第1680話「明快な解決法」
「列柱神殿の一つ目は、私とバアルさんが華麗に攻略してしまいましたの! 申し訳ございませんわね!」
と、元気いっぱいにテファが言っていた。つまりここから先は早い者勝ちという宣言だろう。となれば〈白鹿庵〉には適任がいる。
「ほっはっ! ほはっ! はっほーう!」
溌剌な声と共に森を駆け抜けるのは、我らが〈白鹿庵〉の赤兎ことレティである。彼女の後ろに続くLettyの身のこなしも鮮やかで、二人は深緑の森の中を風のように走る。〈跳躍〉スキルカンストの二人にとっては、山の斜面など無きに等しい。障害物もものともせず、軽快な足取りだ。
「木にも首はありますからねぇ! 斬首斬首! 春の季語は斬首ですよぉおお!」
レティとLettyを追いかける、いや追い立てるように突き進むのは刀を抜いたトーカ。〈ホウライ〉全域の戦闘制限が解けたのをいいことに、樹木も次々と伐採して道を拓いている。〈伐採〉スキルがないとこういった木は切り倒せないはずだが、彼女は〈切断〉スキルも併用して強引に切り倒していた。
「はー、あの人はLPをなんだと思ってるんですかね! せいやあっ!」
当然ながらトーカのLPは猛烈な勢いで消費されていく。それを後ろからアンプルを投げまくって回復させているのはヨモギだった。〈調剤〉や〈手当〉スキルを持っていない彼女のアンプル効果量はそう多くない。質を数でカバーする戦法で、必死に肩を唸らせていた。
そして、レティたちが先行し、トーカが木々を切り拓くことで作られた道を走るのは、無数の蜘蛛型ロボットとそれを率いるしもふりである。
『グアウッ!』
「しもふりも久しぶりに走れて気持ちよさそうだね。わたしは楽できるし、いいことばっかりだよ」
クチナシのコンテナから降ろされたしもふりが、三つの頭で元気よく吠える。その背中に、俺とヨモギとラクトとエイミーが跨っていた。移動速度では前の三人に敵わないため、こうしてトーカによってある程度の整地がなされた道をしもふりの踏破力で駆け抜けるのだ。
わらわらと地面を覆って進むのは俺が用意した蜘蛛型ロボットで、DAFシステムに組み込まれている。これは周囲の警戒などもしてくれているが、本来の役目はこの後に待っている。
「レッジさん、列柱神殿が見えて来ましたよ! たしか、サソリ型の守護者がいる場所だったはずです」
「なるほど。それじゃあ事前の打ち合わせ通りに頼む」
「了解しました! うおりゃーーーーーーっ!」
先頭のレティが列柱神殿を見つける。彼女はさっそくハンマーを高く掲げると、躊躇なくその古びた壁に向かって叩きつけた。〈破壊〉スキルの『時空間波状断裂式破壊技法』が発動され、非破壊オブジェクトである遺跡の壁に大穴が開く。
それは、大型機獣に分類されるしもふりも悠々と入れるほどの穴だった。
「いきなさい、しもふり!」
『ガアアアアッ!』
レティの号令でしもふりが飛び込む。俺たちが背中から飛び降りたことで身軽となった機獣は、まさに獅子奮迅の戦いぶりを見せつけた。慌てて迎撃し始めるエルフっぽい形の人形を突き飛ばし、噛みつき、押しつぶす。久しぶりに最前線での戦いに参加できたとあって、本人も嬉しそうだ。
「さあ、こっちもいこうか。“
機獣は一頭だけではない。一気呵成に雪崩れ込む小型の蜘蛛型ロボットは、瞬く間に列柱神殿の奥へと駆け抜けていく。敵との戦闘は避け、できるだけ奥へ奥へと。その尾部から細い糸を伸ばしながら、分岐のたびに半分ずつへ分かれながら突き進んでいく。
「なるほど。規模としては思ったより広くはないんだな」
突き当たりに辿り着いた蜘蛛から、続々と準備完了のサインが送られてくる。最奥に辿り着けたか、もしくは敵によって損害を受けて行動不能となるか。全ての蜘蛛たちがそのどちらかで動けなくなったタイミングを見て、俺は起動する。
「『
俺の手元に束ねられた蜘蛛糸に火が灯る。それは激しい火花を噴き上げながら、勢いよく燃え進んでいく。その向こう――列柱神殿の最奥に辿り着いた本体に向かって。
より正確に言うならば、本体に内蔵された乾燥花弁粉末火薬製爆弾に向けて。
「全員、崩落に備えとけ」
「やっぱりやってること無茶苦茶だよねぇ」
ラクトに呆れられながら、俺はいそいそとヘルメットを装着する。クロウリ特製の頑丈なものだ。たとえ隕石が落ちてきても頭だけは無事に残るらしい。
全員が黄色いヘルメットを着けたあたりで、通路の奥からくぐもった爆発音が響きはじめる。列柱神殿の奧に辿り着いた蜘蛛が爆発しているのだ。しかも、その爆発はより効果的に周囲の敵を殲滅する。
「いやぁ、非破壊オブジェクト様々だな。順調そうで何よりだ」
当然ながら、爆弾には物質系スキルの効果は付与されていない。原始原生生物由来の非常に強力な爆発ではあるが、原理的に非破壊オブジェクトを破壊することはできない。では、どうなるか。列柱神殿の壁にそって爆発の衝撃は広がり、神殿内部を焼き焦がしていく。
次々と爆発が巻き起こり、時には複数の衝撃が相乗して広がる。それらは絶対に壊れない壁を舐めるようにして進み、周囲の敵を巻き込んでいく。
「それでもって、ここが本命みたいだな」
もっとも長く糸を伸ばした蜘蛛。つまり、入口から最も遠い場所にやってきた蜘蛛が最後の爆発を起こす。それによって可動ギミックが破壊され、壁の向こうに隠された何かが現れる。蜘蛛に搭載したセンサーが爆発の直後に周囲の環境の変化を捉えた。部屋が急に広くなったのだ。
そこが当たりの部屋であると目ぼしを付けて、俺は焦げ臭い通路をゆっくりと歩き出した。
「あ、悪魔の所業……」
「何言ってるんだ。バアルはフレンドリーファイア制限の対象内だから無傷のはずだぞ」
「そんなこと言ってないよ!」
震えるシフォンに首を傾げながら。
━━━━━
Tips
◇
内部に強力な乾燥花弁粉末火薬式の爆弾を備え、自走する移動型爆弾。導火線となる糸を伸ばしながら、センサーによって分岐点を検知しながら最奥に向かって進む。導火線の終端に火をつけられることで爆発し、周囲に甚大なダメージを与える。
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