第1452話「支援物資到着」

「――というわけで、イベント中の指揮はクリスティーナに任せます」

「ええーーっ!? 副団長いないの?」

「クリスティーナだと指示が全部突撃になっちゃうよ」

「そんなわけないでしょう! 私だって、ちゃんと戦術立案くらいできます!」


 〈大鷲の騎士団〉の団長と副団長がまとめてタスクフォースの方へと移ることになり、騎士団内部では指揮系統の調整が行われていた。アストラはスタンドプレイを基本にしているということもあり、気心の知れた銀翼の団のニルマ達の肩を叩くだけですんなりと済んだが、問題は第一戦闘班を率いるアイである。

 直属の副官であるクリスティーナに指揮権限が移譲されたが、当然のように部下達からはタコのように唇を尖らせる。


「まあ、副団長も愛する男のために動くんだもんね」

「なぁっ!? ちょ、そ、レッジさんはそういうんじゃないですけど!」

「あれー、私別に、レッジさんとは言ってないけど」

「〜〜〜〜〜っ!」


 ともあれ、第一戦闘班も精鋭である。平時から指揮官クラスの喪失を想定した訓練なども行なっており、不満を挙げつつも断固拒否というわけではない。むしろ、副団長の少女らしい一面が垣間見れて役得といった様子だ。

 年上の騎士たちにからかわれたことに気が付いたアイは、後をクリスティーナに任せて騎士団の詰め所を飛び出す。


「レッジさんによろしくねー」

「イカは私たちに任せてください!」


 姦しい声援を背中に向かったのは、〈ミズハノメ〉の港湾区画に臨時で建てられたテントの一つ。レッジ救助隊の本部だ。作戦立案のため海図が広げられた大きなテーブルを囲むのは、ウェイド、T-3、ブラックダーク、クナド、コノハナサクヤ。ウェイドは救助隊の責任者であり、他の管理者たちは彼女が引き抜いてきたメンバーだ。


「騎士団の引き継ぎが終わりました。お待たせして申し訳ありません」

『こちらこそ、無理を言ってしまいました。――ですが、こちらの活動も〈特殊開拓指令;暴嵐に輝く発光〉に寄与するものです。ご協力に感謝します』


 騎士団の要であるトップ二人を引き抜いたことを悔ているのか、ウェイドは申し訳なさそうに柳眉を下げる。


「私たちもレッジさんを助けたい気持ちは同じです。――な、仲間として!」

『? はい。アイさんの想いはよく分かっています』


 慌てて付け加えられた一言に首を傾げながらも、ウェイドは彼女を迎え入れる。


「とりあえず、全員揃ったかな?」


 アイが幕営に戻り、メンバーも揃った。声を上げたのは〈白鹿庵〉のアーツ担当、タイプ-フェアリーのラクトである。レティのメッセージを受けて、続々とバンドメンバーもログインしてきていた。Letty、トーカ、シフォン、ミカゲ、エイミーも勢揃いだ。


「師匠を助けるため、頑張りますよ!」

「……なんでヨモギまでいるんですか」


 ひときわ元気よく拳を上げたのは、大型犬のような垂れ耳が特徴的なタイプ-ライカンスロープの少女ヨモギ。ぴょこんと跳ねて、ばるんと揺れる彼女を半目で見るレティ。彼女の隣にはLettyもいた。


「弟子が師匠の窮地に駆けつけないわけがないでしょう! ……それに、あのワカメの品種改良にはヨモギもちょっと関わってるので」


 親指と人差し指を僅かに隙間を開けて示しながら、ヨモギがパタパタと耳を揺らす。


『その話、あとで詳しく聞かせてください』


 頭の痛そうな顔をしているのは原始原生生物担当の第零期組、コノハナサクヤである。


『本当はカミルも連れてきたかったのですが、メイドロイドには荷が重いと判断し、待機を命じています。インタビューの必要があれば、随時行なってください』


 ウェイドは“増殖する日干しの波衣”の方はコノハナサクヤに一人するようだった。ぱちんと手をたたき、場の注目を自らに集めると、早速本題に入った。


『我々の目的は調査開拓員レッジの捜索と救助です。現在もマークは続けていますが、かれこれ3時間ほど、ずっと海の真ん中から動いていません』


 通信監視衛星群ツクヨミによってレッジの現在地は捕捉されている。それはレティが彼の水没を確認した場所からほとんど動いていない。

 テーブルに広げられた海図の中央に、青いピンが置かれている。それがレッジを示すものであることは、周知の事実だ。しかし。


「問題はZ軸だよね」


 ラクトの指摘にウェイドが頷く。

 ツクヨミによって把握できるのは平面的な座標情報のみ。緯度経度の数値でポイントを指定できるものの、三次元的な深さは分からない。彼がいま、にいるのかは依然として不明なままだ。


