第24話
野田課長は教えさとすような口調で話した。小宮さんと僕が取り組んでいる仕事は、充分に検討された開発案にもとづいたものである。新入社員が思いついたアイデアを検討している暇はない。社員は与えられた仕事に全力をつくすべきであり、それ以外のことにエネルギーを費やすならば、場合によっては職務怠慢になる。
野田課長の言葉を聞いて僕は混乱し、そして強い怒りをおぼえた。僕は落胆と憤りを胸にしながら自分の席にもどった。小宮さんは僕を見るなり立ちあがり、実験室で話し合おうと僕をうながした。
実験室に入るなり、僕は野田課長に対する怒りをぶちまけた。提案書をまとめるために仕事をさぼったことはない。与えられた仕事に全力をつくしたうえで、さらに努力して提案書を作りあげたのだ。野田課長はそのような僕の熱意を認めようとしないばかりか、課長の方針に忠実ではない部下だときめつけた。野田課長には僕の提案書を検討してみようという気持ちがなさそうだ。そのような提案書を提出したこと自体が、野田課長には不快なことらしい。それどころか、野田課長は職務怠慢という言葉すら口にした。野田課長のあの発言をを許すことはできない。あのような人の下では仕事をしたくない。
小宮さんは奨めてくれた。吉野係長を訪ねて僕の提案書を見てもらい、意見を聞いたらどうか、と。
その翌日、小宮さんは吉野係長に電話をかけて、僕が相談に乗ってもらえるように依頼してくれた。その夕方、僕は吉野係長の職場がある建物に向かった。
笑顔で迎えてくれた吉野さんは、小宮さんから聞かされていたように、気さくで親切そうな人だった。僕がお礼の言葉を口にすると、吉野さんはそれをさえぎるように、「わかってる、小宮くんから話は聞いている」と言った。
吉野さんは空いていた隣りの席の椅子をひきよせ、そこに腰かけるようすすめてくれた。僕は提案書をさしだしてから椅子に腰をおろした。
吉野さんは提案書に眼をおとし、そのまま黙って読みはじめた。僕は高い評価を期待しながら、吉野さんが読み終えるのを待った。
読み終えた吉野さんは、提案書に眼を向けたままで言った。
「入社してから2ヵ月あまりで、こんな提案書が書けるんだから、たいしたもんだよ、君は。小宮くんが感心するわけだよな」
僕はわくわくしながらその続きを待った。
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