【ライセンス!】第104話:『三』つの攻防 弐 裏

 表世界に辿り着いてもまだ狙われる状況に、冬は一抹の不安を覚えながらも、助けてくれる仲間達にどう報えばいいのか考える。


 そんな考えは纏まらないまま、冬は数時間後には無事保護されることとなった。


――――――――

 104話で書かれていた、【色々ありつつ】の部分が本話となりますが、本編側では書くことのない完全こちらのみのパラレルワールド尽くしとなります。


 冬が表世界を姫に抱かかえられて進んだ先。

 そこにはいろんな方々とすれ違いました。とさ。

――――――――


 冬は姫に裏世界でも表世界でも小脇に抱えられながら進む。


 エレベータから降り立った先。

 そこは風情漂う町中だった。


 雑踏咽ぶ細々と区画分けされて立ち並ぶ高いビル郡。

 そのビルのフロアごとには様々なグッズやマニア垂涎物の物品が立ち並ぶ。その物品は統一性もなく、見たことのある娯楽商品もあれば、何に使うのかと思える細かな部品、みたことのない不思議な形をした電子機器類等、ありとあらゆる物品がその場には溢れていた。


 風情といったが、匂いもまた独特である。

 夏のおっさんの汗のような汗ばんだ匂いがどこでも溢れていると思えば、場所によっては甘い匂いも漂わせ。


 だからといって、全部が全部そのような場所だけではない。

 ちょっと離れてみればビジネス街も立ち並び、エントランスを設けた全面ガラス張りの巨大テナントビルもある。区画整備されて整えられたその場所は、先の光景とあわせてこの町のシンボルとも言えるであろう。


 大通りに面した通路には、様々なコスプレ姿の男女がビラや談話を楽しみ、話す会話は普通の思考では理解できないような単語が並ぶ。


 匂いの大洪水が起こりかねないその場所。

 そんなビルが所狭しと並ぶ場所。


 姫と枢機卿は、裏世界へと通じるエレベーターの道から、大通りへと出た。


 出たらどうなるか。

 それはもちろん、決まっている。


 絶世の、双子のように似たメイドが、急に現れたのだ。


黒執事👤「奥様、あちらに素晴らしいメイド姿の女性がおりますぞ」

人妻👽「爺、本当ね、コスプレかしら」

夫🤯「今度着てみたらいいんじゃないかな」

人妻👽「新妻に着させて何をしたいのかしら。ど変態 ( ∩'-' )=͟͟͞͞⊃ )´д`)ドゥクシ」


 このようにざわつくのも、当たり前である。


『的になるのは好ましくありませんね』

「大樹。走れますか」

「ああ、今すぐにでも走ろう」


 周りの人の群れは何かのイベントかと、どんどんと大きくなる。


 だが、その群れは急激に別のざわつきを見せた。

 そのざわつきの中心にいた、それらがいなくなったからだ。


 音もなく消えた彼女らは、その後も絶世の双子のメイド美女として伝えられていくのだが、それはまた、別の話である。








 小脇に抱えられ、表世界を駆け巡る。


「水原さん、とまってください」


 その先で見かけた見慣れた景色に、冬は姫に静止を求めた。


「……ああ。あちらに用でもあるのですか?」


 すぐに冬の声に動きを止めた姫は、何事かと周りを見て、すぐに冬の言いたいことに気づいた。


 目線の先には、香月店長の経営するファミレス――冬のバイト先である『ミドルラビット』があった。



『冬。もうすでにあちらのファミレスには誰もいませんよ。皆さん避難しております』

「そう、ですか……」

『『つーはうんず』というコンビが手伝ってくれたそうですよ』

「聞いたことないですけど。一度あちらによってもいいですか?」

「あまり時間をかけたくはないので、外から中を見る程度にしてください」


 言われてみれば、裏世界からでたとしても、まだ逃避行中なのは変わらない。

 避難ということから、すでにこの場所は襲われていることも分かる。

 ならば、もしかすると辺りには敵がいるかもしれないと思うと、時間をかけたくないという姫の言い分ももっともだった。


『……おや、中に誰かいますね』


 枢機卿が誰もいないはずのファミレス内で人影を見つけた。


「やぁっと、食べられるっ!」

「そんなに食べたかったのか」

「美弥ちゃんの作ったラーメンだぞ! 頑張った甲斐があった!」

「甲斐だけにな」

「ほっとけ!」


 という会話が外に漏れ出すほど、ほんわかとピンクな色のつきそうな三人組。

 明らかにその三人が経営するお店ではないことは確かではあり、誰もいないことをいいことに不審人物が店内で屯しているのかと思う冬だが、


『あちらがつーはうんずのお二人と……おや、女性がいますね』


 ファミレスの従業員の避難を手伝ってくれた、首輪にジャージ姿のコンビだと知った。

 その二人組にお礼を言うべきだと、ちょっとだけ店内に入り込もうとして、二人の男子の前に置かれたそのラーメンに、冬は驚いた。


「な、なんですかっあのラーメンは!? そ、外から離れて見ていても美味しそうだと感じますよあれっ!」


 思わず指差してしまい、ぎろりと中にいる片方の目付きの悪い男子――『最速の黒い猟犬ブラック・ガゼルハウンド』に睨まれて。


 がたんっと。


 猟犬が、警戒心丸出しで立ち上がった拍子に、机が揺れた。


「ぅあっち――ああっ!? 俺のラーメンがぁぁ!?」

「あー! 私をほったらかしにしてファミレス美人さんと仲良くしてた二人への恨みつらみなんかがじっくり溶け込んだスープがー!」


 もう一人のジャージにほどよく絡まり落ちる麺と熱々のスープ。そして謎のエキスを溶け込ましたという少女の声を背に、冬たちはその場が荒れないようにそそくさと去っていく。


