クリスマス記念SS2023
今日も今日とて農作業に精を出していると、管理者からの一斉送信メッセージが届いた。差出人はアマツマラ。件名には『〈準特殊開拓指令;極北の贈り物〉開催のお知らせ』とある。
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件名:『〈準特殊開拓指令;極北の贈り物〉開催のお知らせ』
From:管理者アマツマラ
To:everyone
拝啓
いつもお世話になっております。地下資源採集拠点シード01-アマツマラ管理者アマツマラより、調査開拓員の皆様に〈準特殊開拓指令;極北の贈り物〉開催の次第をお知らせいたします。
下記に詳細を続けますので、ご確認いただければ幸いです。
概要
作戦名〈準特殊開拓指令;極北の贈り物〉は地下資源採集拠点シード01-アマツマラおよび第一開拓領域〈オノコロ島〉第四域〈雪熊の霊峰〉にて実施される期間限定中規模作戦です。期間中、対象フィールド内にて特殊な原生生物が現れ、その狩猟が解禁されます。また、特定の原生生物から特殊なアイテムがドロップします。
調査開拓員各位は対象となる原生生物の狩猟を進め、アイテムを収集、または加工して期間限定の特別な報酬と交換することができます。
作戦期間中に狩猟が解禁される原生生物は以下の通りです。
・ユキハミ
・ユキノミ
・ユキカミ
・ユキノカミ
ユキハミは周囲の雪を取り込むことでユキノミに、同様にユキノミはユキカミ、ユキカミはユキノカミへと成長します。成長するほどに危険度が増すため、調査開拓員各位は討伐の際に十分に注意を払ってください。
狩猟解禁された限定原生生物を討伐することで、特別なアイテム“雪精の白玉”や“雪精の大白玉”“雪精の特大白玉”が手に入ります。これらは各種生産系スキルを用いることで加工できるほか、シード01-アマツマラの総合カウンターにて特別なアイテムへと引き換えることができます。
万が一、ユキカミがユキノカミに成長した場合、甚大な被害が予想されるため大規模な討伐計画が発動する可能性もあります。その際には奮ってご参加ください。
以上が〈準特殊開拓指令;極北の贈り物〉の概要となります。より詳しい情報に関しては各都市の総合カウンターにてお問い合わせください。作戦開始は本日正午となります。より多くの調査開拓員の参加をお待ちしております。
敬具
追伸
なお、作戦実施地点は零下の酷寒となっております。各人は防寒対策を厳にしてお越しください。シード01-アマツマラ内でも様々な防寒具を用意しております。
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「あいかわらず、アマツマラさんってメールだと人格変わりますよね」
「根が真面目なんでしょ」
別荘に戻ると、同じくメールを読んでいたらしいレティたちが早速準備を始めていた。レティはもこもこのファー付きフードのコートを着込んで、手袋やブーツも揃えている。ラクトもイヤーマフを着けて、体積もいつもの倍に服れていた。
「二人ともイベントに行くのか?」
「あ、レッジさん。こういうのは楽しんだもの勝ちですからね」
「クリスマスイベントとなると、わたしが行かないわけにも行かないでしょ」
レティは季節イベントも積極的に参加する性格だし、ラクトも氷雪系機術師としてやる気を見せている。かく言う俺もイベントに参加するために準備をしようとやって来たわけだが。
「れ、レッジも寒そうだし、これ、マフラーとか――」
『あっ、アンタもやっぱり雪山行くんでしょ。ほら、マフラー用意してるから。手袋も着けていきなさいよ』
「おお、カミル。ありがとうな。……ラクト、なんか言ったか?」
「なんでもないよ!」
カミルが倉庫から引っ張り出してきた防寒具を身につけて、こちらも準備完了だ。ついでにカミルも行かないかと誘ったところ、寒いところか嫌いと一蹴されてしまった。
「そうか……。雪山の方は豪雪地帯仕様のヤタガラスが走ってるらしいんだが」
『な、なによ。そんなにアタシを連れていきたいなら、まあ別について行ってあげないこともないわよ。どうせ暇だし』
