第1677話「星降る戦場」※
「ほぎゃーーーーーーーっ!? なんなんですの、このデタラメな攻撃は!?」
流星が降り注ぐ。巨大な百足が身を揺るがせば、無数の脚から伸びた鎖が天頂を引いた。落ちてくる星は凄まじい光を宿し、レーザーのように鋭く落ちてきた。次々と着弾する流星群を必死に避けながら、テファが悲鳴を上げる。
『この鎖は全て破壊できるようです。そうすれば、この攻撃も少しは落ち着くかと』
「いったいどれだけ手間が掛かるんですの!?」
バアルは手に持った刀と、背中の翼に備えた六本の剣を合わせた七刀流を駆使して凄まじい連撃を仕掛ける。彼女の猛攻によって百足の脚に繋がる鎖が砕け、流星がひとつ減った。
とはいえ状況に対しては焼石に水と言うほかない。百足の名の通り、その脚は無数にある。
「ええい、面倒くさいですわね!」
テファは逃げ惑うばかりでは埒が明かないと考えた。折りしも流星群が落ち着いた空隙である。機装剣ダインスレイヴを構え、真紅のドレスアーマーを翻して敵へ飛びかかる。
「『時空間線状断裂織切断技法』ですわ! 『サウザンドスラッシュ』ですわぁあああっ!」
繰り出したのは全てを断ち切る異常現象。彼女は物質系に分類される〈切断〉スキルのレベルを上げていた。非破壊オブジェクトを破壊する、という非常に強力な特殊効果を剣に付与し、目にも止まらぬ連撃を放ったのだ。
バアルの七刀流にも迫る勢いでダインスレイヴが振るわれ、一撃で鉄鎖を破断していく。
「おほほほほほほっ! どんなもんじゃい! これがお嬢様の優雅なやり方ですわ!」
◇リスナーあんのうん
さすがテファ姉!
後先まったく考えてないな!
◇リスナーあんのうん
物質系スキル、反動かなりあるんだよな?
◇リスナーあんのうん
効果虫の消費LP3倍、LP急速減少、攻撃ヒット時ダメージの1/3を反動で受ける。
だったかな
◇リスナーあんのうん
テファ姉のLPカッツカツになってて草
「ゴクッ、ゴクッ! ぷはぁあああっ! 減ったLPは血液と一緒に回復ですわ! ついでに、この方はドレインできるようですしねぇええ!」
輸血パックを握り潰すようにして飲み干しながら、テファは休む間もなく動き出す。
「『ブラッドバイト』ッ!」
彼女の愛剣ダインスレイヴ。装備条件として〈剣術〉スキルに加えて〈操縦〉スキルも必要とする機械仕掛けの両手剣である。見た目以上の重量を誇り、腕部に大量のBBを振り分けておかなければ、持ち上げることさえままならない。そんな重厚な紅剣には、ひとつの重要な機能が備えられていた。
テファの声と共に刃が百足の甲殻の隙間へと突き立てられる。深々と進み、確実に内部を抉ったそれは、ただダメージを与えるだけではない。刀身が脈打ち、赤黒い血液が吹き出す。
「かぁああっ! 力が漲って来ますわああああっ!」
鮮血を浴びたテファは『時空間線状断裂織切断技法』の影響で擦り切れそうになっていたLPを急激に回復させる。『ブラッドバイト』というテクニックによって敵の血液を吸収し、LPへと還元したのだ。
魔剣ダインスレイヴ。その刃は、より効果的に出血させられるように工夫が凝らしてある。
◇リスナーあんのうん
テファ姉名物血まみれ一気飲み
◇リスナーあんのうん
セリフは華金でビール一気したOLなんだけどなぁ
◇リスナーあんのうん
何回見てもビジュが最悪すぎる
◇リスナーあんのうん
吸血特化構成はやっぱ見た目がエグすぎるよ
調査開拓員テファのプレイスタイルは、近接中装剣士型と呼ばれる。そこに彼女は更に血液をパラメータとして加えた血剣士という独自のビルドを構築していた。自身の血液を消費するテクニックを多数揃え、輸血パックによる補給を前提として立ち回る。また、敵にも積極的に出血効果のある攻撃を繰り出すことで、その生き血を啜ってLPを回復させるのだ。
原生生物を相手にする以上、大抵の場合において出血は有効である。出血が多量となれば様々なデバフがかかり、動きも鈍くなる。その上、閾値を越えれば強力な割合ダメージも期待できる。
元々は〈手当〉スキルの使用中、出血を抑えるのに苦慮していた際に思いついたのが発端だが、彼女はそれを当初の予想よりもはるかに上手く活用できていた。
◇リスナーあんのうん
バアルさんもドン引きしてない?
◇リスナーあんのうん
悪魔よりも悪魔らしいなんて
◇リスナーあんのうん
血が好きなのは分かったけど、それならなんでオニにならなかったんだろう?
血酔状態の方が強いんじゃないの?
◇リスナーあんのうん
ヒント:下戸
◇リスナーあんのうん
姉さん、酒飲めねんだわ
「だぁらっしゃい! とにかく勝ちゃいいんですのよ!」
ブンブンと剣を振り回すテファは勢いに乗っていた。血酔状態ではないにも拘らず、次々と百足の脚を切り飛ばしていく。
鉄鎖そのものを狙うよりも、脚の付け根を飛ばした方が早いと気付いたのだ。
『……なるほど。テファ様もやり手の様子。では、こちらも足手纏いにならないようにしなければ』
バアルが眼鏡を押し上げた時、百足が再び身を震わせる。その振動が鎖を伝って星々へと広がり、光球が落ちてくる。バアルは六枚の翼を広げ、百足の元へと跳んだ。
『ソロモン家、家政戦闘術。冥怒流剣技、二の術』
七振りの刀を、一本に束ねる。
『――『
刃渡り5メートルを超える大太刀となった剣を水平に繰り出す。凄まじい斬撃が地面を舐めるように走り、その線上にあるものの高さを切り揃える。大百足の脚を、次々と。
ブチブチと痛々しい音と共に脚の鎖が千切れ、百足の悶絶する声が響き渡る。
バアルの刀はテクニックの反動によって再びバラバラになり、一定のクールタイムを要求する。だが、彼女は焦りを抱いていない。
「これで、終わりですわーーーーーーっ!」
大きく体勢を崩した百足の頭に向けて、少女が紅刃を突き込んでいた。
━━━━━
Tips
◇『ブラッドバイト』
原生生物の血液を吸収し、LPへと変換する。変換効率は血液の品質と自身の〈手当〉スキルレベルに依存する。
“敵すらも血肉とし、生き永らえよ。”
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