心の迷宮

 不思議な空間に、1人の少女が迷いこんだ。

 少女はここが何処だか、なぜ自分がこんな所にいるのかまったく解らない。


「ここ、どこ?夢?」


 すると突然目の前の空間が波紋のように歪み、そこから知らない女の子が現れた。

 そしてその女の子は不敵に笑い、まるで先ほどの少女の問いに答えた。


「ここは、あなたの心の中」


 何故だか分からないが、目の前の女の子に本能的な恐怖を感じる。得たいの知れない存在。

 それでも少女には、今この状況下において他に情報を得られる存在はいない。

 後ずさる足に力を入れ、意を決して少女は女の子に聞いた。


「どういう意味?あなたは何者なの?」


 その瞬間、ニタリと笑った女の子。その表情は、見たものをゾクリとさせる。


「私?私は心を司る精霊、もしくは心を蝕む悪魔」


 この状況で、少女は女の子を後者だと思った。だが、知りたい事はさらに解らなくなる。


「わからないの?ちゃんと教えてあげているのに」


 畳み掛けられる、まるで言葉の刃のようで…。

 少女の顔はさらに恐怖と困惑が増して、混ざる。


「わからないの?簡単だよ。」



 ーーーただ自分の心に迷っただけ



 女の子の言葉は、何故か自分の心を抉るように感じられる。

 “自分の心に迷った”とは、どういう意味か。


「あなたが何を言っているのか、私には解らない」


「馬鹿な子だね。ただ理解を拒んでいるようにしか僕には見えないけど」


 突然目の前の女の子が消え、気が付けば少女の背後にいた。

 またゾクリ、と寒気がした。


「早くしないと君はずっと…死ぬ事もなく永遠にここにいる事になる」


「そんなのイヤッ…!ここから出してよ!!」


 少女は嫌だ、助けてと女の子に叫ぶ…どうにかしてほしいと。

 だが再び女の子は不敵に笑うだけで、助けてやる義理など無いと、現れた時と同様に波紋の中に消えた。


「ここにいるのも、出て行くのも君の自由。君だけが決められる」


 女の子の声だけが、この空間に響いた。

 少女は必死に、女の子を掴もうと波紋に手を伸ばした。だがその手は必死になればなるほどに、波紋に遮られた。



 ーーーすべては君が決める事だよ



 女の子の声はその言葉を最後に完全に途絶えた。

 不思議な空間に、1人残された少女。

 少女は力無くその場に崩れ落ちた。

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