Ⅱ
次の日。風乃達は日が上る前に旧都市の廃墟から移動して今は緑豊かな神の住まう森に来ていた。
「蓮都、
今歩くこの獣道を右に外れると、そこには血の気の多い鬼(といわれる魔法使い)の一族が支配している泉があるのだ。そのためほとんど誰も寄り付かない。
風乃達みたいな者には休むのに良い場所である...その鬼達と“友達”であれば。
「そんな時間は無い。分かっているだろう、風乃」
急ぐぞと言うように、蓮都は歩くスピードを上げた。
風乃は水騎に会えなくて少し残念だという思いと、蓮都に少しでも休んでほしいという思いを顔に出さないように必死に感情を隠す...。
「はい、わかりました...」
蓮都は風乃を振り返る事も無く、周りを注視しながら先に行ってしまった。
風乃は蓮都にバレずにすんだと胸を撫で下ろして主のあとを急いで追い掛けた。
すると突然身を屈めて周りを警戒する蓮都。風乃も主に続いて身を屈めた。
(斜め右の前方に敵、一組の気配...)
蓮都の鋭い瞳のその方向を見れば、戦いにおいて風乃は主の考えている事が解る。
敵を倒すのは魔法人形の役目だ。
風乃は蓮都を伺い、命令の合図を待った...。
「任せる、行け」
主の命令を聞くと、風乃はうなずいて敵のもとへと走る。シャキンッと音をたてて、自分の武器である鉄扇・舞風を構えて先制攻撃、大風をふるった。
「あの魔法人形、主を守りきった...少しは楽しめそう」
大風で木々を薙ぎ倒した風乃は空中に浮かび、不敵に笑っている。
そして上から丸見えの敵、主である青年と少女型の魔法人形へと再び攻撃を仕掛ける。
「弐の攻、風切り」
今度は先ほどよりも、有効範囲を狭めてピンポイントで2つの鋭い風が敵を切り裂く_____。
◆◆◆
最後にとどめだと云うように、風乃は空中から鉄扇・舞風の持つ攻撃の最大魔法を発動する。
「風の鎖で捕らえ、精神の地獄に引きずり込もう。我が死神となりて風の鎌を降り下ろす」
風乃の詠唱により、主である蓮都の魔力が魔法人形である風乃に注がれて鉄扇・舞風を包み込んで形が鎌へと変わる。
「魔衣、死神の鎌・舞風」
傷だらけで地に伏せている敵に、容赦無く風乃は鎌を降り下ろした。
その表情は何処か哀しそうで、魔法人形の顔とかけ離れていた...。
◆◆◆
「行くぞ、風乃」
敵を倒した風乃が蓮都のところへ戻ると、彼はそのまま歩いて先へ進んで行ってしまった。
逆光で彼の表情は見えなかったが、蓮都もまた敵を倒した事に心を傷めているのが伝わる...今この瞬間、魔法人形でしかない、魔法使いの武器でしかない自分が何もできない事がとてももどかしい。
「蓮都...」
まるで生きているような、うつ向いて泣きたそうな表情をしている風乃。
気が付けば、蓮都を追い掛ける事を忘れてしまっていた。
「泣くな!」
え...?と思った時には目の前に蓮都がいて、抱き締められていた...。
「今の俺じゃ、風乃を守りきれない」
どんなに風乃が気付かれないようにしていても、蓮都はそれに気付いていたのだ。
風乃が彼のためを思い、隠してきた魔法人形にあるまじき感情と..そして涙.....。
「ごめんなさい..蓮都......」
ぎゅっと蓮都が風乃を抱き締める腕に力がこもり、そして彼の右手が風乃の頭の後ろへ回された。
「この魔法界から離れよう...そうすればもう少しマシになるはずだから」
個々の魔力で世界を越える事は、魔法界では違法行為に当たる。
それがバレれば今よりも確実に敵が増える。
それでも_____
「蓮都が笑える世界があるなら...私はあなたの武器ですから」
風乃が蓮都を見上げてニコッと微笑む...瞳から一筋の涙が頬を伝い落ちた。
(私は、蓮都の笑った顔が見たい...)
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