第1392話「うごめく機械兵」
レティとエイミーはウェイドからの特別任務を受けて〈エウルブギュギュアの献花台〉第五階層へとやって来た。待ち構えていたのは管理者となったオトヒメと、エルフの姫オフィーリアの二人である。レティたちを迎えた二人は、早速都市開発で直面している課題のひとつを提示した。
それが塔内部を徘徊する暴走した警備システムの撃滅だった。
「『メガトンスタンプ』ッ!」
勢いよく振り下ろされたハンマーが鋼鉄の殻に包まれた警備システムを破壊する。その余波は地面を陥没させるほどで、凄まじい威力が窺える。だがレティは潰れた敵を一瞥もせずに飛び上がり、物陰から飛び出してきた別の敵を殴り飛ばした。
「ひゃあ、個々はそれほど硬くないですが、とにかく数が多いですね」
「全くだわ。――『ネイルフィスト』ッ!」
レティの背中をカバーするのは、珍しく拳盾ではなく攻撃的な籠手を着けたエイミーだ。二人での行動ということもあり、盾役というよりも正統派格闘家として装備を調整していた。
エイミーの拳が装甲にめり込み、内部の金属パーツが弾け出る。
〈エウルブギュギュアの献花台〉の各階層には、統括制御システムの置き土産とも言える暴走した警備システムが残されていた。塔の制御系統から隔離され、暴走状態で独立している警備システムは、管理者たるオトヒメにとっても悩みの種である。
ゆえにレティのような戦闘に秀でた調査開拓員に向けて、その殲滅任務が出されている。
「ま、それなりにお金にもなりますし、ありがたいですけどね」
レティのハンマーが新たな警備システムを破壊する。放電と共に爆発四散するロボットからは精密機械部位品が手に入る。生産系スキルで作製できるものの手間がかかるこれら汎用素材は、市場に持っていけばそれなりの価格がつく。
都市としてもリソースが増えるのはありがたいため、まさに一挙両得なのだ。
「ふはははっ! どんどん狩りますよ!」
レティが景気良くハンマーを叩きつける。その振動を察知して、廃墟の影に潜んでいた警備システムがわらわらと飛び出してくる。一種の永久機関のようなものが完成していた。
「それにしても際限がないわね。これ、満足したらECM煙幕で逃げるんでしょ?」
「そうですね。だいたい無限湧きらしいですし」
次々と現れる警備システムを倒し続けることに苦労はない。しかし延々と戦闘が続くのはいっそ単調で飽きも来る。武器も防具も少しずつではあるが耐久値が減少しているため、完全に永久に戦い続けられるわけでもなく、しばらくしたらECM煙幕という機械の動作を妨害するアイテムを使って戦場から離脱するのが定石だった。
しかし、エイミーはどこか不満げだ。その表情を見たレティは、すぐに察する。
「もしかして元を断とうとしてるんですか?」
「うーん。ここのドロップアイテムも重要なリソース源なんでしょ。でもまあ、気にならないと言えば嘘になるわね」
普段はレッジと同じく保護者側に立っていることの多いエイミーだが、実際のところは茶目っ気を見せる可愛らしさもある。笑みを浮かべるエイミーに、レティもそれならとハンマーを握り直す。
「じゃあちょっと探してみましょうか」
警備システムはどこからともなく現れるが、オトヒメたちの予測ではどこかに生産拠点のようなものがあると睨まれていた。それを探しに出かけるというのも一興だろう。
「実際のところ、まだ未踏破領域も多いんでしょ」
「統括制御システムがいろんなところに空間拡張しているせいで、オトヒメさんもまだ全部を掌握はできていないらしいですよ」
塔の管理権限の大半はオトヒメが取り戻したものの、暴走状態にあった統括制御システムが至る所に空間拡張技術によって隠しエリアのようなフィールドを生み出しており、その調査は完全にはできていない。今も多くの調査開拓員たちがオトヒメからの任務を受けて駆け回っているはずだった。
「いいわねぇ。隠しエリアなんてワクワクしちゃう」
「エイミーも案外そういうの好きですよね」
「アーケードゲームやってた頃は隠しコマンド探したりしてたのよ」
ウキウキと足取りも軽く、警備システムを殴り飛ばすエイミー。いつもよりもテンションの高い彼女の背中を追いかけて、レティも塔の奥へと進む。
隠しエリアは巧妙に隠されたポータルによって繋がっている。それを探すには高い〈鑑定〉スキルを用いるか、地道に調査してポータルから何かが出てくるのを見つけるしかない。
「警備システムはこのあたりからポップするんですけどね」
二人が向かったのは警備システムが湧き出してくる廃墟だ。地上街の中心地からも離れており、開発の手が及ぶにはまだしばらく時間がかかりそうな郊外である。この辺りを徘徊している警備システムは、今にも崩れ落ちそうな石造の小屋から出てくることをレティたちは発見していた。
「ポータルって見ただけじゃわからないんでしょう?」
「ですね。隠れて待つしかないですよ」
ポータルから警備システムが出てくる条件は分かっていないことがほとんどだ。ただ、堂々と待ち構えているところに現れるほど彼らもバカではないだろう。
レティたちは建物が視認できる位置で物陰に身を潜め、出現を待つことにした。
「こういう時はゴーレムだと辛いわね」
石塀に隠れるように身を縮め、窮屈そうにしてエイミーが口をへの字に曲げる。体格の大きなタイプ-ゴーレムの彼女は、隠れるだけでも一苦労だ。
「ちょっと失礼」
「むにゅぅ」
屈んだ拍子にレティの背中に立派な胸部装甲が押しつけられる。柔らかくも重量感のあるそれに、レティが呻き声を漏らした。
仮想空間での仮初の体だ。実際のエイミーがこのサイズではないことは知っているが、それでも十分にご立派だったこともしっかりと見ている。
「レティだって、ちょっとはあるんですからね!」
「何の話?」
対抗心を燃やすレティの虚勢に、エイミーは戸惑い首を傾げた。
レティの華奢な肩に手を置いて、エイミーはそっと外の様子を窺う。警備システムとの戦闘がなければ、地上街郊外は静かで落ち着いた雰囲気だ。青空の代わりに天空街が頭上に広がり、幻想的な光景となっている。
彼女たちが見張る小屋の中から警備システムが出て来たのは、それから数分後のことだった。
「出た!」
「走りますよ!」
それを認めた瞬間、二人は弾かれたように物陰から飛び出し走る。異常に気が付いた警備システムが腕を上げて威嚇するが、直後にハンマーと拳が襲いかかって木っ端微塵に破壊される。残骸を飛び越えて建物の中へと転がり込んだレティたちは、薄暗い壁際が揺らいでいるのを見つける。
「あれがポータルですよ!」
「入りましょ」
迷う暇も理由もなかった。二人は勢いよく飛び込む。壁に激突するかと一瞬不安がよぎり、目を閉じたレティ。彼女はぬるい水に飛び込んだような奇妙な感覚と共に、隙間の空間へと移動していた。
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Tips
◇警備システム
〈エウルブギュギュアの献花台〉内部を徘徊する正体不明の機械群。統括制御システムによって生み出され、管理者オトヒメの影響から逃れて活動している。様々な種類が存在するが、総じて調査開拓団に対して敵対的であり、破壊すれば高精度の機械部品が手に入る。
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