第1504話「大戦の後に」

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FPO日誌


 このブログはVRMMO、FrontierPlanetをプレイしている一般のおじさんが惑星イザナミでの出来事をぼんやりと記していく日誌です。

 あまり有益な情報などはありません。

 攻略情報は公式wikiかBBSのほうがいいでしょう。

 上級者向けのものは「大鷲の騎士団(別窓)」や「ねこのあしあと(別窓)」へ。

 あくまでも、平凡な日常を淡々と記したものであることにご留意ください。


 メンバーからの許可を得たので、今後はバンド〈白鹿庵〉の活動日誌としても運営していきます。

 その一環で、本人らからの要望を受けて記事中の画像にあったメンバーのプライバシー保護編集を消しました。

 ゲーム内での問い合わせは〈白鹿庵〉リーダーのレッジまでお願いします。


#650「調査開拓員企画〈龍王の酔宴〉お疲れ様でした」


 みなさまいかがお過ごしでしょうか。先日は私が主催した調査開拓員企画〈龍王の酔宴〉が、紆余曲折はあったもののなんとか収束しました。途中からはほとんど公式のイベントのようにもなってしまって嬉しいやら恥ずかしいやらと複雑な心境ではありますが、皆様お楽しみ頂けましたでしょうか。

 このイベントによって、図らずともストーリーの細かな点も垣間見えたのではないかと思います。第零期先行調査開拓団に何があって、何を遺されたのか。まだまだ謎は深いですが、今後とも追究していきたいところです。


 ところで、〈龍王の酔宴〉によって管理者の中枢演算装置〈クサナギ〉に〈クシナダ〉というプラグインを追加できることが発見されました。ウェイドさんに与えられた〈クシナダ〉は“無尽のオロチ”の特性を情報的に処理したものということで、非常に高効率なエネルギー管理システムとなっているようです。

 この〈クシナダ〉は既にウェイド以外の各都市の中枢演算装置にも共有されたようで、各都市のリソース管理にもかなりの余裕が出たのだとか。イベント中は管理者兵装の生太刀や都市防衛設備などが大盤振る舞いで使われていましたが、その赤字分も〈クシナダ〉によって補填されることでしょう。


 なお、〈エミシ〉の方では大々的な砂糖生産が始まっており、ダイソン球ファームの拡張も特別任務として公開されております。こちら、まだまだ人手が足りないようですので、ぜひ腕に覚えのある方は奮ってご参加ください。


 ブラックダーク、クナド、ポセイドンの封印杭管理者組は、現在T-1たち管理者との情報共有を行っているようです。彼女たちと、またイザナギも第零期先行調査開拓団関連の情報を多く持っていると思われることから、彼女たちへのインタビューで今後の進展も変わってくるのではないでしょうか。楽しみですね。


 〈龍王の酔宴〉で行われたヴァーリテインのスパーリングですが、こちらは〈大鷲の騎士団〉さんの協力を受けてマニュアル化が進んでいます。手順を設定することで、今後は誰でも簡単にあの巨人オロチを呼び出せるようになるのでは、と期待されています。

 ヴァーリテインでは歯応えがないと感じていたプレイヤーの皆さんは、ぜひお楽しみに。


 なお、〈クシナダ〉導入によってリソース収支が正常化に向かっているとはいえ、イベントの傷跡は大きいようで、〈ウェイド〉では現在各種納品系任務が大量解放中です。こちらもお手隙の方はぜひ、積極的にご参加くださると嬉しいです。


 それでは、今日はこのあたりで。


 地上前衛拠点シード01-スサノオ商業区画の〈ネヴァ工房〉にて、私が監修したキャンプセット、DAFシステム、種瓶、罠各種が販売中です。換装パーツも“針蜘蛛”をはじめ、多数取り揃えてありますので、ぜひご検討下さい。

 海洋資源採集拠点シード01-ワダツミ商業区画の市場では、〈白鹿庵〉産の各種野菜、植物系素材、毒物を無人販売しております。ちょっとあの素材が足りない、なんて時には是非ご利用下さい。なお、販売品目は不定ですので、その点をご了承下さいませ。


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「っと、こんな感じでいいか?」

『そうですね。……はい、いいでしょう』


 確認もいただき、記事を公開する。早速PVがつき始め、コメントも書き込まれ始めた。全体としてはイベントに対する好意的な意見がほとんどだが、あまり参加した気分になれなかったという残念な指摘も多い。半分公式化してしまったとはいえ、やはり個人でイベントを主催するのは難しいと実感させられる。


『お、おお? おお! 早速任務の受注が始まっていますね。あなたのブログも、なかなか影響力あるじゃないですか!』

「そりゃどうも」


 ぴこん、と銀髪を揺らしてウェイド。町の任務管理システムに早速変化があったらしい。お褒めいただき光栄至極といったところか。

 キーボードをしまい、テーブルの向こうに座る少女を見る。イベント中はおっとり刀で追いかけてきたウェイドだが、今は落ち着いているし和解もしている。具体的にいえば、彼女が消費したリソースの回復計画の策定に助言をしたのだ。


