第1487話「姉妹の絆」
『死ねぇえええっ!』
銀閃がまたたく。斬撃は尾を引き、繰り出された龍の頭を叩き割る。絶叫と共に腕が裂け、燃えるような激痛が肩を駆け登った。
果敢に飛び出したウェイドは、身体能力のリミッターを全て解除したのか、凄まじい脚力を発揮する。龍の首を一太刀で切り落とし、止まることなく走り続ける。
「本当に殺そうとしてないか!?」
『当たり前でしょう! バカは一回死なないと治りません!』
予想よりも随分と火力と殺意がマシマシになっている。俺は急いで切られた腕を再生させながら、残る七本の龍頭をウェイドに差し向けた。
『再生能力とは、厄介ですね!』
「おかげさまでな!」
元々、ヴァーリテインは素晴らしい再生能力を持っていた。多少頭を落とした程度では、すぐに回復してしまう。彼と融合を果たしたことで、俺もその力を実感することができている。その上で、予想外のことも起きていた。
『せぇええいっ!』
一刀両断。快刀乱麻を断つ勢いで、ウェイドは龍の首を切り落とす。だが滑らかな断面でピンク色の肉が蠢き、骨が生え、筋肉がまとわりつき、神経と血管が通い、眼球が現れる。ものの数秒で龍の首が再生し、咆哮を上げる。
ビリビリと空気を震わせるそれは十分な威圧感を持ち、管理者の足さえ一瞬鈍らせる。
『その再生速度、単純にヴァーリテインのものを継承しただけではありませんね』
「よく分かったな。俺のスキルも多少噛んでるらしい」
ヴァーリテインと融合し、何やら奇妙な形の巨人になってしまった。体を動かすのも一苦労で、元々の機動力は無くなったと言っていい。だが、その代わりとして俺と龍の力が統合された。
彼の再生能力に、俺の〈生存〉スキルが加勢したのだ。生存を求めるという、いまいち詳細のわからないスキル。それでいて、時折重要そうな役割を果たす謎の存在が、今回も頭を覗かせた。
「今の俺は、多少の被弾は無視できるぞ」
生太刀の凄まじい破壊力を孕んだ斬撃を受けてなお、回復力の方が上回っている。
俺のHPバーでも見たのか、ウェイドは唇を噛んで睨みつけてきた。
『それなら――』
大太刀を俺の腕に突き刺す。彼女はそのまま、刃を滑らせて腕を駆け上る。
『回復が追いつかないくらい斬るだけです!』
「ふはははっ!」
だが虚しいかな。彼女が刃を入れた傷は、数秒後には治ってしまう。どれだけの攻撃を加えようと、結果として俺は全く傷付かない。
「無駄だよ、ウェイド。お前に俺は倒せない!」
『やってみなければ分かりません!』
勢いよく声を発し、彼女は太刀を振り回す。スキルレベル300の流麗な太刀捌きで、俺の体は瞬く間に細切れにされる。
だが、数秒後にはまるで時を戻したかのように跡形もなく癒える。
管理者専用兵装の稼働限界も近い。そうなれば、今度こそウェイドに勝ち目はなくなる。
『はぁ、はぁ……』
「諦めろ、ウェイド!」
『諦める――もんですかっ!』
彼女の覚悟はよく分かった。称賛の拍手さえ送りたくなる。だからこそ、余計に哀れだった。俺とヴァーリテインが融合したことで、その力は凄まじいものとなっている。無限の力が体内を巡り、心臓が強く拍動している。
ウェイドはよくやっている。――だが、絶対的に力が足りない。
「それじゃあ、こちらから行くぞ」
『っ!』
甘んじて攻撃を受けていたのは、それだけの余裕があったからだ。このまま、彼女の武器のエネルギーが枯渇するまでじっと立っていれば、それだけで決着はつく。
だが、それではやりきれないだろう。俺も彼女に立ちはだかる者としての義務がある。
「ちょっと熱いぞ。――『黒炎旋風』ッ!」
『きゃあああっ!?』
八つの龍が一斉に黒い炎を吐き出す。周囲に振り撒かれた猛火は、次々と大地を燃やす。ヴァーリテインの炎と俺の風。二つが合わさることで、広範囲への殲滅攻撃が実現した。
ウェイドもこれにはたまらず悲鳴を上げて逃げ惑う。
「遅い遅い! もっと必死に逃げないと捕まるぞ!」
俺自身、巨人の身体は緩慢で動きにくい。とても機敏とはいえない。しかし、八本の首はその並外れた再生能力を用いて、強引な伸縮を可能とする。身体の代わりに龍の頭が、ウェイドを追いかける。
鋭く尖った牙がずらりと並び、ウェイドを狙う。いかに高耐久な管理者機体といえど、龍の顎に捕えられれば一巻のおわりだ。彼女もそれを理解して、必死に逃げている。
「ふはははっ! どこへ逃げようと言うんだ!」
『くっ、このっ!』
炎は凄まじい勢いで広がっている。ウェイドは瞬く間に逃げ場を失い、追い詰められる。
龍が彼女へ食らいつく。
『――ぁああああああああああああっっ!』
「ぐわぁあああっ!?」
その時、空から少女が降ってきた。
長い黒髪を靡かせ、銀の太刀を携え。流星のごとく現れた彼女は、龍の首を一刀両断。ウェイドに牙は届かない。
「なっ、まさか、スサノオか!?」
『あぅ。――ウェイドは、渡さない!』
腰が抜けて座り込んだウェイドの前に立ち、こちらに剣の切先を向ける少女。瞳が真っ直ぐに睨みつけてくる。
地上前衛拠点シード01-スサノオの管理者、その名もスサノオ。
轟々と上空でエンジン音が響いていた。どうやら、空路で駆けつけたらしい。
『スサノオ、どうして……』
『あぅ。妹を助けるのは、お姉ちゃんの、役目だから』
驚くウェイドに、スサノオははっきりと明瞭に答える。
そして、彼女だけではない。
『随分賑やかなことやってはりますなぁ』
『ったく、観戦に徹しようと思ってたんだけどな!』
キヨウ、サカオ。
『アタシらは場違いなんじゃねェのか?』
『姉さん! 管理者同士助け合わないでどうするっすか!』
アマツマラ、ホムスビ。
『ところでウチのお姉さんはどうしたんですかねー?』
『ひぇぇ。なんか、町の方で騒動が起きてるみたいですよ……』
ミズハノメ、ナキサワメ。
『あ、あなた達……』
管理者総勢七人が飛び降りてきた。彼女達は一様に、その手には銀に輝く大太刀を構え、こちらを見上げている。
『さぁ、レッジ。これでも余裕を見せられるかい?』
アマツマラの好戦的な挑発に、俺は余裕を持って笑いを返す。
「もちろん。龍の首は八つ。これで互角といったところだろ?」
八人の管理者。
八頭の龍。
決戦の時は近い。
━━━━━
Tips
◇緊急応援要請
発信者:シード01-ワダツミ〈クサナギ〉
対象:〈クサナギ〉各位
Mayday! Mayday! Mayday!
管理者ウェイドが劣勢に立たされています! 管理者各位は彼女への支援を行ってください! 私はちょっと、反乱が……。とにかく急いでください!
Now Loading...
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます