あの頃の星空に願うから
ーーー今のあなたにこの星空は、どう映っていますか?
いつからか、夜しかないこの世界は太陽の光りを忘れた。
青かった空は漆黒に染まりキラキラと星達が光り輝き、そんな綺麗な星空の下に私とあなたと
「レイ、俺は報告に行ってくるからヒスイ達のところに戻ってろ」
ああ、大好きなアキラの声がする。あなたの声がしたら、安心できる。“今日”もちゃんと帰ってきたのだと…皆みたいに居なくなったら、私はあなたを許せないと思う。
だって、私はこの本部に永遠的に居続けなくてはならないのだから。
「分かった。でもアキラ、姉さんと話し込みすぎないでよ?」
ああ、レイの声もする。性格のひねくれた、でもとても寂しがり屋な私の弟。レイもちゃんと帰ってきてくれた。
私が魔力だけの存在になり、レイをアキラに押し付けてしまったことは今でも心苦しい。それでも2人が兄弟みたいに仲良くしているのなら、それは“いいこと”だと思う。
「っ、べつにいいだろ!?」
「アキラいつも長いんだよ。ねーちゃんは返事も何も返してなんてくれないんだから」
レイはいたいところを的確についてくる。変わらない。それで友達も少なかったというのに…でも、レイにそう言われても私は何も返す言葉が無い。何も言い返せないし、それに何よりレイの言う通り“私の声はあなた達に届かない”。
ここにいるよって、レイのこといつも見てるんだよって、アキラの長いグチもいつも聞いてるんだよって…伝えたい。
「それでも、だろ?お前だって寝言で“ねーちゃん”って呼んでるぞ」
「何それ!?嘘つくなよ!!」
アキラにレイの蹴りが飛ぶが、アキラはそれを軽く避ける。2人共仲がいい。いつもこんな風に話す彼らを、私はいつまで見ていることができるだろうか。
ああ、私もそんな仲良しの2人にまざりたい。
「“ねえ、アキラ?レイも。私、何でも知ってるんだからね”」
私が言っても、あなた達には届かない。そんなことは分かってる。それでもしゃべって、あなた達の耳に私の音として、声として伝えたいと願う。
◆◆◆
私はあの日、アキラとレイを守るために守護魔法を全力で使った。あなた達を守れるのなら、あなた達が生きているなら、自分だけが取り残される未来よりも…あなた達がいる未来の方がいいと思った。これは私の“ワガママ”だった。
でも、そうなったこの未来に誰も満足はしていない。私は“独り”になるのがこわかった。それを私はあなた達に押し付けてしまった。
“ごめんなさい”と言うにはもう、遅すぎた。気づいた頃には、私はあなた達に伝える術を失っていた。
あの時、最期までアキラの顔は今にも泣き出しそうなくらい寂しそうだった。レイはいつになく必死に私の感覚の無い体にしがみついて離さなかった。
あの時、こうなることに気づいていたら少しは何かが変わっていたのかな?
◆◆◆
本部の地下、その奥のとても広い部屋の壁や床には“特殊な魔方陣”が宿っている。それはこの本部を、仲間を護るための、己れの命をかけた禁忌の魔方陣。
それでもここには確かに彼女達の魔力が死してなお、縛り付けられている。それを望んだのは彼女達本人である。
「今日はレイと一緒に巡回に出てたんだ。明日はヒスイと一緒だ」
部屋の奥。角の壁に描かれた空色のグラデーションに光る魔方陣の左隣、壁に寄り掛かりながら座っているのはアキラだ。両足を抱えるように座っていたが、床に描かれた誰かの魔方陣を器用に避けながら片方の足を伸ばす。報告が終わった後、アキラは真っ直ぐここに来た。
誰よりも愛していた、守りたかったはずの女の子。自分は守るどころか逆に守られてお前を失った最低な男だ。
「ルキ…お前の声が聞きたい。あの頃みたいに、俺の隣にいてくれよ、頼むから…」
顔を隠すように右手をあてて、誰にも見られないようにうつむく。こんな時、お前がいれば俺の隣に座って黙って傍にいてくれる。お前が俺を慰めるように俺の頭を撫でてきたり、肩を借りることもあった。
アキラの手で隠された隙間からキラキラと光る涙が頬を伝い落ちるのが見えた。
「“私はここにいるよ、アキラ”」
アキラを慰めるように彼の目の前に立ち、心配そうに見詰めるスカイブルーの髪をした少女がいる。だが、彼女の姿はアキラには見えない、声も聞こえない、気配さえも感じ取れない。ずっとうつむいたまま涙を堪えるように、でも彼は泣いている。
ああ、届かない。あなたの力になってあげられないことが、あの頃よりももどかしい。
ーーー許されるなら、私はあなたに触れたい。
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