第18話

 坂田はさらに続けた。「こんなことも書いてあったな。小学校の低学年では理科好きな子供が多いのに、高学年になると理科嫌いが多くなるというんだ。好奇心を満たすことより、知識を詰め込むことが重視されたり、友達と成績を競わされたりするんだからな、そんな理科がおもしろいはずがないよ」

「おもしろそうな本だな。貸してくれないか。おれも読んでみたいよ」と僕は言った。

 坂田としばらく話しているうちに、彼もまた小学生の頃から理科好きだったことがわかった。そのような坂田と僕は、技術者をめざして同じ会社に入社したのだった。

「どこに配属されるにしてもだよ、新聞社や銀行の仕事よりはおれに向いているはずだからな」と坂田が言った。

 4月の末には辞令が出され、配属される職場が決まるはずだった。

「あのな」口調を変えて坂田が言った。「おれの妹は銀行なんだ」

「へー、そうか。もしかしたら、お前よりも妹の給料がいいんじゃないのか」

「そうだとしゃくだからな、給料の話はやめとくよ、妹とは」坂田は笑いながら応じ、そして続けた。「今度いっしょに就職したんだ、妹も。おれより三つ年下だ。妹は短大でおれが1年ほど浪人したからな。かわいい奴だぞ。会ってみたいと思わんか」

 坂田の言葉と笑顔にうながされ、僕は「ありがとう、なんだか自分に自信を持てそうな気がするよ、お前からそんな言いかたをされると」と応じた。

 儀礼的なその言葉を口にしたとき、心の隅を佳子の影がかすめた。

「だったら紹介するよ、そのうちにな」と坂田が言った。

 坂田の言葉に僕は黙ってうなずいた。佳子のことを話すべきだと思いながらも、雰囲気を壊しそうな気がして口にしなかった。

 妹のことに僕がそれほど興味を示さないと見たのか、坂田はすぐに話題を変えた。   とりとめのない会話に興じていると、いつの間にか話題は政治のことになっていた。政治にはそれほど関心がなかったので、僕のほうから話すことは少なかったが、坂田は社会問題や政治について熱心に語った。

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