捕らわれた過去と現実

 どうして私は、あの時耳をふさいでしまったんだろう…?


 音もなく落ちてゆく木の葉を見ると、いつも思い出す。



 「…僕は君をーーー」



 あの時、彼は何と言ったんだろう。


 私に何を伝えたかったんだろう。


 無理矢理さえぎってしまった言葉の続きは何だったんだろう。


 いくら考えても、その答えはわからない。


 もう私には、それを知るすべはないのだから…。






 ◇◆◇


 “彼”のことを考えていると、いつも現実が見えなくなる。



 「ルキ!危ない!!」



 連射されるたくさんの銃たちの音。

 低く振動するいくつもの戦車の砲撃…。


 それが私の生きる“現実”。


 気が付いた時には、もう遅かった。



 目の前には敵からの、無限の砲撃を放たれていた…。



 ーーー逃げ切れない



 私の足は地面についたまま動いてはくれない。


 ふと頭を横切った、“彼”の姿…。



 ーーーこれで私はあなたのもとへ逝けるだろうか?



 あつい、熱い…砲撃の熱すぎる熱で体が焼ける。

 後からやってくる、鋭い痛み。



 遠くで、仲間の声が聞こえる気がする。



 死にたくないと、私の本能は思う。



 でも私は、何処か心の中で


 “死”を受け入れていた_____






 ◇◆◇


 真っ暗な暗闇の中。


 誰かが私を呼んでいる声がする。



 「ルキ!!目をあけて…いなくならないで!お願い…」



 この声は、戦友の声…セレナが泣いてる。


 セレナは泣き虫だから、大丈夫だよって言わなきゃ…笑顔を見せないといけない。



 私は暗闇を出ようと、目を開けた。




 あれ?光が見えない…?


 目を開けたはずなのに、近くにいるはずのセレナが見えない。


 それどころか手すらも、体がまったく動かない。



 まさか、あの時の攻撃で…


 砲撃による火傷…


 たぶん、私の体は火傷がひどいんだ。



 動かない、うごかない。



 あれだけの攻撃を受ければ、当たり前だよね。


 生きている事すらも“奇跡”。



 ーーー今の私に、生きてる価値は?



 こんな体では何もできない。誰も守れない。


 敵と戦っている、戦争をしている世界にいる意味がない。



 私は何故、助かってしまった…?



 このままセレナに別れを言わずに、“彼”のところへ逝くべきだろうか。



 私は、あの言葉の続きを聞きたい。


 でも、セレナはこんな私を呼んでいる。




 ーーー私は“彼”よりも、セレナをえらんだ






 ◇◆◇


 どうして私は、あの時耳をふさいでしまったんだろう…?


 音もなく落ちてゆく木の葉を見ると、いつも思い出す。



「…僕は君をーーー」



 あの時、彼は何と言ったんだろう。


 私に何を伝えたかったんだろう。


 無理矢理さえぎってしまった言葉の続きは何だったんだろう。


 いくら考えても、その答えはわからない。


 もう私には、それを知るすべはないのだから…。






 ◇◆◇


 そして、戦争は終わった。時間が進む。


 それでも、私の体は動く事は無い。


 取り戻せたのは視力だけ。




 窓の外。音も無く落ちていく木の葉を見ると、無性に…。


 あの戦いの日々、私が殺してしまった“彼”の事をいつも思い出す。


 今の私に“彼”のもとに逝く手段はない。


 動かせないどころか、感覚すら無い私の体。



 それにあの時、私を呼んでいたセレナはもういない。





 自分で自分の命を絶ちたいというのに、体は動かない。


 私はいつまで“彼”とセレナにとらわれて生きればいい?



「この現実は、まるで地獄…」

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