夢と未来
ゆきみかん
ゆめとみらい
部屋の中に2人だけ人がいた。部屋は白く、椅子が向かい合わせにふたつ置いてあるだけの質素な部屋。椅子の後ろの壁にはひとつずつ扉があった。その部屋は色もなければ音もない。向かい合わせに置かれた椅子に腰かけるのはまだ若い女だった。左側に座った目に光がない無表情の女が口を開いた。
「私の名前は、ゆめ。」
それを聞いた右側に座った笑顔の女は一瞬きょとんとしたがすぐに笑顔に戻り、「私の名前はみらい。」といった。
ゆめは今すぐにでも死にたかった。誰からも必要とされない、誰からも愛されない、そんな人生を捨ててしまいたかった。
みらいはずっと先まで生きたかった。大人になれない、周りを悲しませて、迷惑ばかりかけている自分が嫌だった。
ゆめが口を開く。
「私は死にたい。あなたは。」
みらいは答える。
「私は生きたい。ゆめちゃんはどうして死にたいの?」
ゆめの言うことには、ゆめの家は所謂育児放棄という家庭だった。親の顔を見たのはいつが最後だったのか、それすらも思い出せない。お金は机の上に置いてあった。いつ家にいても誰もいない。学校でもまるで居ないものかのように扱われる、世間で言うところのいじめだ。そこまで話したところでゆめはみらいに質問をした。あなたはどうして生きたいのかと。
みらいは笑顔で答えた。私は大人になれないのだと言われた、もうこの先外に出ることすら出来なくなるだろうと。ゆめは言葉を失った。それと同時に、心から悔やんだ。どうして私たちは逆じゃなかったのかと。
みらいは続けてこういった。人間って自分にないものを望むでしょう?あなたは死にたくてもその勇気がない、もしくは環境的に死ねない。だからこそ死にたいと願う。私は大人になるまで生きられない。自由に走り回ったり、遊んだりできない。もうこれは死んでいるようなもの。だからこそ、わたしは生きたいの。
ゆめは確かにそうかもしれないと思った。
みらいは椅子から立ち上がった。そして、笑顔のまま夢の方を見た。
「そろそろ行かなくちゃ」
ゆめはその言葉で全てを察したような気がした。だからこそ、引き留めようとした。しかし、みらいはそれを遮るように口を開いた。
「ゆめちゃん、私の最期のお願い聞いてくれる?」
みらいの顔は今にも泣きそうな顔をしていた。ゆめは断ることも出来ず頷いた。未来は微笑み、こう言った。
「私の分まで生きて欲しいの」と。
ゆめはなんとなくそう言われるのだろうなと気づいていた。しかし、みらいはでもね、と言葉を続けた。
「もし、ゆめちゃんがこれ以上生きていても何も希望がなくて絶望しかなくて、幸せになれないって思ったらその時は私が迎えに行ってあげる。」と言った。
ゆめはなにそれ、と笑った。
みらいは夢の頭を撫でて、ゆめの目を見ながらこういった。
「今まで、よく頑張ったね。ゆめちゃんはひとりじゃない。私がいつでもそばにいるよ。それを忘れないで。」
そして、みらいは今までみらいが座っていた椅子の後ろの壁を指さした。
「ゆめちゃんとは、ここでお別れ。こっちが未来に繋がる扉だよ。」
いつまでも動こうとしないゆめの背中を押し、ほら、いったいった!と言うように扉の前まで押していった。そして、部屋の真ん中まで戻るとひらひらと手を振った。
ゆめは、みらいの方を向き笑顔で口を開いた。
「いってきます」
みらいは頷き笑顔のままでこういった。
「いってらっしゃい、またね。」
そして、扉は閉じてまた部屋に静寂が訪れた。部屋の真ん中にいたはずのみらいの姿はもうそこにはなく、椅子が2つ置いてあるだけの部屋となっていた。
夢と未来 ゆきみかん @amamiya_yuki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます