第1581話「情報と支援物資」
「なるほど、俺たちと入れ替わるように幽霊船が」
「はい。その船も〈塩蜥蜴の干潟〉に向かって逆走を始めていたので、おそらく座標としては重なり合っているのではないかと」
SHIRATAMAを少しずつ切って食べつつ、アイが私見を述べる。彼女たちの持ってきてくれた情報と、こちらの情報。それらを照らし合わせて見てみれば、おおよその状況を把握することができた。
稲荷寿司でミイラ魚を釣り上げて攻撃をすると爆発し、その体液に包まれて船が沈む。そして沈んだ船は裏世界へと向かい、同時に幽霊船が表世界へ出現する。二隻の船は一対となり、同じ動きをするようだ。
「てことは表世界の方には、今のところ二隻の幽霊船が並んでるってこと?」
「おそらくは。こちらも確認は取れていませんが、状況としてはそう考えていいと思います」
クチナシ級の二番艦と十七番艦が並んで停泊しているということは、表世界では幽霊船二隻が同じように並んで停泊しているということ。ラクトの指摘に、アイは物憂げな面持ちで頷いた。
「私たちが
「もしかして、でっかい海蛇の幽霊って……」
「おそらく、ウチの霊術師が使役する霊獣ですね」
しおしおと萎れて頭を下げるアイ。
どうやら、騎士団が幽霊船に向けて繰り出した攻撃のうち、霊獣によるものがこちらにまで届いてしまったらしい。
「アイが悪いわけじゃないさ。というかむしろ、あの霊獣を倒してしまったわけで……」
「それはまあ、えっと……たぶん大丈夫です」
霊獣は使役するにも育てるにもかなりの手間を要する。アイもぎこちなく頷いてこそいるが、きっと霊術師本人のショックは筆舌に尽くしがたいものがあるのだろう。
何より問題なのは、表世界から裏世界を攻撃しているからか、調査開拓団規則の同士討ち禁止が守られていないのだ。〈霊術〉スキルによる攻撃のみとはいえ、調査開拓員同士で争う形になっているのはまずい。
「なんとかして表の方にも知らせられたらいいんだけど」
「幽霊船からはレッジさんたちの様子は何も分かりませんでした。単純に船の座標が一致しているだけですから」
「アストラが気付いてくれるか望みをかけるしかないか……」
せめて攻撃を中断してくれるだけでもありがたい。今の所は平和な状況だが、表の方ではどうなっているのか全く分からない。連絡もつかないし、ただ物理的な攻撃を試しているだけなら、こちらは感知できないのだ。
「船の動きが対応しているということは、二隻で協力してメッセージを残せないでしょうか」
紅茶で白玉を飲み下したアイが、そのままの勢いで身を乗り出す。
たしかに、俺たちが表世界に伝えられる表現はそれくらいだろう。なかなか妙案ではないだろうか。
「いいんじゃないか。例えばどんな動きを?」
「そ、そうですね……その、二人でハートマークとか……」
「却下です却下!」
「何考えてるの、まったく!」
何やら俯いて小声で呟くアイ。両隣に座っていたレティとラクトがすかさず反対する。
「できるかぎり簡単な図形で友好的なイメージを与えるものがよいのではという理由であって決して他意があるわけではないんですよ!」
「ええい、それならば船文字でウサギ大好きとか書いたほうが伝わりますよ」
「そっちの方が意味不明じゃないですか!」
アイは必死に弁明しているが、レティは毅然として対応している。
どんなアイディアを口に出したんだ……?
「あの子達は裏世界でも平常運転ねぇ」
「まったくですよ。まあ、ライバルたちが勝手に牽制しあってくれるぶんにはいいですが」
「うん?」
「はい?」
エイミーとトーカは我関せずといった様子だし、クチナシは隊長と何やら話し込んでいる。カミルは勝手に二番艦に移乗して船内の写真を撮りまくって騎士団員たちを困らせているし、もうしっちゃかめっちゃかだ。
「とりあえず〈塩蜥蜴の干潟〉の座標まで行こうかと思ってるんだが、どうだ? あっちならトヨタマもいるし、何か事態が動くかも知れない」
「それもそうですね……。こちらにも数人、三術系のスキル使いがいますので、一緒に見張りをした方が効率もいいでしょう」
さすが騎士団の二番艦ということで、設備の充実さはこちらの比ではない。専用の料理人や武器防具の整備士までいるのだ。ついでに物資まで少し融通してもらい、もうアイには頭が上がらない。
「いやぁ、アイにはいつも助けてもらってるな」
「そんなことないですよ。えへへ。こういう時は持ちつ持たれつですからね」
「じゃあ今度、何かお礼でもさせてもらうか」
「い、いいんですか!?」
軽い気持ちで言ったのに、アイは予想以上に激しく反応する。そのまま何やら考え込んだ彼女を見ていて、ふと思い出したのはラクトのことだ。
水族館深部の研究施設でシュガーフィッシュの研究を手伝ってもらった時にも、お礼をすると言っていた。ラクトからは特に要求もなかったからずっと引き伸ばしになっていたが……。
「今度、ラクトと一緒にどこか遊びに行くか?」
同じタイプ-フェアリーの二人だし、弾む話もあるだろう。俺は抜きにして楽しんでくれればいいのだが。
ともあれ、今はそれどころではない。とにかく〈塩蜥蜴の干潟〉の座標を目指すため、俺たちは二隻の船で再び動き出した。
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Tips
◇SCSデータキャリブレーション
同型のSCSを接続することにより、両者の航行情報を相互に処理し、より最適化された航行プログラムを構築することが可能です。通常のデータ連携に必要なもの以上のデータ通信強度を必要とするため、SCSデータキャリブレーションを行うためにはSCS同士を近距離に置くことが必要となります。
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