第二話 休憩〜理由〜
◆◆◆
ここは、ルキがつくりだした世界の理に反した空間。
たとえ時間の神・クロノスでさえ、あるいは四神の頂点に君臨する応龍でさえ…なんびとたりとも干渉できない場所である。
そんな空間に1人いるのはルキだ。この空間に、ルキ以外は存在しない。
「どうして、私は…」
ルキは、静かに呟いていた…その表情は何も映していないようで、よく見れば悲痛を映しているのかもしれない。
「ねぇ、どうして私は…世界を見つづけなくちゃいけないの…?」
「人間の心が汚れきった世界、敵を倒しつづける世界、人間が争いつづける世界…もう、見たくないッ…!!」
いつの間にかルキの瞳には涙が溢れて、頬を流れ落ちていた。
そんなところへ、突然に声が聞こえた。
「お前が、そう決めたんだろう。そういう“生き方”をすると…」
その声の主は遥か昔…ルキが魂の契約をした廻間の権利者、神獣でもある銀色のオオカミ。
「銀狼」
ルキは小さく、彼の名前を呼んだ。
銀狼は、突然に現れたかと思うとルキに近付いて話を続けていた。
「お前は昔、この俺に言った。どれだけ魂にキズをきざもうと、転生するたびにどれだけ泣こうとも、皆が笑っていられる世界のためなら…」
「どんな“悪”にでも堕ちる…どんなに赤く染まっても、どれだけ心を黒く染めてもっ…!!」
溢れる涙を拭うことも忘れて、ルキは銀狼の言葉を奪い取って叫んでいた。
「大切な人たちを守りたかった…でも私は、守れなかった・・・・・」
ルキの魂に刻まれている遠い記憶…ルキが知り得る最も古い、遥か昔のこと。
銀狼と契約をする前…ルキが、この生き方を選んだ“大切な人達とのとても大切な思い出”である。
◆◆◆
「銀狼☆」
笑顔で、ルキは銀狼の名を呼んだ。
「みんなの戦う理由が同じだってことを、世界に伝えることができたなら…誰も泣かずにすむのかな・・・・・」
「フッ…そんなことは、この俺には関係ない」
そう言い銀狼は、来た時と同じように忽然と姿を消した。
その刹那、銀色の優しい風がルキの髪をなでる。
青龍とは違う、銀狼の風だ。
「ありがとう」
ルキはもう、姿も気配も追えない銀狼に小さくお礼を言っていた。
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