【ライセンス!】第98話:『焔の主』

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正直に言いますと、この話では、『焔の主』の異様さを細かく書こうとしていました。


……自分が思う『主』は、とにかく変態チックな感じでしたが、難しいですね。


なので。

変態部分は引き継いでもらいました☆


姫がとある場面で、なにをみてによによしたか、ですね(^_^;)

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 時は少し遡り。

 青柳弓こと、A級殺人許可証所持者『紅蓮』が、水原姫に協力を請われ、冬を助ける為不変絆と刃を交えるほんの少し前。


 冬と姫が、樹の家の中へと戻った時に遡る。





 冬と姫が紅蓮に助けられ家の中へと戻ると、すぐに背後から戦いの音色が鳴り出した。



 弓さんなら負けるわけがない。



 そんな期待と、助けに来てくれた嬉しさと。

 自分のために戦いに巻き込んでしまったことを申し訳なく思いながら、裏手への扉に手をかけた。


「――っ――!!」


 扉の向こうから、叫ぶような声が聞こえた。


「万代さんっ!」


 その叫びは明らかにチヨの声。


 そして。

 扉を開けてすぐ。


 近くの家屋の壁に叩きつけられ負傷する樹を目の辺りにし、そこに敵がいることをすぐに二人に知らせた。


「――チヨちゃん。俺のものになる気になった?」


 その敵は、チヨの前に。


 一人の初老の燕尾服姿の男性が立っている。

 紳士そうなその姿。つんつんと尖った髪型や若そうな口調がミスリードを起こし、見た目初老のその男に独特な雰囲気を与えていた。


 その初老の男は、ズボンのポケットの中に両手を突っ込んだまま。

 樹をその脚で蹴りつけ吹き飛ばし、片足を上げたまま残心姿で立っていた。


「永遠名冬、気をつけなさい」


 姫が、その雰囲気に異様さを感じ、構えだす。


 冬はその緊張をはらんだ声に、姫でさえ警戒する相手なのかと、ごくりと唾を飲み込み『針』を構える。



 冬にそんな覚悟を持たせた姫は、



 ――どこぞの、執事を思い出しますね。



 なんて、全然冬とは違う感想を思いながらであり、姫自身はその相手を脅威とは感じてはいないのだが、冬からしてみればそれは強敵以外の何物にも映らない。


「気を付けろっ! 『焔の主』だっ!」


 樹が叩きつけられた壁からすぐに体を起こして自身の武器を構える。

 小さな部品がかしゃかしゃと音を立てて自動的に組み上がり樹の前に姿を現す。


 その武器は、漆黒の鎌デスサイズだ。


「お前さ。いつまでチヨちゃんの傍にいんだよ。前にぼこぼこにした時に消えろっていったよな?」

「俺が消えたらチヨがお前に襲われるだろ」

「お前がいようが消せばいいだけだが。……襲いなんてしないぞ? しっかり『話し合い』する程度だ」


 すでに顔見知りであると思われる相手に、互いが不快な声をあげる。


「『焔の主』……」


 明らかにチヨを狙う敵。


 最高評議会『四院』

 その一柱。



 兵器を愛してやまない無所属

 『焔の主』こと『刃渡焔はわたり ほむら


「……その『話し合い』をするために紳士的に、か? その姿が?」

「俺は形から入るのさ」


 初老の若作りをしたロリコンが、そこにいた。




「今日は、さ。別にチヨちゃんもらいにきたわけじゃなくて、ただ顔見に来ただけなんだよね」


 『焔の主』は足を下げ、見せびらかすように服の上から暗器を装着した腕を持ち上げ、冬を指差した。


「なのにこんなことになっちゃっててさ。そこに黒帳簿入りした今や時の人な『ラムダ』もいるってよ。なんだかお祭りみたいだなって思ってね。この機に乗じて無理やりチヨちゃん拉致ってもいいけど、それだと互いにいい想いしないでしょ」


