証拠・二者択一・新型○○
新型機の強奪が判明したのは、強奪が行われてから推定二時間後のこととされる。二時間という遅れは、機体がヒューマノイドであり、遠目から見ると他の作業員と見分けがつかないこと、加えてステルス性能を持っていたことからもたらされた。さらにヒューマノイドであることは、もう一つ事態を難しくする要因を生み出すこととなった。
新型機が回収困難と分かった時のための措置として、機体には自爆装置が搭載されており、機体が半径百キロメートル圏内にいれば、即作動させることができる。機体の移動速度からすると、自爆装置の作動か、捜索かの決断を下すための猶予は三時間ほどだろう。機体には莫大な開発費が投じられており、装置を作動させれば、その費用は水泡に帰してしまう。かといって、捜索を行うとすれば、大規模なものにならざるをえず、敵軍の攻勢のきっかけを与えることになるし、費用も費用で並みのものではない。
普通の責任者の脳裏に、このような二者択一が生まれているのは想像に難くない。だが、現責任者の場合、前者の選択肢に別の事情が入り込むことによって判断をさらに難しくしているだろう。機体は潜入用、隠密用ということもあって特別「美しく」造られてあった。目立つようなきらびやかさではない、地味だが洗練された美しさだ。骨董を趣味とする現責任者は新型機を軍を勝利へと導く道具としてのみならず、戦争が生んだ至高の美術品としてもみなしていたのだ。冷徹な損得勘定の上にこの美の観念が加わることによって責任者はかつてない懊悩の底に引きずり落とされるだろう。そして、その懊悩に助けられ、機体は圏域から離脱することだろう。そう、確実に。自身の美しさに真っ先に気づき、それを利用して自分を自分自身から強奪することを試みた他ならぬ私がこの叙述を行っていることが証拠だ。
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