Doll of wizard~壊れる音が響いた~
◆◆◆
私はマスターの物であり、武器です。
マスターのためなら、私の
私達、魔法人形はマスターの能力で動くことをゆるされ、マスターを敵から守ることが使命ですから。
「それが私の存在理由です。マスター!」
◆◆◆
とある昼下がり。小さな町から少し離れた森の中に建つ小さな家。
いつものように自分の体のすべてを覆い隠すマントを着て、出掛ける支度をする1人の少女…いや、正確には魔法人形の少女型が1体という方がこの世界では正しい。
「くれは、いつも買い物ばかりさせて悪い」
この魔法人形を“くれは”と呼ぶ、眼鏡をかけた優しそうな青年。彼がこの魔法人形の所有者、ミナトである。
「いいんです、マスター。私はあなた様の物ですから!」
そう言うと、くれはは元気良く扉を開けて買い物へと出掛けた。
外へ出ると、マスターのカモフラージュ用の結界を抜けて獣道を急いで走り抜け、流れの速い川を飛び越えて森を抜ける…そして、この森から少し離れた小さな町へと歩き出す。
(今日の夕飯は、マスターの大好きなオムライスにしよう!)
森を抜ける間、ずっとくれはは夕飯を何にしようか考えていた。
敵との戦闘もそうだが、もちろん食事も家事も全部くれはの仕事である。
くれはのマスターであるミナトは戦闘の采配は天才的なのだが、それ以外の事はまったく駄目なのだ。
「マスターは私の世界のすべてで…道具である私に”愛する“という感情を教えてくれた人・・・・・」
くれはの動くことの無い表情が悲しそうに曇った。
魔法人形にゆるされない、心を持つという行為…くれははいつの間にか、それを犯してしまっていた。
ーーーマスターの傍で魔法人形として存在できればそれでいい
くれはは、その感情を在るかもしれない心の中にしまい込んで、町で買い物をするのだった。
◆◆◆
次の日。森の奥の湖で、洗濯をしていたくれは。
丁寧に無駄の無い動きでマスターの服を洗っている。
「洗うのはこれで最後…あとは干せばいい」
独り言を呟いて、くれはは木と木の間のロープに今洗った洗濯物を干していく。
するとそこへ、マスターの命令の声が聞こえた…森に侵入者あり。
「マスターの命令は絶対!」
途中の洗濯物をそのままに、くれはは自分の武器である毒爪を召喚して森の中を駆けた。
もうこの森は自分の庭だ。負けるなんて事は有り得ない。
「いた...私は魔法人形だから、マスターのためにすべての敵を消します」
瞬時に敵を見つけ、くれはは笑う。敵を倒せばマスターが喜んでくれるのだ。マスターに迷惑を掛けるこの世界の敵をすべて消して…いっそうの事、世界に自分とマスターだけになればいい。
「
上空に無数に召喚された毒爪が狂気に舞い、敵を襲う。敵は上空から狂気に舞い落ちてくる無数の毒爪に成す術もなく自分の赤を舞い踊らせる。
「私はマスターのためだけに…!」
くれはは無惨な敵を見下ろして不敵に笑うと、瞬時に無表情へと顔を戻す。
誰にも見られるわけにはいかない。自分はマスターの魔法人形なのだかから。
私はマスターの物であり武器であり続けたい。
マスターのためなら私はどんなに卑劣なこともできるから…
どうか、心を持ってしまった…
あなたを愛してしまった私を捨てないで
気づかないでください…
「私にとってマスターがすべてなのです…」
そこには、くれはの瞳からキラキラと頬を伝い落ちた涙が在った。
◆◆◆
真夜中の森の中。そこに建つ小さな家。
その中には1人の魔法使いと彼の魔法人形の少女が1体いた。
魔法使いは右手に己れの武器である剣を持ち、魔法人形の少女に突き付けていた。
「動くな。さよならだ、禁忌を犯した俺の魔法人形」
そう言って、魔法使いは彼女の心臓…魔法人形の核を己れの武器である剣で貫いた。
「…しの…大好き、な…マ、スター・・・・・」
少女の瞳から涙が伝い落ち、静かに瞳を閉じると…ガタンと崩れ落ちて動かない人形。
その、ただの人形を抱き締め、魔法使いは自分で止めた彼女を抱きしめた。
◆◆◆
家の中。マスターはいつもと違う、戦っている時の冷静な顔をしている。
普段私に向ける…少しだらしない、彼ではない。
私は何か失敗しただろうか。
ただマスターがこちらに来いと言うので、それに従う。
私はマスターの“物”だから。
『くれは。君の核を止める』
マスターはその言葉と共に、マスターの剣を召喚して私に向けた。
ああ、バレていたのですね…
私のことはすべて。
『動くな。さよならだ、禁忌を犯した俺の魔法人形』
マスターのいつもの綺麗な顔が影になっていて見えない。
心を持つ前の私なら、きっとこのマスターの命令を本当の意味ではくみ取れなかったでしょう。
私の目の前には静かに剣を振り下ろし、私の核を的確に貫くマスターの姿。
ごめんなさい。
私はマスターの“物”でありながら、あなたを愛してしまいました…
叶わぬ恋と知り、魔法人形としてあってはならないことだと解っていても…
止めることができませんでした。
“心”とは不思議なものですね、マスター
「“私の大好きなマスター”」
うまく言葉にできない。
やっと見えたマスターの顔…
顔には出していませんが、私には分かります。
泣いているのですね…
まぶたが重い、意識が消えていく
できることなら、あなたに触れたい。
私の核が、壊れる音が響いた・・・・・
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