最近はだんだんカミルの扱い方が分かった気がする。足取り軽くカメラを取りに行った赤髪の少女の背中を見送って、俺は彼女のぶんの防寒具を用意した。
その間にレティたちは各地に散っていた仲間と連絡を取ってくれて、現地で集合することになる。諸々の準備を整えて出発した頃には、もういい時間になっていた。
「ふおおお、さ、寒いですね流石に」
「だから窓閉めたほうがいいって言ったじゃん」
容赦なく冷気の吹き込んでくるヤタガラスの車窓を、ラクトが強引に閉める。雪山を猛烈な勢いで駆け上る列車は、雪を跳ね除ける除雪機を搭載した特別仕様だ。内部も暖房の設備が特別強力なものになっているとかで、カミルは俺たちを置いてどこかへ出かけてしまった。
「ほら、ラクト。ホットチョコレートだ」
「わ、ありがと!」
山頂付近は防寒具だけでは凌ぎきれない寒さと聞いて、ホットドリンクを用意する。ホットアンプルほど劇的な効果はないが、長時間にわたってじんわりと体を温めてくれる。
美味しそうにホットチョコレートを飲むラクトを見て、そういえばと足元を見る。俺の座席の下で丸まっている白い小鹿は、雪山でも相変わらずの毛皮一枚だ。
「白月は寒くないのか?」
そんなことを尋ねても、彼は呑気にあくびを返してくるだけだ。
まあそもそも深海でも宇宙空間でも構わず生身で付いてくる白神獣に何を言っても無駄なのかもしれない。それはそれとして、見ている方が寒いのだが。
程なくしてヤタガラスは山の中腹にある〈アマツマラ〉の駅に辿り着く。ホームに降りて振り返ると、大きな車体に分厚い雪がまとわりついていた。お疲れ様と労いながら中央制御区域に向かうと、そこにはすでに〈白鹿庵〉が揃っていた。
「あ、おじちゃん!」
「シフォンにトーカにエイミーに。勢揃いだな」
いち早く俺たちに気付いたのはシフォンだ。彼女の近くにトーカとミカゲの姉弟、エイミー、Lettyも揃っている。
「メリークリスマスだねぇ。もう続々と人が集まって来てるよ」
合流したシフォンがニコニコと笑顔で言う。世間は師走の真っ只中、彼女はテストが終わって一安心といったところらしい。実際、ヤタガラスから降りてきた人で周囲もごった返しているし、ずっとここにいてはイベントにも出遅れる。俺たちは早速外に出ることにした。
「うひゃぁ、寒いですね!」
外は視界が遮られるほどの猛吹雪だ。防寒対策を固めたレティも思わず悲鳴をあげて、冷たくなった耳を抑える。
クリスマスイベントは猛烈な吹雪の中で現れるという珍しい原生生物を倒すのが目的だ。いつもと比べてもフィールドの寒気は凄まじいし、あちこちから悲鳴が上がっている。
「ふふっ。この程度で根を上げるとはレティもまだまだですね」
「平然としてるトーカがヤバいんですよ。なんでいつもの着物姿なんですか」
「ちなみにLPはガリガリ削れてる。防寒具くらい着ればいいのに」
ブルブルと震えるレティに優越の目を向けているのは、寒々しい布一枚のトーカだ。平然としているもののデバフ自体は受けるので、猛烈な寒さでLPが削れまくっている。呆れ顔のミカゲは防寒仕様の忍装束という謎の装備で固めていた。
「レティさーん、ここは二人密着して暖をとりませんか♡」
「Lettyのためにホットアンプル買ってきましたよ」
「きゃああああっ!?」
最近のホットアンプルは激辛具合に拍車がかかってきているようで、一滴舐めただけでLettyが悲鳴をあげて駆け回っている。なるほど、寒さは忘れられそうだ。
「とりあえずこの吹雪の中でレアエネミーを探さなきゃいけないんでしょう。なかなか骨が折れるわね」
「うぅ。
雪山というのは傾斜や降雪もあって、普段からなかなか過酷なフィールドとして知られている。しかも生息している原生生物は気の荒い熊や巨大なトナカイなどで、どれもそのレベル帯の調査開拓員にとっては一筋縄でいかない相手ばかり。以前はこの山に棲む原生生物の装備を使っていたシフォンがげんなりとしている。
「まあイベントならなんとかなるだろ。カミル、はぐれるなよ」
『分かってるわよ!』
