第1385話「飛び跳ねる魚」

 高速走行軌道列車ヤタガラス。調査開拓員によって敷設された大型の鉄道網であり、フィールド上を高速で移動することができる。大型の機獣や大量の資源を積載する貨車や特別料金を必要とする高級客車なども揃え、一部には熱狂的なファンも存在する。

 しかしRTA奏者にとってはただの足にすぎない。〈スサノオ〉の駅からヤタガラスに飛び乗った“あ”は車窓を流れる風景を尻目にインベントリの整理と購入したデータカートリッジのインストールを進めていた。


「“不屈の指輪”を装備することで、ギリギリですが獣狩りの槍+4の装備条件に届きます。“知恵の冠”はアーツの威力増強ですね。25KB以下の術式限定ですが威力15%アップは破格の強さです」


 カメラドローンに向かって説明しながら、アクセサリーを身につけていく。銀色のデッサン人形のような姿をしたスケルトン機体が衣服もないまま装飾品で着飾っていく様子はシュールだった。

 そのうちにヤタガラスは〈水蛇の湖沼〉に到着する。ここより先への進入権限のない“あ”は強制的に下車させられ、開拓はここから再開されることになる。

 第一開拓領域〈オノコロ島〉西方第四開拓領域〈鎧魚の瀑布〉だ。“あ”は湖沼に続き足に泥を絡める沼地をバックジャンプで進みながら、更にいくつかの移動テクニックを交えていく。


「『ポールジャンプ』は基本的に上方向へ飛び上がる時に使うテクですが、ギリギリまで斜めに倒せば少しだけ移動速度が早くなります。いわゆる√2走法と原理的には同じようなものと思ってもらっていいですね」


 地面を槍で突き、斜め前方へと飛び上がる。その一瞬だけ彼の速度が沼の鈍足効果から外れ、わずかに時間を短縮させるのだ。

 やがて彼はこのフィールド最大の見所とも言える大瀑布の縁へとたどり着く。


「最近はもう瀑布の下に降りるためのエレベーターまで整備されてるので、初心者でも安全に下層に行けるんですが……」


 轟々と飛沫をあげて濃霧を広げる大瀑布。その側には戦場建築士によって建てられた頑強なエレベーターや階段がある。このおかげで調査開拓員たちも苦労することなく滝の上下を行き来することができる。

 だが“あ”はわざとそれらから離れ、滝に続く浅い川の中へと踏み入っていく。


「ここは伝統的な落下で行きましょう。これもとある有名な方が発見した手法なんですが」


 “あ”は随伴していた攻撃ドローンを川の中へと差し向ける。内蔵された小型バッテリーからバチバチと電流が流れ、川底に潜んでいた巨大魚が目を覚ます。

 分厚い鱗に身を包む淡水魚、スケイルフィッシュである。

 挑発したドローンを追いかけて飛び出してきた怪魚は“あ”を見つけると大きく口を開けて襲いかかる。その動きを見た瞬間、“あ”は勢いよく走り出す。向かう先は瀑布の断崖だ。


「西方のエネミーはよく調査開拓員を丸呑みにするんですよね」


 大空に飛び出した“あ”を追いかけるスケイルフィッシュ。その大口が“あ”の下半身を捉えるが、二人を受け止める地面ははるか下方だ。


「『強靭なる意志』ッ!」


 落ちながら、“あ”はテクニックを発動させる。アクセサリー“不屈の指輪”の装備を条件とするものの、それ以外にスキルなどを求めない簡易的な食いしばり。一時的に“あ”の体力は1を下回らない無敵状態となる。

 “あ”とスケイルフィッシュは絡まり合いながら大瀑布を自由落下し、撮影ドローンと攻撃ドローンがその後を追いかける。


「えー、普通ならこの状態だと気絶するんですが『強靭なる意志』を発動中は各種異常への耐性もアップしてるので、ギリギリ意識は失いません。ですので落下しながらドローンに指示をとばして、先に攻撃をしてもらいます」


 落下中も冷静な解説を続ける“あ”は攻撃ドローンを操作してスケイルフィッシュを討伐する。


「落下ダメージ無効化の条件は“スケイルフィッシュに飲み込まれたまま落ちる”ことなので、半分以上の距離を落下した後は脱出しても大丈夫です」


 死亡したスケイルフィッシュを脱ぎ捨て、高い水飛沫を上げながら滝壺に落下。“あ”は即座に滝の裏側にある洞窟へと移動する。光のない入り組んだ洞窟だが、彼は迷うことなく先へと進む。何十回、何百回と繰り返した道は、目隠ししても走ることができた。


「さ、〈鎧魚の瀑布〉のボスですね」


 洞窟の奥に広がる地底湖。その湖底に沈んでいる巨大で老齢のスケイルフィッシュ“老鎧のヘルム”を呼び出す。

 静謐を保つ湖に“あ”は攻撃ドローンを突撃させる。簡易防水パーツを増設された先鋭形のドローンは躊躇なく水中に向かい――。


「来ましたね」


 ヘルムを釣り上げて戻ってきた。

 ドローン支援データパックによって基礎能力が大幅に強化された攻撃ドローンは、ボスエネミーの攻撃を掻い潜りながら巧みに誘導し、水面上へと誘導したのだ。


「獣狩りの槍+4は刺突属性、かつ鱗を持つ原生生物に対する特攻を持ち、更に弱点特攻Lv3が付いてきます。なので……」


 攻撃ドローンによるレーザー攻撃によってヘルムの鱗が剥がれ落ちる。露出した弱点に向けて、“あ”が『ストレンジショット』を叩き込む。高速で繰り出される最大四連の多段ヒット攻撃。弱点かつ特攻属性という効果が重複し、更にターゲット外からのダメージボーナスなども加算される。

 よって。


『シャアアアアアッ!?』


 ヘルムはあっけなく討ち倒される。

 白い腹を見せて湖面に浮き上がる大怪魚を一瞥し、“あ”は先を急いだ。


「いよいよ〈奇竜の霧森〉ですね。そこのボスが今回のチャートのファイナルラストボス、“饑渇のヴァーリテイン”です」


━━━━━

Tips

◇不屈の指輪

 比類なき勇気を示した者に与えられる指輪。決して折れぬ心の証。

 専用技『不屈の意志』が使用可能になる。

▶︎『不屈の意志』

 5秒間LPが1より減らなくなり、各種状態異常耐性がわずかに上昇する。


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