしている……。 何か言わないとキマズイ!
「そ、そうなのか。 でも何で医者なんだ」
素直な疑問をぶつける。
そう問いかけると、霞は淡々と理由を話し始める。
「私が子供のころ、おじいちゃんが病気でしんじゃったの。 その時の私はおじいちゃんの死を受け入れることができなくて、激しくお医者さんを罵ったわ。 でも年をとっていく度にあの時の私はバカだったと思い始めたの。 だから私はおじいちゃんのような大切な人を死なせなくないから、医者になることを決意したのよ」
「そうだったのか」
今の俺にはこう言う事しかできない。夢を本気で追いかけてる奴に趣味しかない俺に何も言えることはない。
少しの沈黙の後、俺は思い口を開く。
「俺は応援するぜ、何せ嫁の夢だからな、頑張れよ」
応援の言葉をかける。
その時、霞の目には確かに涙がこぼれていた。
俺はひどく焦る。
「お、おい! 泣くなよ」
俺は自分の服の袖で霞の涙を拭き取る。
「で、でもこんなにも応援してくれるなんて思ってなかったから」
霞はまた泣き出し、ダムが決壊したかの様になっている。
そして、霞は溢れる涙を何とか拭き取り俺にこう言う。
「ありがとう」
その時の霞の顔はイラつく面影などなく、むしろ支えてやりたいという気持ちがあふれでた。
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