俺の側には防寒具をこれでもかと着込んで雪だるまのようになったカミルがカメラを抱えて立っている。相変わらず白月は平然としているのも確認して、俺たちは雪山へと繰り出した。
とりあえず山頂に向かうほど吹雪は強くなり、限定原生生物の出現率も上がるらしいという情報をもとに、雪と風が容赦なく吹き付ける斜面を、腰まで埋まりながら進む。
「レッジさん、来ましたよ!」
先頭を進んでいたレティが叫ぶ。猛吹雪とはいえ、TELも併用しているため声はよく通る。彼女の合図で斜面を見上げると、ゴロゴロとボーリング玉くらいの雪が転がってきていた。
「あれがユキハミか」
「とりあえず倒してみましょうか!」
せいやぁ! とレティがハンマーを振り下ろす。雪玉に直撃し、パカリと割れる。中から飛び出してきたのは白いウサギだ。レティが再びハンマーで叩くとすぐに倒せる。〈解体〉スキルを使うまでもなく、“雪精の白玉(欠損)”が手に入ったようだ。
「ドロップアイテムが欠損してるの?」
「みたいですねぇ。うまく倒さないと壊れるのか、あるいは……」
「よくみたらどんどん転がってくるわね」
ユキハミはコロコロと転がってくる。斜面の下でそれをエイミーが迎え撃つと、やはり“雪精の白玉(欠損)”が手に入った。
「ふふふっ。こういうのは相手が斬られたことに気付かない速さで斬れば良いのですよ――せいっ!」
トーカの抜刀。目にも止まらぬ速さで繰り出された大太刀が雪玉を割る。ユキハミが転がり出て、“雪精の白玉(欠損)”が手に入る。
「な、なぜ……!」
「レティたちと同じじゃないですか」
愕然とするトーカ。レティがそれ見た事かと目を三角にしている。
「は、はええっ!? はえんっ!」
その隣ではシフォンが涙目でユキハミを叩き飛ばしていた。どうやらうまくパリィを決めているようで、ダメージは入らずに雪玉を斜面の上に戻している。当然また転がり落ちてくるのだが、シフォンはそれをパリィし続けるという無限ループに陥っているらしい。
哀れな狐娘の様子を見ていたエイミーが、あることに気付く。
「あれ、なんだかシフォンが転がしてるユキハミが大きくなってるわね」
「本当ですね。――あっ、名前がユキノミに変わりましたよ!」
雪玉を転がすと雪をまとわりつけて大きくなるように、ユキハミが少しずつ転がりながら大きくなっていく。じっと見つめて『鑑定』していたレティが、雪玉の名前が変わったことに気付いた。
法則性が理解された瞬間だった。
「シフォン、その雪玉を割ってください!」
「はええっ!?」
「ええい、横槍失礼!」
悲鳴をあげるシフォンを見かねてラクトがアイスランスを繰り出す。文字通りの横槍で貫かれたユキノミがぱかりと割れて、中から一回り大きなウサギが飛び出した。
「そのウサギを仕留めるんです!」
「は、は、はえんっ!」
シフォンが投げた短剣がウサギに直撃する。ぱたりと雪の上に倒れたウサギは溶けるように消え、シフォンのインベントリに“雪精の白玉”が入った。
「なるほど、そういうことですか……」
「雪玉を大きくすれば成長し、成長すればより上位の白玉が手に入ると言うことですね」
「餡蜜が食べたくなるわねぇ」
Lettyがひとり呑気なことを言っているが、イベントの基本的な進め方は理解できた。
となれば、あとは簡単だ。
「さあ、エイミー。やっちゃってください!」
「任せなさいな! ――鏡威流、一の面、『射し鏡』ッ!」
わざわざシビアなタイミングを狙ってパリィを繰り返す必要はない。反射の専門家であるエイミーが盾を構えていれば、そこに突っ込んできた雪玉が自動的に跳ね飛んでいく。数分も続ければ、十分な大きさへと成長するのだ。
「はっはーーっ! 収穫の時期ですよぉ!」
「斬るっ!」
あとは〈白鹿庵〉の物騒担当が自慢の得物で叩き潰せば、安定して白玉が手に入るという寸法だった。
しかしユキハミをユキノミに成長させる方法が確立されれば、その先に行きたいと思うのも自然な流れである。
「せっかくですしエイミー、限界まで育ててみませんか?」
「いいわね。やりましょっか」
いつもは縁の下の力持ちに徹しているエイミーも、久しぶりに主役を張れるとあって気合いが入ったらしい。レティの誘いにのってユキノミを成長させはじめる。
