第1546話「謎の焼き菓子」※
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◇名無しの調査開拓員
あー、見てるだけで胸焼けしてくるな……
◇名無しの調査開拓員
おっさんと光ちゃん?だけ特別扱いかよって思ったけど、人によっては拷問に近くないか?
◇名無しの調査開拓員
実際拷問だろ。おっさん見てみろよ、ブラックダーク印の缶コーヒーをケース単位で消費しながらなんとか審査してるぞ。
◇名無しの調査開拓員
一応会場の方にも試食が配られるんだっけ?
◇名無しの調査開拓員
出品者が用意してくれた場合は試食も出てくるね。シフォンちゃんのマフィン食べたかったけど、あれは再現不可能らしいのでありません。
◇名無しの調査開拓員
試食はほんの一欠片だけだったりするけど、それでもちょこちょこ摘んでると胸焼けしてくるよ。エイミーさんとヨモギちゃんのゲロまずスムージーがなかったら倒れてると思う。
◇名無しの調査開拓員
やっぱNPWを食べようとするのが無茶なんだよなぁ
あれ角砂糖一つで50,000kcalあるんだろ? 普通に考えてぶっ倒れるしかないだろ。
◇名無しの調査開拓員
麻婆豆腐は美味いみたいだぞ
俺もスパイス系の料理は美味しく食べれてる
◇名無しの調査開拓員
それでも結局カロリーは変わらんし、NPWの甘さを打ち消すために激辛とかに寄ってるわけで。ちょうどいい塩梅っていうのはなかなか難しいねんな。
◇名無しの調査開拓員
ていうかおっさんはともかく、ウェイドちゃんと光ちゃんはなんで顔色ひとつ変えずに食べ続けられてんの?
◇名無しの調査開拓員
あの二人はもう、そう言う感じなんでしょ
なんならウェイドはまだ分かるけど、光はプレイヤーだろ。
◇名無しの調査開拓員
ウェイドのスイーツ友達ってことで審査員に誘われたらしいけど
これほど相応しいところ見せつけられたら反論もできんわな
◇名無しの調査開拓員
あれも一種の特異体質なのかねぇ
レティが無限に食べられるような
◇名無しの調査開拓員
似たようなもんだろうな
良し悪しはともかく、脳と体がリンクしてないっていうか。満腹中枢とかがVR上の刺激では反応しない体質というか。
◇名無しの調査開拓員
ちょっと羨ましい
◇名無しの調査開拓員
単純にコストかかるだけじゃない?とおもったけど、ゲーム内なら別にいいのか
◇名無しの調査開拓員
リアルにない味も出てくるから食べ歩きとかするだけでも結構楽しかったりするんだよなぁ
特に〈ウェイド〉は洋菓子系の出品多いし。
◇名無しの調査開拓員
コンペでも洋菓子系の割合デカいよな。
◇名無しの調査開拓員
さて、そろそろ次だな
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エントリーNo.99『大判焼き』
『えー、続いての作品の名前は――』
「ちょっとメル! エントリーの名前間違えてるじゃん!」
ウェイドが次なる作品の名前を読み上げようとしたその時、舞台の裏の方から激しい声が聞こえてきた。何やら数人が揉み合っているようで、ガタガタと騒がしい。
「いやいや。名前はこれが正しいんだよ」
「嘘でしょ!? ここは『回転焼き』に決まったはずでしょ!」
「三日月も何言ってるの? これは『今川焼き』なんだよ?」
耳をそば立てて聞いてみると、どうやら提出する作品の名前で揉めているらしい。その騒動はだんだんと大きくなっていき、やがてステージを隔てる壁がギシギシと音を立て始めた。
まずいと思って手を伸ばした矢先、審査員席後方の壁に亀裂が入る。
「うわああああっ!?」
バキバキバキバキッ!
凄まじい音と共に壁が割れ、倒れてくる。咄嗟にウェイドを拾い上げて退避するのが間に合ったが、もうもうと土埃が立ち上がってあたりは騒然とする。割れた壁の向こうから現れたのは――。
「や、やぁ、レッジ」
「ひぇええ!? ご、ごめんなさいごめんなさい!」
「これはちょっとマズいかなぁ」
白いエプロンに身を包んだ七人の少女たち。声を聞いた時点である程度は察していたが、その正体はアーツを主体とした機術師七人組である〈
『なななっ、何事ですか!?』
俺に小脇に抱えられたまま、ウェイドが驚愕している。当然だろう。突然ステージが倒れてきたのだから。
いつもは飄々としているリーダーのメルも今回ばかりはバツが悪そうな顔をしている。その隣で頭が振り切れそうなほど謝っているのは水属性機術師のミオだ。
「ごめんねぇ、レッジ。でもちょっと聞いて欲しいんだけどさ」
砕けた壁を押し除けながらライムが現れる。猫型のタイプ-ライカンスロープで、近接攻撃特化型という、機術師の中でも珍しいスタイルの調査開拓員だ。
「これ、私たちが作ったお菓子なんだけど」
皿に載せられた、直径10センチ強の丸い焼き菓子。ふんわりした生地を割ると、中にホカホカの粒餡がみっちりと入っている。
なるほどなぁ。
「ちなみにレッジは、このお菓子の名前は何がいいと思う?」
ライムの言葉により、メルたちの視線が一斉にこちらへ向く。
見たところ、メルは『大判焼き』派だが他の六人はそうではないのだろう。輪唱アーツという画期的な連携技を編み出すほど仲のいい〈七人の賢者〉だが、妙なところに地雷が埋まっていたものだ。
そしておそらく、回答次第では俺もその地雷原でタップダンスを踊る羽目になる。
「そうだね。ここはひとつ、ワシらとは
メルまで怪しい笑みを浮かべて……。これで大判焼き以外を答えたら猫のように噛みついてくるだろうに。
「ウェイド、なんとかならんか?」
『はぁ。ネーミングセンスには自信がないのでなんとも言えませんが』
困ってウェイドに助けを求めると、彼女はまだ審査されていない大判焼き(仮称)に目を向けた。
『とりあえず、カスタードとかチョコレートとか、餡子以外のバリエーションはありませんか?』
ぱくり、と大判焼き(仮称)を食べながらそんなことを言う。それはまるで、ガスが充満した密室に火のついたマッチ棒を投げ込むようにすら見えて――。
「大判焼きは粒餡だけに決まってるでしょ!」
「回転焼きは粒餡だけに決まってるでしょ!」
「今川焼きは粒餡だけに決まってるでしょ!」
「円盤焼きは粒餡だけに決まってるでしょ!」
「おやきは粒餡だけに決まってるでしょ!」
「二重焼きは粒餡だけに決まってるでしょ!」
「ベイクドモチョチョは粒餡だけに決まってるでしょ!」
その瞬間、七人の声が揃ってウェイドを吹き飛ばした。
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Tips
◇『名称未設定』
小麦粉ベースの生地に餡子を詰めて焼き上げたお菓子。もちもちとした生地の中にホカホカの餡子がたくさん詰まって幸せの味。名前を呼ぶと不幸せがやってくる。
“とりあえずおいしければOKです”――管理者ウェイド
“ポテトサラダを入れても美味しそうじゃのう”――指揮官T-1
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