捕らわれた過去と現実(リメイク版)
ーーーどうして私は、あの時耳をふさいでしまったんだろう…
音もなく落ちてゆく、魔素病におかされた
『…僕は、君を・・・・・』
あの時、彼は何と言ったんだろうか…こんな私に何を伝えたかったんだろう。
私が無理矢理さえぎってしまった言葉の続きは、いったい何だったんだろう…。
いくら考えても、その答えはわからない。
もう私には、それを知るすべはないのだから…。
そんな“彼”のことを考えていると、いつも現実が見えなくなる。
「ルキ!危ない!!」
連射されている、たくさんの銃達の音…剣のぶつかり合う音ばかりが木霊する戦場。
低く振動して前進してくる、何台もの敵の戦車の魔術砲撃…それが私の生きる“現実”。
「逃げて!ルキ!!」
戦友達の声で、気が付いた時にはもう遅かった…目の前には敵からの、無限にも思えるほどの魔術砲撃が放たれていた…。
ーーーちっ、逃げ切れない
私の足は地面についたまま、動いてはくれない。
本能が直感していた。逃げ道など何処にも無いのだと…。
また私の頭をよぎった“彼”の姿は、どんな時も敵に立ち向かっていく緋い後ろ姿…。
ーーーこれで私も、あなたのもとへ逝けるだろうか?
あつい、熱い…砲撃の痛すぎる熱で体が焼ける。
被弾した瞬間から何度も何度もやってくる、鋭い痛みになんて耐えられない。
砲撃の大きな音でかき消されたはずの、仲間の声が遠くから聞こえるような気がする。
ーーーああもう!くそ痛いっ!!
死を直感したはずなのに、死にたくないとも私の本能は思っているらしい…。
だけど私は何処か心の奥底で、この“死”を受け入れていた・・・・・
真っ暗な暗闇の中…。
誰かが私を呼んでいる声がする。
「ルキ!!目をあけて…いなくならないで!お願い…」
この声は、戦友の声…セレナが泣いてる。
セレナは泣き虫だから、大丈夫だよって言わなきゃ…笑顔を見せないといけない。
私は暗闇を出ようと、目を開けた。
ーーーあれ?何も見えない…
目を開けたはずなのに、近くにいるはずのセレナが見えない。
それどころか手すらも、体がまったく動かない。
まさか、あの時の攻撃で…?いや、でもあの砲撃による火傷…あれだけの攻撃を浴びて生きている方がおかしいだけ。
たぶん、私の体は相当の傷を負っている…いつものように動かしているはずなのに、私の体はうごかない、動かない。
あれだけの攻撃を受けて生きている私は何処までいっても悪運が強いらしい。こうやって、生きていることすらもすでに“奇跡”。
でも、それじゃ意味が無い。
ーーー今の私に、生きてる価値は?
こんな体では何もできない。誰も守れない。
敵と戦っている、戦争をしている世界なんだから…これじゃ生きている意味が無い。
ーーー私はなぜ、助かってしまった…?
このままセレナに別れを言わずに、“彼”のところへ逝くべきだろうか。
私は、あの言葉の続きを聞きたい。あなたに、逢いたい!
でもセレナは、こんな私を呼んでいる。
ーーー私は“彼”よりも、セレナをえらんだ。
ーーーどうして私は、あの時耳をふさいでしまったんだろう…
音もなく落ちてゆく、魔素病におかされた緋い木の葉を見ると、いつも思い出してしまう。
あなたが魔術を使う時は似合わない緋を身体中に纏っていて、あなたの澄んだ青い瞳は緋に染まるから…本当に、大っ嫌い。
『…僕は、君を・・・・・』
あの時、彼は何と言ったんだろうか…こんな私に、何を伝えたかったんだろう。
私が無理矢理さえぎってしまった言葉の続きは、いったい何だったんだろう…。
ーーーできるならもう一度、あなたの声が聞きたいと思っている
あの時の戦場の状況とはいえ、後ろには守らなければならない多くの民間人がいたとはいえ…私は第三警備部所属、後方支援及び防衛部隊の第十六番隊の隊長として、敵を1人で抑えていたあなたを、魔術戦士のエリートばかりで構成される高度攻撃中隊所属の第二
あの場に涼騎がいることを上に報告もせずに、撃てと他の部隊に命令を出したのも私。
ーーーだって涼騎の体はもう、強すぎる魔術の連続使用で魔素病の末期症状が出ていたから…
いずれは敵味方の区別もつかなくなり、痛みに苦しんで、いつか私が分からなくなって…緋刃隊よりも上の特攻部隊になんて再配備されたらと考えただけで、私の視界は溢れそうな涙が歪ませていた。
あの時の私は、いつもはあなたに素っ気ない態度をとるのに、本当は大好きな涼騎に会えなくなるのが何よりも怖かった。
ーーー自分勝手に、私はあなたを撃ったの…
いくら考えても、その答えはわからないまま…もう私には、それを知るすべは何処にも無いのだから。
そして
それでも私の体は、動くことはもう無い。
緋刃隊はエリートであり、ただの小隊長ごときの私が取った行動は批難されて、軍の上層部から軍法違反の処分を受けた私に満足な治療が受けられるわけがない。
取り戻せたのは戦時中の時に受けられた手術だけで、視力だけだった。
ーーーまた、忌々しい緋い色。
窓の外。音も無く落ちていく魔素病におかされた緋い木の葉を見ると無性に…。
あの戦いの日々、私が撃った“彼”の事をいつも思い出す。今の私に、“彼”のもとに逝く手段はない。
動かせないどころか、もうとっくに感覚すら無い私の体…それにあの時、私を呼んでいたセレナはもういない。
自分で自分の命を絶ちたいと思うのに、体は動かない。私はいつまで“彼”とセレナにとらわれて生きればいい?
だけどこれはきっと、“自業自得”と言うやつなんだって今の私は思っているから。
ーーーこの現実はまるで地獄で、私への罰なのだろう。
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