第38話
僕がいきなり話題を変えたので、絵里はとまどったような表情を見せた。
「調べてみたらわかったんだよ、どんな条件があれば乗客どうしで話をするかってことが。それがどんな場合なのか想像できるかい」
「そうねえ・・・・・・私が新幹線に乗ってる場合を想像して・・・・」
絵里は手にしたコーヒーカップに眼を落とし、ほんのしばらく考えてから言った。
「酔っぱらった隣の人から話しかけられたり・・・・棚にあげようとした荷物を落してあやまることだってあるけど、そういうのとは違うわよね、いくらなんでも」
絵里をからかうような口調で僕は言った。「絵里さんって、案外おもしろいことを想像するんだな」
「想像だったらいいけど、誰かさんが、ほんとに荷物を落とした話なのよね、これって」
その言い方がおもしろくて僕が声にだして笑うと、絵里自身もおかしそうに笑った。すっかりうちとけている笑顔だった。
「教えてあげようか」と僕は言った。
「その条件ってむつかしいものですか」
「そうなんだ、むつかしいんだよ。だから隣どうしで話をするのはめずらしいんだ」
「そうね、ずっと並んでるのに、話なんてしないわね」
「隣り合ってる人のどちらかが、先に座席についているわけだよな。そこへ隣の人がくるわけだ。それでさ、1分以内にどっちかの人が隣へ声をかければいいんだよ。ちょっと声をかけるだけでいいらしいよ。そうするとだよ、それから後で互いに話をすることがあるんだってさ。隣り合ってから1分以上も話をしない場合には、大阪までお互いにひと言もしゃべらないそうだよ」
「そういうことだったの。そう言われてみれば、わかるような気がする、その話。おもしいことを研究するわね、大学の先生も」絵里は感心したように言った。
「案外とおもしろいよな、心理学の研究というのも。とにかく、そういうわけだからさ、男と女の間だって、出会ってから1週間なのか、あるいは半年なのかわからないけど、その間にきっかけを作ればいいと思うよ」
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