「そら、カミル。こういう自然の風景を撮るのも楽しいだろ?」
『ただの氷柱じゃないの。それよりあのスノーモービルを見に行きたいんだけど』
俺はカミルを連れて雪山の神々しい自然を撮影しようとしたが、カミルは他のプレイヤーが乗り回している機械の方にしか興味を向けていなかった。悲しいね。
「うん? どうしたんだ、白月」
そんなことをしていると、不意にコートが引っ張られる。見れば白月が裾を咥えていた。ヨダレでベショベショになるので慌てて離そうとするも、彼は頑なだ。そのうち、何やらどこかに誘導したいようだと気付く。
「もしかして白月も雪遊びしたいのか?」
彼もなんだかんだ言ってまだ子供だ。鹿もトナカイも同じようなもんだろうし、雪にテンションが上がってるのかもしれない。そう思って言うと、なぜかすんとされた。なんなんだコイツは。
とにかく付いてこいとでも言うように、彼は斜面を駆け上る。
「カミル、白月を追いかけるぞ」
『分かったわよ』
カミルと一緒に彼の後を追いかける。レティたちは楽しそうにボールを育てているし、少し離れてもいいだろう。
登るほど斜度を高めて壁のようになる雪山を登攀し、頂上へと向かう。白月は軽やかな足取りで先へ先へと進んでいた。
「白月、この先に何が――」
そろそろレティたちも心配するかと不安になった頃、ようやく白月が振り返る。彼が立ち止まったのは、山の頂上目前の地点だった。
そこに、普段はないはずの不自然な塊があった。高さ3メートルほどの巨大な雪の塊だ。白月はそれをツノの先でカリカリと掻いた。
「これは……」
近づいて調べる。ただのオブジェクトのようにも見えるが、なぜこんなものがこんなところにあるのか。
カミルが近づいてきて、同じように首を傾げる。
「何か分かるか?」
『さぁ。アタシは雪山にもほとんど来ないし』
それもそうだ。カミルはオブジェクトの周囲をぐるりと周り、特に変わった点がないことを確かめる。
『押したら動くかしら?』
「いや、俺たちだけじゃ無理そうだな」
レティたちならいけるかもしれないが、非力な俺たちでは梃子を使っても動かせなさそうだ。白月はこれをどうしたいのかと首を傾げていると、下の方から猛烈なエンジン音が聞こえてきた。
「ヒャッホー!」
「イエェハーーーッ!」
「うおっ!? さっきのスノーモービルか!」
勢いよく斜面を駆け上ってきたのは、さっきカミルが注目していた大型のスノーモービルだった。跨っている二人はテンションも最高潮で、大きな歓声をあげている。どうやらイベントなど関係なしに雪山を駆け回っているらしい。
「おーーい!」
彼らなら普段の雪山にも詳しいだろう。そう思って声をかけると、彼らもすぐにこちらに気付いてやってくる。カミルが露骨に目をキラキラさせてシャッターを切りまくっている。
「あれ、もしかしてオッサン? なんでこんなとこに?」
「バカおめぇ、イベントがあるからだろ」
「そういやそうだったか」
雪を蹴散らして俺たちの目の前に停止したスノーモービル。防寒具とグラスで素顔は見えないが、気のいい青年のようだ。
「すみませんね、突然呼び止めてしまって」
「いいっすよー。俺たち遭難者助けたりしてるんで」
ひとまず挨拶をすると、彼らも快く応じてくれた。少し安心しながら、俺は目の前のオブジェクトについて尋ねる。しかし、雪山に慣れた彼らもこれは見たことがないという。
「知らねえっすねぇ。よくわかんねっす」
「ちょっとぶっ叩いてみるか?」
「ちょっと力を貸してもらいたいんですが、いいですか?」
首を捻る二人に、作戦を持ちかける。まあ、作戦というほどのものでもないが。
『いいわよ、いい感じ! エンジンが唸ってるわ!』
「ヒャッハーーーー!」
「いくぜいくぜいくぜ!!!」
豪快に雪を蹴り上げるスノーモービル。結えたロームがつなげているのは、巨大な雪塊。凄まじい重量を誇るオブジェクトを、スノーモービルの大型BBエンジンが牽引する。
「せーのっ!」
「ヒョェエエエエエエイッ!」
「イエッヘェヤッホォオオオオゥっ!」
俺の合図に合わせ、エンジンの出力を上げる。スノーモービルの二人はエンジンを吹かせるだけでテンションが上がるのか、奇声も最高潮に達している。
『いいわぁ、美しい! セクシーなトルクだわ!』
その様子を、というかロープをピンと張り詰めてギシギシと音を立てるモービルに接写してカミルも恍惚とした笑みを浮かべている。
その時だった。
ごろ、と雪塊が動く。そのわずかな感触が、スノーモービルの二人にも伝わった。
「キタキタキタキタァァアアアアッ!」
「ホォアオッ! ヒョッキョエッシェエエエイッアッ!」
スノーモービルがフルスロットルに達する。
雪塊が、動き出す。
「転がるぞ! 逃げろ!」
「ピウオッキョエエエエエエエエエエッ!!!!」
「デエエエエエィアッショエエエエエッ!!!!」
ぶちん、とロープがちぎれる。スノーモービルは軽やかに飛び出し、カミルと俺と白月を拾って急斜面を滑り降りる。背後から、大雪塊が追いかけてくる。
「来たぞ、逃げろ逃げろ!」
「ピッピキュピーーーー!」
「ポエエエエエエエエエエエエッ!」
奇声がマジなレベルに入ってきたが、二人の連携は卓越していた。次々と迫る雪を被った岩を紙一重で避けながら、最高速度で斜面を駆け降りる。カミルが楽しげな悲鳴をあげてシャッターを切っている。
ちらりと背後を振り向くと、巨大な雪玉が転がってくる。
「ああ、そういうことか」
白月があれのもとに導いた理由がわかった。
彼なりにイベントに貢献しようとしてくれたのだ。ユキハミよりも更に大きな雪精を見つけたから、その元へと案内してくれただけだ。
「しかしまあ、ちょっと大きすぎるかもなぁ」
ゴロゴロと転がってくる巨大な雪玉。その大きさはどんどんと大きくなっていく。
あれは、ユキカミか。もしかしたらユキノカミかもしれないな。
『レッジさん!? レッジさん、今どこに、なんか頂上からバカでっかい雪玉が転がってきてるんですが!?』
レティから連絡が入る。
「あー、とりあえずアマツマラに伝えてくれ。早速レイド戦になりそう――」
『テメェゴラレッジお前何やってんだゴラァ! まだイベント始まって30分経ってねェぞゴラァ! 今すぐその雪玉止めろゴラァ!!!』
レティの通信に横槍が入る。怒号を飛ばしてきたのはアマツマラである。
「いや、これは俺のせいというわけでは……」
『責任は聞いてねェんだよ、とりあえずソレ止めろって言ってんだ!』
「ごめん」
『ゴラァアアアアアアアッ!!!』
「チョッゲップリュオラアアア!!!!!!」
「ドロロッチベリベリテイスティイイイイイイイイ!!!!」
眼前のプレイヤーたちが悲鳴を上げて、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。スノーモービル兄弟の奇声が最高潮に達する。
俺たちを追いかける超巨大雪玉は、決死の覚悟で隊列を組んだ土木作業用〈カグツチ〉軍団をボウリングのピンのように弾き飛ばした。
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「ふぅ、なんとかなって良かったなぁ」
超巨大ウサギ型エネミー、ユキノカミの大討伐レイドが勃発したものの、イベントはひとまず落ち着きを見せた。〈アマツマラ〉の一角に整備されたホット白玉餡蜜の配給所でレティたちも暖をとっている。
俺は焚き火の側で丸まっている白月の元へと向かい、彼に引き換えたばかりのアイテムを着けた。
「どうだ、可愛いだろ」
『ふぅん。ま、一枚くらい撮ってもいいかもしれないわね』
そう言ってカミルがシャッターを切る。
カメラに収められたのは、赤いケープを身に付けた、黒くてツヤツヤの鼻をした小鹿の姿だった。
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Tips
◇セイント・レッドケープ
聖なる夜を駆けるトナカイの防寒具。冷えた体を温めて、寂しい心に火をつける。贈り物を届ける君に、感謝を込めて贈るもの。
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