『そのため、まずは現場へと急行しポイントを目視で確認します。各々、潜水装備の用意をお願いします』


 救助隊は〈ミズハノメ〉を出発し、ポイントへと向かう。暴嵐とイカの乱舞する海域でポイントまで至り、そこから潜水してレッジとの合流を目指すというのが、作戦の方針だった。


「潜水装備については、〈ビキニアーマー愛好会〉から最新型シャークスーツの提供を受けられました。そちらをぜひ使ってください」


 手を挙げたのはアイである。変態的なこだわりから超越した技術力を有する〈ビキニアーマー愛好会〉は、その名前と言動と日頃の行いがキモいことに定評があるものの、技術力だけは高く認められており、騎士団との関わりも深い。レッジ自身も度々技術的交流を行なっていることから、今回も協力を取り付けることができた。

 暴嵐領域近郊には深い海溝があり、そこには大量の鮫が生息している。それらを退けながら潜るためには、鮫を着る必要があった。ビキ愛の技術を集結させた装備は、基本的に心強い。


「一応、ビジュアルを見ても?」

「色々デザインは揃えてくれたようですが……」


 アイが合図を出すと、騎士団調達部の騎士たちがストレージボックスを運び込んでくる。ビキ愛から託された荷物だが、引き継ぎもあって彼女自身確認するのは初めてだ。


「どれどれ……。うわぁ」


 箱を開き、中を覗き込んだレティが口をへの字に歪める。彼女が摘み上げたのは、ほとんど紐の、扇情的な赤色の、完全な紐だった。


「水着ですらない……」

「これをアーマーだと言い張ってるの? バカなの?」

「キモいですね!」


 女性陣から非難轟轟である。これにはさすがのアストラも苦笑い、ウェイド達は反応に困っていた。


「待ってください。これは……最新式ビキニアーマーの試供品らしいですね。シャークスーツはこの下にあるみたいです」

「ま、紛らわしい!」

「試供品を一番上に持ってこないでよ……」


 紐は投げ捨てられ、その下に入っていた水着が取り出される。それもまた少々際どいものが多かったが、さっきの紐を見たレティたちは「これくらいならまあ」と感覚が少し麻痺していた。


「セパレート式の水着……」

「カラーリングも豊富ですねぇ」

「わたしたち、これから嵐の中に突っ込んでいくんだよね」


 赤や青といったカラフルなカラーリングの、一見するとおしゃれな水着である。しかし、そのステータスを見たレティたちは目を丸くする。ただの布と紐の集合体にも関わらず、最新鋭の重装鎧に匹敵するほどの防御力、さらには水圧耐性や水中呼吸バフまで付いているのだ。


「レッジさん救出ということで頑張った、と書かれてますね」


 箱の中に同封されていたメモを読み上げるアイ。


「ほんと、ビキニアーマー関連だと頼もしいよね」


 めちゃくちゃに高性能な水着、むしろ陸上でもメイン装備として採用できるほどのアイテムに、女性陣は一様に微妙な顔をする。


「男物はこれかな?」

「にゃぁ……」

「……」


 しっかりとNPCも含めた女性陣の分が用意され、数少ない男性であるアストラ、ケット・C、ミカゲのために作られたと思しきシャークスーツも見つかる。出てきたのは、赤いブーメランパンツ、競泳水着らしきハーフパンツ型、そして黒い褌型。


「……」

「……」

「……」


 男性陣は絶句しながらも現在の装備と水着の性能差を天秤にかけ、それぞれまだマシだと思うものへと手を伸ばした。


━━━━━

Tips

◇作品No.494949“水霊降ろしの鰐衣”

 〈ビキニアーマー愛好会〉が作り上げたシャークスーツ。水中での戦闘能力向上を重視した最新鋭の技術の結晶であり、地上よりも強く戦える。結合する鮫の種類によって、様々な支援効果が得られる。

“水中こそビキニアーマーの本領発揮。人鮫一体となることで、我らのビキニアーマーも新たな領域へと至る”


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