ぬいぐるみ

ずっと変わらなかった場所。僕の定位置。


その世界から僕を隔てるガラスの壁。

そこから真っ直ぐに見詰める景色...僕を置いて移り変わる目の前の色。


ずっと変わらない、僕の体勢。



◆◆◆


「君の場所はここね」


大切そうに僕を扱い、イスに座らせてくれたお姉さん。


僕がここに来た、はじめての記憶。


本当は僕は、お姉さんのモノになりたかったんだ...。


◆◆◆


「ママこれかわいい!この子ほしい!!」


キラキラした瞳で僕を見る女の子。


君はママと一緒に僕を見に来ては、ほしいと言ってくれた。

いつしか君はランドセルを背負って毎日のように僕を見に来ていた...。


君のランドセルはいつの間にか小さくなっていって...いつの間にか君は、僕を見に来てはくれなくなった。


◆◆◆


僕はさみしいんだ。

ずっと1人でここにいるのが...誰にも見てももらえない孤独が。



ずっと変わらなかった場所。僕の定位置。



「君も色あせたね...」


僕をここに置いてくれた“お姉さん”。


ずっとここに居続ける僕を嫌いになったの?


太陽の光を浴び続けて、時間のたった僕はもういらない?


「今までありがとう」


“お姉さん”の手には新しくて、キレイなお人形がいる。


このイスは、僕の定位置じゃなくなるんだね。



なんだかんだ言って、僕がここにいた時間は...


楽しかったよ?

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