第1686話「破れた繭の中」
更新忘れてました……。申し訳ないです……。
今日も19時に定期更新します。
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「はえや!」
『グワーーーーッ!』
シフォンの投げたタロットカードから巨大な戦車が飛び出し、俺を次々と轢殺していく。戦車のカードってそういう効果だったかな。
ともあれ、シフォンのおかげで増殖する俺を薙ぎ倒しながら列柱神殿を進むことができていた。目指すはこの神殿の守護者、レゥコ=イルフレッツの御許だ。
「おじちゃん、本当にこっちのルートであってるの?」
タロットカードを引いて、逆位置のものを正位置に逆転しつつ増幅して敵を薙ぎ払うというなかなか凶悪なコンボを決めながら、シフォンがこちらに振り向いた。俺たちが進んでいるルートは、さっきとは違う。まだ立ち入ったことのないルートを選んでいた。
「合ってるはずだ。前の部屋に戻っても、また幻影が出てくるかもしれないからな。それよりも、この偽者の出所を探るのが優先だ」
十字路の角から飛び出してきた俺を槍で叩き落として突き払い、壁に叩きつけて炉心を砕く。俺でも瞬殺できる程度には、こいつらは弱い。確かに装備やアイテムは完全に模倣されているのだが、頭が悪い。これで模倣と言われるのは、ちょっと悲しいくらいだ。
それ以上に、こいつらは無限に湧き出してくる。それこそ、チィロックの眷属のようだ。あれとの違いは、集合意識を共有しておらず、成長が見られないところか。どう考えても下位互換である。
際限なく出てくるこいつらの発生源に、きっとレゥコ=イルフレッツもいるはずだ。
「レティ、しばらく表を頼む。こっちはこっちでなんとかするから」
『了解です。レッジさんがいるとややこしいですからね』
「ぐぅ。それはそうなんだけどなぁ」
俺が前線に出ると、それこそどちらが本物か分からなくなる。レティたちに思う存分暴れてもらうためにも、俺はコソコソしておくに限るのだ。
俺を相手にしているというのに、全く気後れした様子のないレティとの通話を終えて、シフォンを見る。こっちも躊躇いというものがないんだよな。
「もうちょっと戦いにくそうにしてもいいんだぞ?」
「はえ? そんなこと言われても、これはおじちゃんじゃないしなー」
氷の短剣で喉元を掻き切りながら首を傾げるシフォン。仕草は可愛いのに、やってることが物騒だ。
「たぶん、みんなそう思ってるよ。おじちゃんならもうちょっと手応えがあるというか、生き汚いというか、しぶといというか」
「褒められてるのか、それ?」
「最大限の賞賛だよ」
なんか、チィロックに親近感を覚えるな。そんなこと言ったら本人は怒るだろうが。
偽レッジを倒しながら、奴らが出てきた道を遡る。自分と全く同じ顔の存在を何人も見ていると気持ちが悪くなってくるが、シフォンが問答無用で薙ぎ倒してくれて助かった。
「でも良かったね。おじちゃんが種瓶持ってる時に複製されてたら、大変なことになってたよ」
「えっ?」
「えっ?」
「あー」
「は?」
ぎろり、と鋭く睨まれる。インベントリを探ると、万が一に備えて常備していた種瓶がいくつか転がり出てくる。
いやぁ、ただでさえ重量制限がキツいのに、こんなに持ってたら大変だな。……さて。
「おじちゃん! 今すぐ関係各所に連絡! 警戒するようにって!」
「お、おう!」
胸倉を捩じ切られる勢いで迫られ、頷くほかない。急いで切ったばかりのレティとの通話を繋げて、今持っている種瓶について通達する。
『“戒める牙針の叢樹”と“剛雷轟く霹靂王花”と“猛槍竹”!? なんで2/3が原始原生生物なんですか!』
「いや、“戒める牙針の叢樹”は遺伝子組み換えで――」
『そんな話はしてないんですよ! これ全部スノーホワイトが効くかどうかって話です!』
「たぶん……」
TELは〈白鹿庵〉全員につながっている。立て続けに悲鳴とも罵倒ともつかない声がして、一気に慌しくなった。
「おじちゃん、報連相って知ってる?」
「おひたしか?」
「殴るよ」
「本当に申し訳ない」
この際だから、インベントリに入っているアイテムは洗いざらいリスト化して送っておこう。といっても、残る危険物は……、
「粉末火薬が50g、灰色の蜘蛛が3機、狂戦士が5機、猛毒アンプルが15本ってところか」
「レイドボスにでも挑むつもりなの?」
「一応、そのつもりではあったよ」
元々、レゥコ=イルフレッツを討伐するつもりで準備はしていたのだ。だからこれは正当な準備である。そう宣言すると、シフォンが倦んだ目を向けてきた。
「これで戦闘職じゃないって言うんだから、自覚が足りないよね」
「シフォンだって、重量の半分くらいは戦闘関係だろ」
「わたしはいいの!」
解せぬ。
ともかく、俺の通報はすぐにアイやアストラたちにも知れ渡ることとなった。あとは偽レッジがインベントリ内のアイテムの使い方を思い出せるかどうかだろう。
「おじちゃん、あの扉!」
前を走っていたシフォンが叫ぶ。長い通路の向こうに、俺がわらわらと飛び出す扉があった。どうやら、そこが終点らしい。
「風牙流、二の技、『山荒』ッ!」
槍とナイフで突風を引き起こし、通路の直線上に立ちはだかる俺を一掃する。こじ開けた隙間にシフォンが躍り出て、ゴム鞠のように跳ねながら残党を瞬殺していく。
戦っていて気持ちいいほどのコンビネーションを発揮しながら、俺たちはついにその扉の奧へ飛び込んだ。
「はえやーーーーっ!」
闊達な声が響く。残響が長く残る、広い部屋だ。
「これは……」
そこにあったのは、無数の糸で天井から吊り下がり、鎮座まします巨大な繭。純白の糸に包まれた揺籃の器。その下部が痛々しく引き裂かれ、白くどろどろとした液体が流れ出ている。一筋の川のように曲線を描いたそれは、細かく蠢き、泡立ち、人型を形作って立ち上がる。
『お、おおお』
『ぐぉおお』
巨大な繭から流れ出す液体から、俺の模倣が生み出されていた。
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Tips
◇レゥコ=イルフレッツの繭玉
守護者が眠る白い絹。冷たい糸に包まれて、温かい熱が育まれる。不定形は可能性の証。万物への変貌の兆し。
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