 饒舌に軽口で話す『焔』の主。

 冬達の背後の家が、ごおっと激しく燃え盛る。


「ただし。チヨちゃんポイントを稼ぐのも悪くないって思って、さ」


 にこっと笑う『焔の主』に、びくりと体を震わせるチヨ。

 だが、得たいの知れない初老の燕尾服の男の笑顔は、あまりにも今の状況には似つかわしくなく、信用はできなかった。


「……今の状況を楽しんでいるな?」

「当たり前だろ? チヨちゃんを助けてポイントも得られるのなら。ほんの少しの手助けはしてやるよ? チヨちゃんには見返りが欲しい所だけど?」

「い……家の中のものなら、いくらでもっ!」

「……交渉成立♪ 次は君をもらいに来るのでよろしくね」


 「俺の家……」と、燃え盛る家屋を、切なく見つめる樹をそのままに。


「さってと。チヨちゃんのタンスは二階だったかなぁ?――って!? 燃えてんじゃん! 俺のコレクションっ!」


 『焔の主』は、その家の中――炎の中へと進んでいき、消えていく。


 そして、焔の主は、気まぐれに紅蓮と絆の戦いへと参戦。


 焔の共演が冬達の家を挟んだ反対側で、始まろうとしていた。










「今がチャンスです。逃げますよ三人とも」


 『焔の主』の気まぐれでその場から逃げる道ができた三人。


 逃げる先は、表世界へと通じる道。


 表世界へと、逃げ延びる為に。


 姫の声に、三人はすぐさま逃走を開始する。










「『焔の主』は、何を考えてるのかわからないんだ」


 走りながら、樹は先程の『焔の主』の行動について話していた。


 冬は、この短時間で四院の半数にすでに出会っている。

 そんな冬が四院に感じる感情としては、


「四院は、誰もが理解できそうもないのですが……」


 どれもが癖がありそうな気もする。に尽きる。

 今のこの状況を作り出したのは『疾の主』であるのだから尚更である。


「う……う、む……?」

「あー、主を二人知ってるけど……言われてみれば」


 樹もチヨも、冬とは違う別の『主』を思い浮かべたようで、チヨに至ってはぶるりと怖くて震えたような感覚を冬の腕に伝えてきた。


 チヨは、今は冬に抱えられていた。

 戦ってはいけない足手まといの冬はともかく、戦えないし走りも遅いチヨが、警戒しながら走る樹と姫に追従できるはずもない。

 よって、足手まといの二人がセットとなっていた。


「それにしても。お二人とも、僕がいつも使っている入り口とは違う場所とは違う場所に向かっているのですね」


 鍛冶屋組合の領域を抜けた先。

 樹の家から離れて向かった先は、冬が普段使っている駄菓子屋から繋がるエレベーターではない。


 樹の家から見えた、壁から突きでた巨大な樹木――地中であるはずなのでそれは木の根なのだが――のなかだ。


 大木の幹をくり貫き住居としている地帯を登りながら、一つの住居で敵意がないことを確認し、アットホームな室内で小休止した。


「……冬は、よくはないか?」

「僕もそう思うのですが……」


 ちらりと、冬は姫を見た。


「水原さんが……頑なに……」


 姫が冬を小脇に抱えて走る。

 これが、裏世界での冬の移動手段と化していた。

 更に今は、


「いやぁ、お客さんに抱えられたと思ったらあたいごと抱えられるとはねぇ」


 冬がチヨを抱え、姫が冬を抱えている状況である。


「貴方達が遅いからですよ」

「……過保護すぎやしないか」


 どさりと二人を休ませるために床に捨てると、姫はその先にあった部屋を覗き込み始めた。


その先に、ただならぬ気配を感じたからだ。


「ふふっ。お頭、いや白木さん。遂に君を手に入れたよ……」

「ま、待て、落ち着けトモ。君は騙されているんだ」

「なにをバカな。自分を騙しているのは君じゃないか。僕は君を救うために力を手にいれたんだよ」 

「な、なにを……」

「みるといいっ! 僕の得たこの力、『型式』をっ!」

「く、うぉぉっ!? なんだこの力はっ」


<おや? まさか、ここで『幻惑テンコウ』に連なる力を見るとは思いもしませんでしたね>


姫はその先で行われていた何かしらに釘付けになった。


「ふふ……どうだい? 正気に戻ったかな?」

「……あ。ああ……トモ……」

「白木さん……」


<まさか……本当に? セカンドポールを、イ、インサー――>








「あ、あ――あぁぁー……っ!」







「……こちらはダメですね。向こう側から向かいましょう」

「……何で少しにやけているんだ?」


 姫は「気のせいですよ」と、珍しくによによしながら、二人を再度抱えて走り出す。


 隠れながら、時にはその場にいた相手を昏倒させながら。


 少しずつ木の根の中にできた住居地帯を登り、やがて、木の根ではなく壁のなか――裏世界の天井へとたどり着いた。


「見えたぞ」


 その天井には、木の根と同じように塗り固められられた近未来的な居住区があり、冬は天井内にも人が住んでいるのかと驚いた。


 いつも裏世界を照らす光が誰かが管理していると考えてみると、この天井に住む人達の仕事のひとつなのではないかとも思えて、常に裏世界が光り続けている理由がわかった気がした。


「この先に、地上へ上がるエレベーターがある」


 その居住区に難なく入り込み、建ち並ぶ岩場のくり貫き式の居住区に警戒しながら進んでいくと、自然を再利用した辺りとは違って、人工的に作られた施設に繋がる長い通路が見えてきた。


「……これ以上、走って上がるのも時間がかかりますからね。使わせてもらいましょう」

「歩いてでも、いけるんですね……」


 ここらから先に、まだまだ道はある。

 上がろうと思えば徒歩ででも地上へ上がることもできるようで、入り口も複数設けられていると樹が冬に補足した。


「やっと表世界に出れますね」


 この施設の中に、エレベーターがある。

 そして、その先は表世界――


「――なん、で……」


 その入り口の前に。



「や~っと、見つけたで」

「勘でなんとかなるものだね」



 二人の、少年がいた。



「あ~、やっと追い付いた~」

「……追い付かれましたか」



 そして、冬たちが歩いてきた道に。

 許可証所持者を引き連れた『流』の型の使い手であり医師である女性――


「あれ~? 旦那様だ~」


 ――B級殺人許可証所持者『戦乙女』が。


「……何やっとんねん」

「ん~? 追いかけっこ~?」


 表世界に通じるその先にいる二人。

 反対側で冬達逃亡者を挟み込む形となった許可証所持者の女性に、そばかすの似合う少年は呆れて顔を手で覆った。


「間に合ったけども、間に合ってない感じ、かな」


 そしてその隣で。ぴょこぴょこと頭頂の髪を筆のように結んだ、常ににこにこと笑顔の少年が、珍しく片目を開けて冬達を見つめる。



―――――――――

あー。


これ、シラシラさんに怒られそうだぁ(笑


表世界に辿り着いたら色々ありそうですねー(笑

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