第1667話「空翔る戦い」
「はーもう、何やってんねん、レッジは!」
「ラクト、方言出てますよー」
「うっさーい!」
氷塊が次々と放たれ、邪神の腕を抉る。触れたところから冷気が侵食し、邪神の動きを制限していく。
「てりゃーーーーっ!」
「はああああああっ!」
そこへレティとLettyが以心伝心のコンビネーションでハンマーを叩き込む。レティのモジュール〈刻破〉とLettyのモジュール〈連理〉、二つの力が相乗効果を生み出し、凄まじい破壊力を発揮する。凍結した腕は木っ端微塵に砕け、邪神が悲鳴をあげた。
「今です、シフォン!」
「いくわよー!」
「はえええええっ!?」
卓越した連携によって、邪神のガードをこじ開ける。無数の腕を破壊し、二本の一際太く立派な腕を機能不全にし、わずかな隙間を作った。そこにエイミーが、白い毛玉を投げ込む。
ふわふわの尻尾をぶわりと膨らませて、悲鳴を上げながら邪神へ迫るシフォン。彼女は慌てふためきながらも、やるべきことをやる。
「しゃ、『灼熱の二連短刀』っ!」
ごく短い詠唱。生成される、機術製武器。シフォンの手に燃え盛る短刀が握られる。左右の手に一つずつ。さらに、それらに追随する空中に浮遊した短刀が一本ずつ。合計四本の短刀を、彼女は巧みに振り回す。
「はえええええっ! はえっ、はえやっ、はええんっ!」
自身へ迫る白毛玉を叩き落とそうと迫る黒い手を、次々と切り落とす。時に完璧なパリィを決めて高度と速度を稼ぎながら、一気に懐へ潜り込む。
「流石だねぇ、シフォンは」
「ああいう乱戦には彼女を放り込むのが一番手っ取り早いわね」
役目を終えたラクトとエイミーが後方でのんびり眺めている間にも、シフォンは八面六臂の凄まじい動きで攻撃を退けながら迫っていく。
「あははっ! 流石はシフォンさんですね。俺も負けてられません!」
シフォンに迫る腕の数を少しでも減らすため、アストラも剣を振るう。当たり前のようにキックパリィも併用し、まるで空を飛んでいるかのような華麗な姿だ。
若者の人間離れ。そんな言葉がエイミーの脳裏をよぎったその時。彼女の手をくいくいと引っ張る者がいた。
「エイミーさん」
「アイちゃんじゃない。どうかした?」
「私も投げてもらって良いですか?」
「ええ?」
やって来たのは騎士団の指揮を執っていたはずのアイである。彼女は赤い瞳に決意を込めて、エイミーを見上げている。その並々ならぬ思いを感じ取ったエイミーは、薄く笑って頷いた。
「仕方ないわね。でも、結構危険よ?」
『ちょっとエイミー!? わたしにはそういう優しさ見せてないんじゃい!? はえあっ!?』
優しい忠告の言葉に、パーティ回線で話を聞いていたシフォンが声をあげる。それを華麗に聞き流し、エイミーはアイに確かめる。
「危険は承知の上です。でも、あの腕を一網打尽にするには、高度が必要です」
「了解。じゃあ、投げてあげるわ」
手を伸ばすアイの両脇を抱えて、持ち上げる。タイプ-ゴーレムのエイミーがタイプ-フェアリーのアイを抱えると、その小柄さがより強調されるようだった。
「あんまり精密に狙い付けられないけど、いいかしら?」
「大丈夫です!」
エイミーの腕の中で、アイがむっと眉を寄せる。
そして――。
「せりゃあああああああっ!」
大声と共に全身の人口筋繊維を隆起させ、エイミーが力いっぱいにアイを投げる。勢いよく射出された妖精少女は、悲鳴ひとつあげることなく、空中で体勢を整えて――。
「キィィィィイイイアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!」
大爆音の金切り声をあげた。
「はええええっ!? はわわっ!?」
音は全方位へ、球形に広がる。空中であれば、より多くの目標を巻き込める。それは理想論的なものだが、アイは実現させた。無数の腕が千切れ、吹き飛び、木っ端微塵に消えていく。突然の爆音にシフォンは驚きながら衝撃波をパリィして高く飛び上がり、アストラは笑いながら斬撃で隙間を作る。
だが、邪神を守る無数の腕が全て消えた。
アイの指示を受けて待機していた騎士団が、矢を番え、詠唱を始める。副団長が身を挺してこじ開けた大きな隙間に向けて、最大火力を叩き込むため。
「総員――ッ!?」
アイに代わりクリスティーナが号令をかけようとした、その時。彼女の頭上に影が落ちる。何事かと見上げた彼女は、瞳を揺らす。
「っ! 総員、耐衝撃体勢!」
「ええっ!?」
土壇場での号令変更に困惑しながら、騎士団員たちは屈む。次の瞬間、凄まじい爆音と爆煙。衝撃が邪神の胸を貫いた。
「おっとと」
「はええええええっ!? せ、『セップクリバイバル』『パリィ』!」
アストラはくるりと空中バク転を繰り出して回避し、シフォンは涙目で短刀による自傷テクニックをパリィすることで僅かな無敵時間を生み出して凌ぐ。
「なっ、ミサイル!?」
「今度はいったいなんなの!?」
地上のレティたちもどよめくなか、一人が声をあげる。
『あ、あれは除草剤のミサイル! どうしてこんな所に!?』
「ウェイドさん!」
驚愕するのはウェイド。ここにあるはずのないものを目の当たりにして、困惑していた。
〈塩蜥蜴の干潟〉の方角から飛んできたミサイルは、そのまま邪神の胸に衝突して爆散している。だが、その内部からスノーホワイトがばら撒かれる気配はない。
誰もが爆煙の中を見つめる。
『うおおおおおおおおっ! パパ、出て来なさいっ!』
そして、黒々とした煙幕のなかから、純白の翼が飛び出した。
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Tips
◇衝撃波パリィ
衝撃波を受け流す高等技術。不可視の衝撃波に対して姿勢を正して、そのエネルギーを適切に受け流すのは非常に難しい。当然ながらその発生は少なくとも音速以上であり、咄嗟の判断力と凄まじい正確性が求められる。
“塵嵐のアルドベストで練習するといいよ”――とある白い狐娘の助言
“できるかっ!”――とある回避戦士の反論
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