キッチュ・君子豹変・タピオカ

 一ヶ月前の内気なイメージは尽く吹き飛んでしまった。教室に入ってきた時にクラスの空気が一瞬凍りついたほど。それほどイダ君の君子豹変ぶりはすさまじかった。オールバックにしたことで、前髪に隠れていた両眼は、ただ物を視るための器官にとどまらず、敵を威嚇するための装飾に変わり、体の節々に取り付けられたチェーンやバッチで、学生服は原形をとどめていなかった。極めつけは、彼が持参する物で、それが弁当代わりなのかと思われるほどの本数を、授業、休み時間、所構わずズゴズゴやっている。その音は今では時計の秒針の音に引けを取らないほど、教室に馴染んでしまった。

 「タピオカもお前の発案なのか」

 後ろから聞かれて僕は首を横に振る。中学の頃に親しかった「不良」は、それほど多いわけではない。だが、僕と親しい彼らの友人となるとそれは多人数に及び、それだけの人材を間接的にであれ動かすことができるのであれば、進学校の生徒の一人や二人、華麗に「洗礼」を受けさせることは簡単だ。イダ君には悪いけど、今学期も受験勉強で息の詰まるクラスの空間に彩を与える、最高にキッチュなインテリアが誕生した。

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