『はー、これで一件落着ですね。おまんじゅうも美味しく感じますよ』

「昨日も山ほど食べてたじゃないか」

『なんですって?』


 ぎろりと睨まれ、肩をすくめる。オロチの〈クシナダ〉を適応させたウェイドは、超高効率のエネルギー管理システムを導入することができた。これにより、リソース消費の最適化ができるようになり、管理者専用兵装の生太刀なんかも稼働時間がかなり伸びたという。

 それだけでなく、今もテーブルの上に山のように積まれた饅頭を食べているウェイドだが、そのエネルギーをほぼ無尽蔵に貯蓄できるようになったという。


『またいつ生太刀の出番があるとも限りませんからね。普段から備えておかないといけません。もぐもぐ』


 とは本人の談である。食べたいだけだろ、と言ったら首が飛びそうなので抑えたが。


「他の都市も〈クシナダ〉は導入されてるんだろ? 全体的な収支はプラスじゃないのか?」

『むぐ。それはそうですけどね。〈ウェイドウチ〉の損失を補填と、〈エミシ〉のダイソン球ファーム拡大で、リソースは結局足りない状況なんですよ』


 リソースは足りずに困ることはあれど、余って困ることはない。あればあるほど、使い道も増えていく。だから〈クシナダ〉を導入したとはいえ、最終的にはあまり変化を実感はできないだろうとウェイドは予測していた。

 生太刀などの管理者兵装も今は長時間稼働できるようになったが、既に次世代の改造計画が動き出しており、結局数分間の稼働時間に落ち着くだろうとのことだ。


『そういうわけなので、あなたは安心して調査開拓活動に励んでください』

「はいはい」

『砂糖の開発でもいいですよ』

「ウェイドが食べたいだけだろう……」


 今作ってる砂糖でも原種と比べれば一粒で歯が溶けるほどの甘さだというのに。管理者というのは欲望に際限がない。


「師匠〜〜!」


 別荘の裏口の方から声がして、応える前にドアが開く。現れたのは木箱を三つ重ねて抱えたヨモギである。尻尾を振り振りやってきた彼女は、それを部屋の角に置いて額を拭う。


「ふぅ。お待たせしました! ご注文の品ですよ」

「おお、ありがとう。やっぱりこう言うのは本職に頼んだ方がいいもんなぁ」


 木箱の中にぎっしりと詰まっているのは、瓶詰めの栄養液だ。植物に与えるもので、農園で使うだけでなく種瓶にも封入する。前は自給自足していたが、やはり〈調剤〉スキルの本職に頼んだ方がいいものができる。


「むっふぅ。師匠のためならちょっぱやで仕上げますよ」

「いつも助かるよ。さすがヨモギだ」


 胸を張って誇らしげにするヨモギ。実際に助かっているから、思う存分褒めちぎる。

 そんな様子を側から見ていたウェイドが、頬杖をつきながら口を開いた。


『ヨモギさんは〈白鹿庵〉には入らないんですか? もう随分馴染んでいる気がしますけど』


 ヨモギは出会ってまだ間もないといえばその通りだが、〈龍王の酔宴〉もありかなり馴染んでいる。何より、俺のスキルビルドを参考にしてくれているというのが嬉しい。だから、俺としてもぜひ〈白鹿庵〉に呼び寄せたいのだが……。


「レティがな……」

『そういえば、今日も姿を見てませんね』


 ウェイドが不思議そうに周囲を見渡す。レティがここ数日、というか〈龍王の酔宴〉の直後からログインしていないのだ。特にメッセージに返信もなく、何をやっているのかも分からない。ラクトたちも、少し心配している。

 サブリーダーのレティの承認がないと、新メンバーの加入もできない。別にラクトとかトーカにサブリーダー権限を渡して承認してもらうという裏技もないわけではないが、レティ立ち合いの下で迎えた方がヨモギも馴染みやすいだろう。


『まあ、そのうち戻ってくるんでしょう?』

「たぶんな」

『なら気長に待つしかないですね』


 そう言って、ウェイドは砂糖を溶かし込んだコーヒーを美味しそうに飲み干した。


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Tips

◇薄桜糖

 地上前衛拠点シード01EX-スサノオの管理するダイソン球ファームで開発された新たな砂糖の品種。ピュアホワイトの1000倍の甘味が特徴だが、現在は安定した大量生産方法は確立されていない。名前の通り、ほんのりと薄い桜色を帯びた綺麗な砂糖である。

“目標は日産500tです。頑張りましょう!”――管理者ウェイド


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第31章【貴方に愛の告白を】完結です。

明日から第32章開始です。よろしくお願いします。

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