第1393話「壊し屋二人組」

「どわーーーーっ!?」

「おっとと。大丈夫、レティ?」


 勢いよくポータルに飛び込んだレティたち。その向こうに広がっていたのは薄暗い工場のような場所だった。


「いたたた……。だ、大丈夫じゃないというか、潰れそうです」

「あら、ごめんなさい」


 突入の際にポータルの縁で足を引っ掛けてしまったレティはそのまま前のめりに倒れ、背中にエイミーが座る形になっていた。タイプ-ゴーレムの重量をもろに受けたレティは、呻き声を上げないように気をつけるだけで精一杯だ。


「とりあえず、ここが警備システムの生産工場ってことでいいのかしら」

「ふぅ。……そうみたいですね。ベルトコンベアだらけですよ」


 よろよろと立ち上がり、周囲を見渡す。レティの目はエイミーよりは多少だが夜目が効く。彼女の視界には縦横無尽に架けられた無数のベルトコンベアと、その両脇に並んだマシンアームが黙々と作業を続けている様が写っていた。

 ベルト上で次々と組み立てられているのは、レティたちも見覚えのある警備システムのようだ。つまり、ここがその生産工場であることは間違いない。


「ここをぶっ叩けば警備システムを一網打尽にできるというわけですか」

「機械屋にとっては宝の山でしょうねぇ」


 ベルトを流れる警備システムは高度な精密機械部品の複合体である。戦闘であれば破壊が免れないものもより取り見取りの取り放題で、価値を知る者なら涎を垂らして飛び込んでいるところである。

 彼らにとって悲劇なのは、ポータルを見つけて飛び込んだ二人が、そんなものに欠片も興味がなく、どちらかというと破壊活動に強く魅力を覚えるバーサーカーだったことだろう。


「じゃ、壊しますか」

「そうね」


 一切の迷いはなかった。

 ネヴァでも居れば土下座でもして必死に止めていただろうことを、二人は即決した。彼女たちにとってはぶち壊すことが一番。それ以外は二番にすらないのだった。

 レティがハンマーを構える。エイミーも籠手を握りしめる。その時、生産ラインを巡回していた警備システムが偶然彼女たちを見つけた。

 この場にいるはずのない不審者二人。データを照合し、最近このあたりを荒らしまわっている部外者の一味であることが分かる。


「あっ」

「あっ」

『ピピッ』


 三人の視線(?)が交差する。

 数秒の沈黙。

 直後――。


『ピピピピピピピピッ――』

「だらっしゃーーーーーいっ!」


 けたたましく鳴り響くアラーム。レティが慌ててハンマーで叩き壊すが、わずかに遅かった。警報は生産工場全域に響き渡り、異常状態を知らせる。動き出したのはラインの保全を担う警備システムたちである。


「ひゃあっ!? いっぱい出て来ましたね!」

「いいじゃないの。探しに行く手間が省けたわ」

「なんだかんだエイミーも大概ですよねぇ!?」


 ガシャガシャと重たい足音を幾重にも響かせながら四方八方から重武装した警備システムが飛び出してくる。レティとエイミーは口元に笑みを浮かべてその群れの眼前に踊り出る。

 特に楽しそうなのはエイミーである。普段は〈白鹿庵〉の盾役として拳盾を構えて敵からの攻撃を一手に引き受けている彼女だが、元々のプレイスタイルは機敏な動きで絶え間ない連撃を繰り出す格闘家である。日頃の鬱憤を晴らすように、豪快に拳で機械を叩き壊していく。


「ぴょわーーーっ!? ビーム! ビームですよ!」

「発生に2フレも掛かる技に当たれっていう方が難しいでしょ」

「エイミー!?」


 警備システムは様々な種類が存在する。チェーンソーを装備した近接型の背後に構え、重厚な砲台を動かしているのはレーザーを放つ遠距離型である。味方を巻き込むことさえ躊躇しない無慈悲な砲撃を、エイミーは軽やかに避ける。タイプ-ゴーレムの大柄な体格をものともせず、次々と薄闇に煌めく光条をすり抜ける。

 本来ならば射撃準備行動を見てから避けるなど常人の域を超えている曲芸だが、エイミーは息を吸うように易々と成功させていた。


「せいっ!」


 機械の群れに飛び込んだエイミーが、拳で金属装甲を破壊する。殴り飛ばされた砲塔型が周囲の機械を巻き込みながら吹き飛び、ベルトコンベアを破壊して爆散した。


「ふぅうっ!」

「テンション上がってますねぇ。――レティだって!」


 大きな声をあげるエイミー。彼女に対抗するようにレティも動き出す。ハンマーを機械鎚へと取り替えて、機械が密集しているエリア目指して飛び込む。


「『点火』ッ!」


 ハンマーヘッドに内蔵された機構が動き、火花が爆ぜる。それは急速に拡大し、空気を震わせる。

 薄闇に爆炎と衝撃波が広がる。波は凡百を押し除け、咆哮を突き上げる。

 爆薬が炸裂し、火炎が渦巻く。数百の警備システムと周囲のベルトコンベアが一瞬にして黒々とした瓦礫と化した。


「ひゃっはーーーっ!」


 使い物にならなくなったハンマーヘッドをパージし、新たなものへと取り替える。レティは凄まじい爆発を見せてくれた最新式の機械鎚に歓喜の声を上げながら、新たな爆撃ポイントを探して走り出していた。


「レティ、この壁薄そう。向こうに何かあるわよ!」

「なるほど! 任せてください!」


 点火。ドガアアアアアンッ!

 一切の迷いなく壁に叩きつけられたハンマーヘッドが火を噴き、鉄板で補強されていた壁――のように見えた巨大な装甲壁が吹き飛ぶ。向こう側に見えていたのは、生産工場とは打って変わって無数の金属筐体が整然と並ぶサーバールームのようなエリアだった。


「ここはなんでしょうね?」

「わからないけど、とりあえず壊せそうね」

「じゃあ壊しましょうか」


 相談というにはあまりにも稚拙だった。話し合うというよりも、お互いの意思が一致していることを確認するような。

 エイミーの拳が手近にあった筐体へと迫る。その時だった。


『や、ちょっ、まっ、やめろおおおおおおおおおっ!!!!!!』


 まるで喉元にナイフを突きつけられたかのような悲痛な叫びが響き渡った。


━━━━━

Tips

◇砲塔型警備システム

 耐荷重に秀でた重厚な四脚を備えた大型の警備システム。大型のレーザー砲台を搭載しており、圧倒的な射程と破壊力によって一方的な蹂躙を可能とする。警備システムのメイン火力として活躍する強大な存在である。


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