第十三話 Heart Doll本店~開店~

 この廻間には、時間も季節も…の存在は無い。いつかの銀狼もそう言っていた気がする。

 いつの間にか、銀狼との時間が過去になっていくような…可笑しな話。


「ねえ、どうして銀狼は私なんかと契約したの?」


 もう私の目の前には、隣には、はいない。

 だから、私はその寂しさに気付かないふりをして…廻間の片隅に“Heart Doll本店”を創った。






 ◆◆◆


 Heart Doll本店のデザインは、何を血迷ったのかお姫様が住むようなお城になった。それにならって庭も綺麗に左右対称に調っている。

 これはもう“お店”じゃないなと苦笑して、ルキは自分の城を見下ろしていた。


「これで外装も中も綺麗にできたし…あとは、だけ」


 ルキは綺麗にならした地に下り立って、この店の商品を考えながら中に入る。誰かいつかの記憶にあるように、メインの部屋には人形達の入るガラスケースを大量に並べ、その隣奥の部屋にはいろいろな薬品や魔法薬、薬草、魔香…ありとあらゆる世界のモノを揃えた。


「地下にお人形を作る工房って、ベタすぎたかな?」


 魔導書や精霊術、陰陽道、魔術本、薬草図鑑、医学、魔法薬の作り方…そんな意味の分からないジャンルを取り揃えた本ばかりが並ぶ部屋の隠し棚の中にる階段を下り、まだ広めのベッドほどの大きさの作業台しかない、誰もいないその部屋にルキは話し掛けているようだった。


「人形の中に魂を入れるなんて、いつかの世界じゃ犯罪行為だし…人間の生きる大抵の世界じゃ禁忌だよね」


 そう思いながらも、ルキは笑う。そんな道理ことなんて、この廻間では些細なことでしかない。


「じゃあ、お人形に入れる魂でも探しに行こうか★」


 いつかの世界の口調でルキは言うと、いつものように廻間に亀裂を入れた。で適当に選んだ世界へと足を踏み入れる。

 さて、此処は誰の生きる世界だろうか。






 ◆◆◆


 ルキが適当に侵入した世界には、石造りの建物が並ぶ。どうやらここは…和風か洋風かと言われれば、洋風らしい。石造りのお城のようなものが目の前に見える。

 ふわり、ふわりと空中から地上へと降りるが、誰もそんなルキには


「本物のお姫様でもいるかな?」


 少しワクワクしながら、ルキは服装をこの世界に合わせて真っ白な、水色のリボンやフリルの付いたワンピースに変えると街を歩き始めた。


 いろいろな出会いと世界巡りを終え、ルキは数人の魂を連れ帰ってはベタすぎる地下の工房でHeart Dollを創った。

 そして、魂が反発すること無くちゃんと定着した者から上の店の方に上がってもらい、自分達の定位置を決めてもらう。


「さて、お店を開けようか★」


 世界の廻間こんなところになんて、来れるお客さんなんてレア過ぎる。

 だから、これから…彼女達とのんびりとお店を始めよう。

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