銀風の物語(カクヨム版)

第一話 はじまりの契約

 ◆◆◆


 私は、何も守れなかった…




 “神”なんて、なにもしてくれない。


 世界を司る神なんて、何の意味ない!




 私は、ただ…


 みんなと一緒にいられれば…それでよかったのにっ…!!



 なんで…?


 どうして…?


 私は何処で、間違った?


 何をえらべば“正解”だった…?






 ◆◆◆


 足が地に着いていない感覚…


 霊神力を使って空を宙いていた感覚とも違う、気がする…


 そう…


 空とか地面とか、そんなの無い。正に浮いている感じ…




 瞳を開けたら、暗闇の中。


 何も見えない。


 キコエナイ...


 そんな私に「ここはどこ?」なんて、


 可愛らしい疑問は、私の中に存在しない。




 感覚で解る。


 ここは無数に…いや、無限に存在する世界と世界の廻間。



 だてに、“青龍の巫女”だった訳じゃない。


 だてに、世界を司る神である応龍の声をきく、えらばれし“応龍の神子”の支えをしていた訳じゃない!!


 それなのにっ…!!


 何でっ…


 私は…




 ナニモマモレナカッタ…






 ◆◆◆


「珍しいな。この廻間にいて消えねぇなんて…」



 すると突然に、どこからか、声がきこえた。


 たぶん、男の声?


 でも、どこか…神々しいような、私の心を惹き付ける・・・・・



 不思議な“音”



「フッ…この俺を欲っするか、おもしろい」



 すると、暗闇に一瞬にして現れた“銀色のオオカミ”がいた。


 その姿は、暗闇に光り耀き、また“悪”でもあるような…


 “不思議な存在”、だと感じた。



「俺の姿を見ても驚かないのか…」



 さっきの声は、この“銀色のオオカミ”らしい。


 驚かないも何も…


 私はくにを守護して民を導く四神の1つ、青龍の巫女だった...



「フッ…青龍の巫女ねぇ…何処の世界かは知らねぇが、其れなりの霊力だか神力だかを持っているわけだ」



 え…?

 私は今、しゃべっただろうか…?



「何だ、気付いてねぇのか…」



 何??


 どういう意味?


 何で笑うの!?



「お前には、肉体がない。お前は今、魂とか心だけの存在だ。」



 たましい?



 …肉体が、



 私は、瞳を動かして自分を見る…

 

 だけど、何もミエナイ・・・・・



 何かが、私の中で…



 ーーーコワレテイク



「何だ。案外脆いな」



 “銀色のオオカミ”が

 見えなくなっていく…



「フッ…その程度か。つまらないな。」



 彼の声が、私をバカにするような笑い声が、どんどん遠くなって逝く・・・・・






 ◆◆◆



 なつかしい…



 青い風が吹いた気がした…



「風姫、ルキ…我の声が届くなら、もう一度だけ…その姿を見せてくれ・・・・・」



 消え逝く意識の中…


 懐かしい“声”がした


 “青龍”



 こんな私を、初めて必要としてくれた“神様”…



「ルキ…もう、我の声に応えてはくれぬのか?」



 ああ、そんな寂しそうな声で呼ばないでよ


 私は、“先代”の青龍の巫女だよ?



「我の巫女、ルキ」



 え?

 どういう意味?


 当代の巫女は?



「もう、在らぬ…我等の世界と共に消滅した。残ったのは、お前の魂と我だけだ」



 何で、私達だけ…?



「おい!勝手に廻間に来やがって」



 また突然、さっきの“銀色のオオカミ”の声がした。



「廻間しか、行ける場所が無かったのだ」



「お前の世界と共に消滅すれば良かっただろう」



 青龍とこのオオカミは、知り合いなんだろうか…?



「同じ風を操る者同志だからだ」



 え…?

 ああ、私の考えてることは筒抜けなんだっけ…

 青龍が答えてくれた。



「フッ…お前の世界の巫女か、まさか“青龍の巫女”か?」



 “銀色のオオカミ”は、何故か私に問う。

 何だか、どう答えていいのか分からなくて…私は青龍に聞いた。



 何て、答えればいい?



「我の最期の巫女だ」



 青龍が代わりに答えてくれた。

 

 でも、本当にそれで合ってる?



 さっきも青龍は、そう言った。



 “最期の巫女”



「ルキ、我に残された時間もあと僅かだ」


「フッ…お前ほどの奴が消滅するのか」



 え…?今、なんて言った?

 青龍が、…?



 肉体がない、はずなのに…何故か涙が私の頬を伝う・・・・・



「お前は、本当に綺麗だ…」



 気がつけば、身体の感覚がある。


 いつの間にか、私の肉体が存在する。



「どう、して…?」


 私の声が、ちゃんと音になる。



「我の最期の巫女、ルキを銀狼…お前に託したい」



 そう言い、青龍はーーー







 “消滅”、した。




 「青龍ーーーーー!!」





 消えないで、


 いなくならないで…



 私を必要としてくれたのは


 あなただけ、なのにっ…!!



   私を、


 独りに…しないでっ・・・・・






 ◆◆◆


「いつまで泣いていやがる」



 空色のグラデーションじゃない、青龍の色じゃない、銀色の風が吹いた…


 言葉は、すごく乱暴なのに…どこか・・・・・



 青龍に“銀狼”と呼ばれた“銀色のオオカミ”は私の目の前に移動する。



「お前の好きにしろ」


 そう言って、彼は私から離れていく…



 いや、っ行かないで…!


 おいていかないで…!


 独りにしないでっ...!!


 お願い・・・・・



「何だ」



 気づけば私は、“銀色のオオカミ”に抱きついていた…


 うざいと言わんばかりの彼の声色と目つきが怖い。




「っ…ごめんなさい…」



 それでも、離したくなかった。


 離したくないっ…!



「あの青龍が、惚れ込む訳だ」



 どういう意味だろうか…?



「お前、契約の仕方は解るか?」



 いきなり何?


 何で契約?



「青龍が俺にお前を託すと言ったが…俺は、お前が欲しい」




 契約には、代価や血、命などのいずれかが必要になる。


 だけど、私の“霊神力”では、この“銀色のオオカミ”を従えることはできない。


 それに、霊神力は青龍にあげたのだから…



「お前の血と、心で良いだろ」


「心…?」


「ああ。青龍が惚れ込んだ…お前自身だ」



 私自身…?


 青龍が惚れ込んだ?


 いったい何のことだろう…?



 “銀色のオオカミ”は、待ってくれてる。



 この契約をしたら、私は…


 一人じゃない…?



 契約が有る限り、一緒にいられる…


 それに…



「あなたの能力が有れば、世界を越えることが出来る?」



「ああ、世界に転生することも可能だ」



 世界を巡り続けたら、私のいてもいい世界が

 あるかもしれない・・・






 ーーー銀狼…




「銀狼。ルキの名において、魂の契約をここに…あなたの持つ能力を私に。そして、私の魂をあなたに・・・・・」


 銀色の風が吹き、光り耀く…


 ルキと銀狼の魂の契約がここに成された。

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