 唯一冬がそこで分かったことは、恨みつらみを溶け込ませた特製のお出汁の効いたスープは美味しそうだったということだけだった。







 ファミレスを後にして。

 表世界を進む五人は、先程枢機卿が検知した敵対勢力から隠れるため、都内を走り続けていた。


 人がゴミのように多い大通りを避けて進んでいるが、メイド二人が走る様とそれに小脇に抱えられた男子や共に辺りを警戒しながら少女を抱えて走る男子も合わせて見れば、事件性を疑ってしまうので人の視線は免れず。


『こちらに逃げ込みましょう』


 怪しさ満点の団体は、近くの住宅を隠れ蓑にしてやり過ごすために入り込んだ。


 そこは白い外壁の洋館だ。


 中は5LDKの二階建てのシェアハウス。一階には二部屋と共有スペース、二階に個室は三室あるようだが、他にも部屋がいくつかあるように見え、両階に風呂とトイレがあるのだろう。

 かなり贅沢な造りの洋館だった。


「……どうやら、人は住んでいるようですね」


 人様の住居の冷蔵庫を開けながら、姫はそう言った。


『女性は住んでいなさそうですね』


 共有スペースはある程度綺麗ではあるが、無造作に脱ぎ散らかった衣服から、男性だけの寮なものではないかと推測する枢機卿。


「いえ。『るい』という女性が住んでいるみたいですよ」


 冷蔵庫からプリンを取り出す姫。

 その蓋に書いてある『るい』と可愛らしく書かれた文字を皆に見せる。


「あたいにこんな文字書けない……」


 丸っこい可愛らしい文字にチヨが驚愕する。


「いや、書けるだろ……」


 と、樹がどれだけ自虐的なのかとチヨに呆れる。


「先程通りすぎた美容室の寮のようだな」

「従業員がジャンル被りがないイケメンだけの『beautiful magic』というサロンですか」

「……詳しいな」

「女性ですから。御主人様には敵いませんが有名なお店ですよ」


 姫と同じように冷蔵庫を物色していた枢機卿が『おや、『はる』という方もいるのですね』と果物に書かれた名前に驚いている。


 『るい』と書かれたプリンを食し終えた姫がテーブルの上にことりと入れ物を置くと、辺りを見渡すと、姿を消した。


 共有スペースから少し離れたところで「うっ」と声がして、姫がまた姿を現す。


「女性一人に男性数人……永遠名冬のようにハーレムですね。この場合は逆ハー、でしたでしょうか」


 意識を失った一人の男性を捕まえた姫が、共有スペースの椅子に座らせると冬を睨むように言う。



「いつ人が来るか分からないので早めにでましょうか」


 いや、この気絶した人に見られている時点でまずいのでは。と思うが、冬もその意見には同意だった。



 そしてまた、五人は洋館を後にする。



「た、楽しみにしてたプリンがっ! 蓮さん! また私の勝手に食べちゃったんですかー!」



 と、数時間後のシェアハウスに女性の叫びが響いたことは彼等は知らない。


 所々で、怪しい団体は被害を与えて表世界を逃げ回る。




――――――――

 あいるさんの作品

🐦Twitterやってない私がつぶやくよ~❗(140文字では書けないからね)


より👽👤🤯をこっそり拝借。


https://kakuyomu.jp/works/1177354054893728171



 おなじみ黒須さんとこの

 コード・オリヅル~超常現象スパイ組織で楽しいバイト生活!

https://kakuyomu.jp/works/1177354054889699157


 の方々をサンドイッチの具にして、


 ayaneさんの作品

 その指先に魅せられて ~beautiful magic~

 より、舞台となる洋館を拝借。

(え、キャラじゃないの? いえいえ。少しだけ出ましたよ? キャラも)


https://kakuyomu.jp/works/1177354054890819594


 いやぁ! やっと出せましたっ!

 感謝小説チックになってきた辺りがちょ~ど表世界を歩き回れない状況だったので出せるタイミングがなくてっ(´;ω;`)




 個人的な話ですが、この舞台は東京都内と何となく想定してまして。


 冬がいつも使っていた裏世界へ降りるエレベーターは、新宿辺りかなぁって思っています。


 で。今回使ったエレベーターは秋葉原?


 そう考えると。今回の洋館が確か青山だったはずなので……この怪しい団体、凄い都内を走り回ってますね(笑


 ちなみに余談ですが。

 『ライセンス!』の何十年も後の話を書いた『雪が止む頃に』の田舎町は、富山県が舞台です。


 本作品の主人公(?)である鎖姫が本来出てくる『刻旅行』も、富山県のイメージですね。


 独立国家富山王国は、食事は美味しく塩辛い(しょっぱい)食べ物が多い愛すべき土地ですから(^-^)


 きときと富山。一度はこられ~

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