どんなに世界を廻っても、あなただけを愛しています
◆◆◆
どんな運命に傷ついても…
我が名は、風姫…
どうか弥琴様と共にある未來を・・・・・
◆◆◆
ここは人間の他に神が共存している国であり、人間を皇族の男性が治め、皇族の中でも霊神力の強い女性が担っている役職を“姫巫女”と言う風習がある。
皇族が政を行う内裏…その敷地内のとある邸へと向かう1人の少女の姿があった。
「弥琴様はどちらへ?」
綺麗な庭を通り、縁側から邸の中にその少女は声をかけた。
彼女がこの物語の主人公である風姫。彼女は皇族の女性の中でも上位の霊神力を持つ姫巫女である。
「わたしならここにいるぞ、風姫」
邸から顔を出したのは政を行う皇族の1人であり、この国の皇子である弥琴。
彼は頭も顔も良いため、周りから期待をされ…女性達にも良くモテる。
「申し訳ありません、弥琴様。突然押し掛けてしまって…」
風姫が皇子である弥琴に姫巫女式の礼をとった。
「かまわぬ。急ぎだったのであろう…それにそなたが内裏へ来るのは久方ぶりだ」
「私は“風の姫巫女”ですから東にあります“青龍の祀り”から出ることがかないません。…そして、弥琴様」
風姫は本題へ入っても良いかと弥琴に目で問う。
「そう怒るな風姫。そなたは本当に“神”しか目に入っていないな…」
「弥琴様、何か?」
風姫は、弥琴にとてつもなくにっこりと微笑んでいる。彼女にとって自分を選んだ神である青龍は絶対だ。
「いや、何でもないぞ…風姫……続けてくれ」
弥琴は昔からこういう風姫に弱い…。
風姫は、弥琴に少しだけ優しく微笑むと話を続けた。
「風の神や炎の神達..四神の使いの役をしている神々があなたに話したいことがあると…」
「皇族ではなく、わたし個人にか?」
「はい。できれば今すぐにと言っていたので私が急ぎ参りました」
弥琴は少し考え、近くにいた使いの者に馬を用意しろと命令を下した。
「風姫、行き先は青龍の祀りで良いか?」
「はい。ですが私は馬には…」
“乗れない”と言う前に馬の用意ができたようだ。とても早い、この邸の使いの者達はとても優秀だ。
風姫は弥琴に困った顔をした。
「大丈夫だ。わたしと共に行こう」
弥琴は馬に先に乗ると、風姫に手を差し出した。
おずおずと弥琴の手をとった風姫は、軽々と持ち上げられて彼の前に座らされた。
「愛しき風姫が我が腕の中…良いものだな(さわり心地が…)」
風姫を触る弥琴の手付きがいつの間にか、いやらしい。
その手を風姫は容赦無く叩いた。
「弥琴様。お戯れもいい加減にしてください…神々がお待ちです」
弥琴は風姫に睨まれると、わかったと馬を走らせて青龍の祀りに向かった。
ーーー弥琴様の戯れはとても私には過ぎるもの…姫巫女は純潔で在り続けなければならないのだから・・・
ーーーどうしてそなたは可愛いげがないんだ…だが、そんな風姫にわたしは惚れたのだがな・・・
2人の
◆◆◆
青龍の祀り。
内裏を護るように四方を囲むように建てられ、東を護りし青龍を祀る。
弥琴は門の前で馬を止め、風姫をおろすと使いの者に馬を預けた。
「弥琴様…この先はこの上巫女があなた様を案内いたします」
風姫に紹介されて、さっと巫女式の礼をとった上巫女は姫巫女である風姫と同じく青龍に選ばれている者である。
「風姫、そなたの湯あみを覗き…いや見学しても…」
良いかと聞かれる前に風姫はまたあの笑顔を張り付けて言った。
「弥琴様。そんなことをしたのなら、我が主である青龍に死んでも祟られますよ」
ーーー風の姫巫女とは、青龍にすべてを捧げた巫女なのだから…
「冗談だ風姫…その恐ろしい笑顔をやめてくれ」
「それでは弥琴様を神々の間に案内して」
「かしこまりました。姫巫女様。」
何事も無かったかのように風姫は片付けた。
上巫女に案内されて行く弥琴の背に、風姫は姫巫女式の礼をとって見送ったのだった。
(弥琴様、何かものすごく嫌な風をかんじます…)
風姫は弥琴を想いながら、不安な顔を隠せずに空を見上げた…。
◆◆◆
風姫は身体を聖水の湯で清め、さらに聖水で清められた姫巫女の服に着替えると…突然自分を選んだ“青龍”によばれた。
「青龍…?」
気付けば身体は不思議な空間にあり、風姫は仮の地に足をつけた。
目の前には巨大な青い龍の姿…ここは青龍と彼の選んだ姫巫女が対話出来る空間である。
《風姫…皇族に嫌な風が吹いている》
「はい、私も感じました」
とても心配そうな表情をした風姫は目の前の青龍を見上げた。
《我ら四神獣のちからを使ってこの国に迫る闇をはらえ》
「分かりました、青龍。風よ、我が国を護りたまえ」
風姫は願う…この国に襲いかかる闇をはらへと。
風姫の霊神力が彼女の身体から溢れて闇をはらう風へと姿を変える。
◆◆◆
同時刻。
この国の内裏の上空にどす黒い雲が集まっていて、辺りは夜でもないのに暗闇に包まれていた…。
「姫巫女様方…」
内裏にいた上巫女、下巫女達が、空を見詰めて不安そうな顔を浮かべている。
「巫女達は何をしているのだ!」
「まったく結界が役に立っていないではないか!朱姫!!」
自分が偉いのだと思い込んでいる男性の皇族達は、怒鳴るだけでなにもできない。神々に選ばれた巫女に国の防衛を任せる、それがこの国の…
「結界をもっと強くして!火よ、民を護りなさい」
指示を出したのは“朱姫”こと、朱雀に選ばれし姫巫女。彼女は霊神力で火を操る。
すると朱姫の指示に従った巫女達の霊神力により結界が強化された。結界の外に火球が現れると風が加勢して守りを固める。
「あの風…風姫ね」
風はそれと同時に、どす黒い雲を追い払うように吹いている。
また、それを庇護するように雲の隙間から眩しいくらいの光が耀く…白虎に選ばれた秋姫は金を操る姫巫女である。
「朱姫!大変よ、東南から闇鬼の一族が攻め込んで来たの!」
弓矢を手に屋根を飛び回り、朱姫のところへ走って来た彼女は、玄武に選ばれた姫巫女…水を操る水姫だ。
「なんですって…?」
人の姿をした、人間ではない種族。長年争い続ける敵は、闇鬼の一族が人間には猛毒である“闇”を連れて本気でこの国を滅ぼしに来ていた…。
◆◆◆
やがて逢麟国は、暗闇に包まれた…。
敵対していた闇鬼の一族に敗北したことにより、民の大半と皇族の者は皆殺しになるのだ。
「弥琴様っ…!」
皇族の住んでいた屋敷の庭に、姫巫女達は手足を縛られて地面に置かれていた。彼女達の目の前で民や皇族達が切り捨てられるのは、反逆の目を摘み取るためであり彼女達の心に闇鬼の一族があらゆる意味で強いのだと刻み込むためだ。
そして、風姫の目の前で、斬られて無残に散っていく弥琴の姿…勢い良く、赤い紅い花びらが大量に空中を舞った。
(私も弥琴様と同じ様にしてくれればいいのにッ…‼)
だが、姫巫女はそうはいかない…四神獣に選ばれた姫巫女達は、宿敵である闇鬼の一族のために働かなければならないのだから。
「私が“姫巫女”でも、“風姫”でもなければ…あなたと一緒にいられましたか?」
ーーー弥琴・・・・・
もう、あなたの瞳に私は映らない。あなたの名前を呼んでも、返事も何も返してくれない。
風姫の頬を伝い、落ちた涙は誰も拭えない。
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