Heart Doll ~どこかの世界のお店~

 私が“Heart Doll”になってから、5年の年月が流れた。


 “Heart Doll”とは、人間の魂…いわば、“心”がお人形に入っていて動くことも喋ることもできる特殊なお人形…。

 この技術は“あの人”にしか扱えない代物。


 私も…あの人にHeart Dollにしてもらった…。






 ◆◆◆

 とある日の夏、たくさんの綺麗で可愛らしいお人形が並ぶお店…そこで店番をしていた少女、ルキ。


「ルキさん!午後のお店番、あたしがする!」


 元気に階段をかけ下りてきた幼女、華恋かれん…彼女もまたHeart Dollだ。

 ルキがこのお店…“Heart Doll専門店”という特殊なお人形の専門店にお世話になる前からいる。

 Heart Dollの歳を数える単位はCantanteカンタンテ…“歌うように”という意味だとあの人に聞いた。


「いいの?」


「うん!たまにはお手伝いするよ?」


 彼女が笑顔でそう言うとルキは微笑み返して2階へ続く階段を上って自分の部屋へと向かった。






 ◆◆◆

 着替えて外に出ると、雲ひとつ無い青空が広がっていた。


「あつい…」


 彼女はただ“暑い”と感じるだけだ。お人形のため、汗をかくという…人間らしい生理現象は起こらない。


「…海のほうにでも行こうかな」


 用事もないし…と、ルキは歩き始めた。




 臨海公園。

 ルキは海を見ながら木陰のベンチに座っていた。

 人間なら、潮の香りを感じるのだろう。ルキはもう感じない…。


「ママーお人形さんだよ」


「やめなさい!あんなもの…」


 Heart Dollに対する人間の考え方は様々だが、大人になるほど嫌悪感を示す。

 5年も経てばもう慣れた…いや、慣れているのだ。昔から…人間だった頃から…。


「外はやっぱり、キライ」


 小さく思い呟くと、ルキはベンチから立ち上がり歩き始めた。

 臨海公園を出ると、駐車場…そして道路に面している。


「純ー!」


 女性の悲鳴にも近い声で誰かを呼ぶ声が響いた。

 ルキがそちらを見ると、道路に転んで泣いている男の子…たぶん、その子を呼ぶ1人の女性..おそらく母親。

 だが、彼女は両目を隠すように布を巻いている…目が見えないのだろう。

 自分の子供の居場所がわからない…。


「大変!」


 周りの人達もその異変に気付く…道路で泣く男の子に大型トラックが近付いている。

 不自然な事に、大型トラックの運転席には誰もいない。


(能力者を狙ってる…)


 ルキはそう思うのと同時に男の子のもとへと走った。


「ママーー!!」


 泣き叫ぶ男の子を抱き上げると、ルキは向かって来る大型トラックに背を向けた。

 鈍い衝撃がルキを襲い、空中へと飛ばされた。だが、痛みは感じない。


「君から強い能力をかんじる…」


 気を失ってしまった男の子をしっかりと抱き締めて、ルキは空中で体制を整えて着地した。


「あなた…人形!」


「人形が子供を助けただと!?」


 ざわざわと周りが騒がしくなる。

 ルキはそんな事を気にせずに男の子の母親のもとへと歩く。


「あの、純は…」


 おずおずとルキと向き合う母親。


「大丈夫です。気絶しているだけですから…それと・・・」


 ルキは母親に男の子を渡すときに耳元で伝えた。

 “この子に強い能力をかんじます”と…。

 一瞬、母親の表情が強張った。

 この世界で“能力”を持つ人間は禁忌とされる…神に引き渡さなければならない。

 それは“犠”という名の殺しの儀式…。

 そして、人間達が“悪魔”と恐れる者達に狙われるという事を示している。


「それでは、失礼します」


 ルキはそう言うと、この場を去った。






 ◆◆◆

 Heart Doll専門店。


「ルキ、あなたの能力をかんじたわ」


 お店に帰るなり、Heart Doll仲間に言われた。

 彼女は能力を持つ者で、感知能力を得意としている。


「強い能力を持つ男の子に出会ったから…」


 ルキが答えるとまた1人、会話に入ってきた。


「1つ予言するよ?また彼に出逢ったら…運命の歯車がまわり始めるスイッチ」


 彼女もHeart Dollであり能力を持つ者。予知能力を得意としている。


「じゃあ、おやすみ」


 予知を言い終わると、彼女は商品として並んでいるHeart Dollの並ぶガラスケースの中へと入って並んだ。


「運命の歯車か…」


 ルキは呟くと、階段を上った...。

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